感情の闇鍋
孤独だったリオは、音楽の世界で自分自身を表現することに喜びを見出していた。
ある日、リオは廃墟になっている古い屋敷を訪れ、そこでピアノを見つけた。朽ち果てかけた部屋の中で、傷一つなく綺麗なピアノだった。不思議に思ったリオが興味の赴くままに弾いてみると、自分の不思議がっている感情が雲となり、やがて固体となり、ことりと割れた床に落ちた。
リオは廃墟の台所から鍋を引っ張り出し、感情が落ちた場所に置いた。
今度は楽しいと思うようにしながら弾いてみると、「楽しいと思うようにする」という感情が鍋の中に入った。
リオは、それからいくつかの感情でピアノを弾き、たくさんの雲のような感情を生み出した。それらは固まって鍋の中に落ちて混ざり、リオは鍋の中に溜まったものを口に運んだ。
「雑な味……」
リオは、その闇鍋の力を洗練させることにした。
幾度となく自分の演奏に感情を注ぎ込み、鍋の中に固まった感情を解き放った。それだけではない、この廃墟で演奏会を開き、聴衆の前で弾くことによって、客の感情も鍋の中で混ぜることができた。
演奏会の後、リオはひとり、鍋の中に集まった感情を味わい、その闇鍋の奥深い味わいに酔いしれた。
演奏するごとに、リオの腕前は見事なものになっていった。
感情の鍋は人々の心から抽出されたものであり、リオはそれを食べることで、彼らの感情や思いを理解し、自身の音楽に反映させることができたのだった。
リオの演奏会は爆発的に人気を集めるようになっていき、やがて多くの人々に深い感動を与えるようになった。
批判、否定、嫉妬、ときにはそういった雑味が鍋に入ることもある。人によっては、それはスパイスだと言って歩みを止めるかもしれない。それは一種正しいのかもしれない。そういう者のほうが多いかもしれない。
しかし、リオはそれでも、内外すべての負の感情を塗り替えるような、美味しい音楽を目指しているのだ。
――もっと上へ、もっと柔らかく、もっと素直に。
リオの闇鍋が、いつも混じりっけない美味しさであり続けるために、心の旅は終わらないのだ。
そういう綺麗な演奏が、評価され続ける限りは。




