084「食事会③」
「ようこそ⋯⋯⋯⋯⋯⋯『並行世界線の地球』へ」
「っ!!!!」
バッ!
「「「「「っ!!!!」」」」」
ソラは『賢者』の言葉に思わず後ろに飛び下がった。そして、そんなソラの突然の行動に周囲の皆が動揺する。すると、
「フッ⋯⋯⋯⋯そこまで警戒するな。私はお前の敵ではない」
そう言って賢者が笑う。
しかし、目の前の男が何者かもわからないソラからすればそんな言葉1ミリも信用できるわけがない。⋯⋯⋯⋯と思ったが、
「⋯⋯そうですよね。じゃないと俺人間不信になりますよ?」
そう言って、皆に驚かせてしまったことを謝罪したソラは席に戻った。
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「さて、早速だが⋯⋯」
と、勝己が「ここからは賢者の話を聞いて欲しい」と言うと、その横に座る賢者が話を始めた。
「今日はこの場に来てくれてありがとう。新屋敷ソラ君、そして探索者集団『新進気鋭』の唐沢利樹君、胡桃沢星蘭さん」
「「「ど、どうも⋯⋯」」」
さて、この『賢者』という男の第一印象は何と言ってもこの長身だろう。おそらく2メートル近くあるかもしれない。あとは黒い帽子、サングラス、上下黒のスーツと外見は怪しさ満載である。
そんな目の前の得体の知れない男がそんな挨拶をすると、ソラたちはどうしていいかわからないという表情を浮かべるも、一応ソラの父さんである健二や勝己の紹介ということもあり「それなりの人物なのだろう」ということで、とりあえず静観を決め話を聞くことにした。
「おっと失礼。そういえば自己紹介がまだだったね。私は『賢者』。今はここにいる勝己や健二たちにいろいろと私の手伝いをしてもらっている」
「て、手伝い⋯⋯とは?」
「ふむ、それが今回君たちに来てもらった理由の一つだ」
「え?」
と、健二が唐沢の言葉に返事する。
「⋯⋯現在、世界は『ある脅威』に晒されている」
「「「っ!!!!」」」
突然の不穏な言葉にソラたちは言葉を一瞬唖然とした。しかし、賢者はソラたちのリアクションを特に気に止めることなく話を続ける。
「今、この世界にある『不穏因子』が紛れ込んでいてね⋯⋯。その『不穏因子』がこの世界の支配を目論んで裏で暗躍している状況だ」
「ふ、不穏⋯⋯」
「因子⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯」
ソラは賢者の『不穏因子』という言葉が『転移者』を差しているのだろうと思いながらじっと話を聞いている。
「そうだ。そして、その『不穏因子』の計画を阻止するべく、私や勝己、健二は動いている。ちなみに仲間は他にもいるがその中には君たちの知っている探索者もいる」
「え⋯⋯? 探索者?」
「インフィニティ日本本部ギルドマスター『倶利伽羅炎呪』と、S級探索者『不知火不師斗』」
「ええっ?! ギルマスがっ!!」
「えっ!? 不知火不師斗って⋯⋯あの⋯⋯『孤高の単独探索者の⋯⋯?』」
賢者から出たビッグネームに唐沢と胡桃沢が反応する。
「さすがにこの二人は知っているようだな」
「そ、そりゃ、もちろんです!」
「この二人を知らない人なんていないでしょうっ?!」
「不知火不師斗って誰だ?」
「「いたーーーーーーっ!!!!」」
ソラのあまりの無知ぶりに「「そういうとこだぞ(よ)っ!!」」と二人に厳しくツッコまれ、その後、大まかに不知火不師斗の説明をした。
「へ〜⋯⋯単独探索者のS級⋯⋯」
「そうよ! 世界ランキングは31位だけど、S級探索者の中でも単独探索者の人はそもそも少ないわ。理由は単独でS級ランクまでレベルを上げることが難しいからよ。そして、その単独探索者の中で世界的にも最強の一角と言われているのが、この『不知火不師斗』さんよ」
「⋯⋯なるほど」
ソラはその『単独探索者最強の一角』という不知火不師斗の話を聞いて「わたし、気になります」と心の中で声を上げる。
「一度、会ってみたいな」
「無理よ、そんなの。だって、普段でさえほとんどギルドでも見かけないし、そもそも人嫌いで表には滅多に出な⋯⋯」
「ああ、不師斗はこの食事会の後に紹介する予定だから今日会えるぞ?」
「「えええええええええええええっ!?」」
胡桃沢がソラに「なかなか会えない人」という話をしている最中、カットインしてきた胡桃沢の親父さんが「今日会えるよ」と言うと、その言葉に胡桃沢とついでに唐沢も一緒になって絶叫した。
「お、お父様! あ、会えるの?! あの不知火不師斗さんにっ?!」
「もちろんだ。そもそも今日の食事会はその為の場でもあるからな」
「す、すげえ⋯⋯。あの不知火不師斗さんに⋯⋯会えるのかよ⋯⋯」
「唐沢君も彼のことは興味あるのか。まー無理もないか。なんせ、名前は誰でも知っている有名人のくせに、表にはほとんど出てこないからな⋯⋯あいつは(はぁ〜)」
「「??」」
勝己が盛大なため息をすると、それを見た二人がキョトンとする。
「そうか、会えるのか⋯⋯」
「ああ。フフ⋯⋯お前も興味があるようだな、ソラ?」
健二がソラに言葉をかける。
「ああ。俺も元々単独探索者で動いていたから、単独でS級ランカーになれた人にはかなり興味あるよ」
「ほう? ソラ君は単独探索者に興味があるのかい?」
勝己がソラにそんな質問を投げかける。
「はい」
「フフ⋯⋯そうか。それはちょうどいいかもしれんな」
「??」
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「と、ところで、その⋯⋯世界を支配しようとしている奴っていうのは何者なんですか?」
唐沢が賢者に質問をする。
「⋯⋯ある程度わかっていることもあるが、それを今の君たちにはまだ言えない。情報漏洩の恐れがあるからね。もちろん君たちがそんな情報を漏らすようなことをしないことはわかっているが一応念のためだ。君たちが我々の仲間になり、そして信用できる者と私が判断すればその時は『不穏因子』の正体を伝える。しかし、一つ言えることはそいつは『かなりの実力者』ということと『組織を束ねている』ということだ」
「実力者⋯⋯」
「組織⋯⋯」
「ちなみに、その世界支配を目論む男の強さは現世界最強と言われているインフィニティロシア本部のギルドマスター『ゲオルグ・シェフチェンコ』と同等かそれ以上だ」
「「えええええええええっ?!」」
賢者の口から飛び出したその男の名は『ゲオルグ・シェフチェンコ』。現在、探索者世界ランキング第1位の男⋯⋯つまり『世界最強の男』である。そんな『世界最強探索者』とその世界支配を目論む男が『同等の実力かそれ以上』という賢者の言葉に、唖然とする唐沢と胡桃沢。
「さらに言うと、この『不穏因子』の組織の中にはかなりの実力者がわんさといてね⋯⋯その中にはイギリスの『レヴィアス・アークシュルト』や『メイベル・ホワイト』にも並ぶ実力者がいるようだ」
「「⋯⋯⋯⋯へ?」」
ここで胡桃沢の父⋯⋯勝己からさらなる追加情報が投下されると、唐沢と胡桃沢は絶句⋯⋯⋯⋯いや、思考をいよいよ放棄した。そんな中、
「えーと⋯⋯とりあえず今並べた人たちはよく知りませんが、かなりの実力者が敵にいるという理解でいいですか?」
と一人、事の重大さを認識していない口調で質問したソラに賢者は「フッ」と微笑し、
「ああ、その認識でいい。それにしても、フフ⋯⋯新屋敷ソラ君。君やはり面白いね。できれば一度君と手合わせしてみたいがどうだ?」
「お断りします」
「なんと? 即答で断るとはこれは意外だった」
と、賢者は本当に驚いた様子を見せる。
「そりゃ、もちろん。あんたには今は勝てる気がしないからね」
「「「「「っ!!!!」」」」」
ソラがはっきりと「勝てない」といったその言葉にこの場の全員が驚いた。しかし、
「フフ⋯⋯今はか。では、その時がきたらどうだい?」
「はい。その時は是非」
ニッ!
二人が、この日一番の笑顔を見せた。




