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ユキコさんの冷やし中華

 ある夏の日、街角の広場には賑やかな出店が立ち並び、子供たちがはしゃいでいました。その中で、ひとつの出店が特に人気を集めています。


 かき氷屋さんです。


 そのかき氷屋さんの前には長蛇の列ができており、日陰で待つ人々は冷たい氷を楽しみにしています。そこで働いているのは、元気いっぱいの若い女性、ユキコさんです。


 彼女は笑顔でかき氷を作り、お客さんに手渡しています。


 その日も、ユキコさんは手際よく細やかな気配りでかき氷を作り続け、列はどんどん進んでいきました。お客さんたちは美味しそうなかき氷を受け取って、喜びの声を上げています。


 不意に、突然大きな音が広場に響き渡りました。それはターボエンジンを搭載したレーシングカーが疾走する音でした。コースから遠く離れた場所にあるはずが、何故。


 普通じゃない事態が起きています。ターボエンジン全開でコースアウトし、今にも広場に突っ込もうとしているようです。


 ユキコさんもその音に驚いて顔を上げました。すぐにかき氷作りを中断し、キッチンカーの中から「かき氷印のハンマー」を掴み取ると、金網の向こうから猛烈な勢いで迫ってくる車両を見据えます。


 ひと塊の氷を転がし、細腕で身の丈を超えるほどの巨大ハンマーを振り下ろしました。


 ふわふわの氷が爆発的に広がり、ターボの勢いを完全に打ち消しました。


 繊細な白い氷の波に優しく包まれたドライバーは、焦りと悔しさで空を仰ぎましたが、そこにはユキコさんが差し伸べた手がありました。


「あたしはね、もう誰かが傷つくところなんて見たくないの」


 優しかった両親を幼くして失い、親の仕事だった氷屋から距離をとっていた彼女は、こんなにも優しい氷を生み出すようになっていたわけです。


 氷なんて見たくもなくなった時もありました。


 それでも彼女は強く美しく成長し、氷屋を畳み、かき氷屋を開業しました。


 柔らかな物腰と細やかなサービス。かと思えば豪快にハンマーで氷を掘り出し、自らキッチンカーの運転もする。


 そんな彼女が、冷やし中華をはじめるに至ったのは、自分には何かが足りないと思っていたからでした。


 氷に関わる仕事というのは、親の仕事を受け継いだものであり、自分自身がないのではないかと疑っていたわけです。


 どんなに心からの笑顔でサービス精神を発揮しようとも、彼女自身、乗り越え切れない欠損がそこにあるように思えてならなかったのです。


 そこでユキコさんは中華を作りました。


 そして、彼女に足りなかったのは芸術的ラーメンスープだったと気付いたのです。


 スープが生まれたことで、完全なユキコオリジナリティが、そこに生まれたのです。


「なにぃ、氷でできている麺だと? 一体どうなっているんだ、この弾力は!」


「信じられんッ、氷の結晶を繊細に取り扱いながら、水分子に絶妙なタイミングでハンマーの力を加えることで、空気を含んで膨らみ、そしてしゃりしゃりとした触感でありながら弾力もあるユキコ印の冷やし中華麺ができあがってくるッ!」


 氷の芸術とラーメンの芸術が融合し、二つのターボを手に入れたユキコさんは、今日も目まぐるしく人生を駆け抜けていきます。


 冷やし中華はじめましたが、すぐにおわりました。そして超冷やし中華がアツくはじまったのです。


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