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おいしい音楽

 グッドトッホとは何だろうか、と通り過ぎていくキャンピングカーに書かれた文字を見て、男は首をかしげた。反対から呼んで意味がわかった。さらに遠ざかっていく車の後部を見て、指を鳴らした。


「あいつぁホットドッグ屋だ。へへっ、そんな風に、一見すると全く別のものに見えるが、よく吟味すると正体が明らかになるってぇものがある。他人の目や耳をだまし、楽しませるのも、あるいは音楽の一部ってもんだろう」


 彼はギターを持ち上げた。しかし、道行く人々からは、彼が今ギターを持っているとは気付けないだろう。どう見たって雨傘に見えるはずだ。雨傘型の自作改造エレキギターであるなど、誰が想像できるだろうか。


 傘を開いて固定すると、緩んでいた弦が張り詰める。演奏を開始した。雨傘ギターは弾きにくかった。しかし長年の練習の成果もあり、うまいこと弾けていた。


 雨傘ギターの最大の売りは雨水を防げることではない。落ちてくる雨を利用して音を奏でられることにある。布を叩く雨音はまるでドラムのようにリズムを刻む。震える弦は物悲しい旋律を雨の街に響かせた。張り詰めた二つのものがハーモニーを奏で、余裕の演奏者がそれを支える。


 しかし男の顔は、今の空の色と同じくらいに曇っていた。男は自分の演奏に何かが足りないと思っていた。どうも納得できていなかった。


 それでも、道行く人の一人が、小銭を置いていってくれた。初めての投げ銭だ。ホットドッグでも食べようと思った。


 男は雨傘ギターを閉じ、再び自分の目の前に停車した移動ホットドッグ屋で、ホットドッグにかぶりついた。激震が走った。


「これだこれこれ」


 信じられないほどのハーモニーを感じた。飲めるほど柔らかなパン。本能をよびさますソーセージとチーズのうまみ。脳を破壊せんばかりに刺激的なオニオン、ピクルス、マスタード。


 自分の求めていた最高の音色は、こんなところにあったのだ。


 彼は急いで家に帰り、こんどはギター型のホットドッグを自作した。とてもおいしかった。


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