043「探索者集団《シーカー・クラン》を結成しよう!」
「えー、では⋯⋯第1回探索者集団の名前どうするか会議を始めます」
「イエーイ!」
「はーい!」
「⋯⋯⋯⋯」
探索者ギルドで二人が探索者身分証を受け取った翌日のお昼——身分証を手にした二人はだいぶ浮かれていた。
今日はお昼時間を使って、これから三人で『どんな探索者集団名にするのか?』という話をしている。
「まーよくあるクラン名は『四字熟語』って印象だな〜」
と、唐沢。
「そうね。でも外国だと『神様の名前』とか入れるのもあるわよ。『ネプチューン』とか⋯⋯」
と、胡桃沢。
「なるほど。まー個人的には『わかりやすさ』と『カッコよさ』が同居する感じの名前がいいけどな」
「「たしかに」」
まー大概、こういう名前付けの場合、|厨二病言語《2ndシンドロームワード》が火を吹くものである。
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「これ何か、どう?!⋯⋯『天衣無縫』!」
胡桃沢がテンション高くクラン名を挙げる。
「すでにいるわっ!」
「ええー! そうなんだー⋯⋯」
「いや、よく覚えているな⋯⋯唐沢」
「まーこんくらいは探索者として当然の嗜みだよ、ソラ君?」
「(イラ)」
「そうだな〜⋯⋯⋯⋯ありきたりだけど『一騎当千』とか『疾風迅雷』かな?」
「ベタかな〜」
「あと、そんなクランとか既にいそうよね」
「「たしかに」」
とはいえ、唐沢は元々『探索者オタク』で、尚且つ俺と同じ『アニメ・マンガ・ラノベ好き』なので、探索者集団名をつけるこの会ではその才能を遺憾なく発揮し、いくつも候補を挙げていた。
「いや〜、意外と探索者集団名を作るのって難しいな〜」
「まーな。ここで決めた探索者集団名をこの先ずっと使い続けるって考えるとな」
「そうね〜。そう言われたら、結構責任重大ね⋯⋯⋯⋯名前付け」
「ずっと単独探索者で気楽にやってたから、いきなり探索者集団名を作るってなるとなかなか⋯⋯な」
「そういや、その話なんだけど⋯⋯改めて考えると、お前のその強さってやっぱり異常だと思うぞ、ソラ?」
と、ここで唐沢が話を変えてきた。
「そうね。いくら何でも新人デビューして2ヶ月ちょっとで『レベル62』とかおかしいでしょ? ていうか、このレベルで『D級ランカー』って、探索者ランクと探索者レベルがあってなさ過ぎよ!」
「そう?」
ちなみに、唐沢も胡桃沢も俺のステータスを知っているので俺の強さも理解している。もちろん『恩寵』についてもだ。ただ、『恩寵』については二人には「今はしゃべらないでほしい」とだけは言っている。
とはいえ、胡桃沢の父親が俺の父親の上司みたいなものらしいから、そこから『身バレ』と同時に『恩寵』についてバレても、まーそれはそれで別に構わないと思っている。父さんなら俺の敵になるなんてこと絶対にあり得ないからな。
「やっぱ、この『恩寵』ってやつが異常な成長スピードの原因なんだろうなぁ〜」
「まーたぶんな」
「ソラ君⋯⋯この『恩寵:自動最適化』の能力の全容って、まだ正確にわかってないんでしょ?」
「ああ。今、わかっていることは『周囲の情報や俺の記憶・知識から自動で計算して最適な効果を生み出す』というのと『一度、意識したものは全て記憶される』くらいかな?」
「いやいや⋯⋯『くらいかな?』じゃねーよ! それだけでもかなりチートじゃねーか?!」
「何? チートって?」
ここで、アニメやラノベに造詣のない胡桃沢に唐沢が『チート』について説明をする。
「つまり、ソラ君の能力があまりにも強力過ぎるってこと?」
「まー、単純にまとめるとそういうことだな」
「いいじゃない、強いんだから。これから一緒にやっていく私たちにとってはすごい頼りになるってことじゃない!」
「いや、ま、そうなんだけど⋯⋯⋯⋯」
「つまり、唐沢はソラ君のこのチート能力が羨ましいってことかしら?」
「当たり前じゃね〜かぁぁ〜〜〜っ!!!! そんなの『男の子』なら誰でも憧れるっつーのぉぉ〜〜〜!っ!!!」
唐沢が涙を流しながら胡桃沢に切なる想いを訴える。しかし、
「うざいっ!!!!」
ゴン!
「ぎゃふん!?」
言い寄ってきた唐沢に鉄拳制裁をお見舞いする胡桃沢。
「私たちはこれからでしょ?! これから強くなるんでしょ!! だったら、ソラ君に負けないくらいに努力すればいいだけじゃないっ!!!!」
「! く、胡桃沢⋯⋯」
「『恩寵』って能力は確かにソラ君だけが使える唯一の力だし、すごい力なのはわかるけど、これからダンジョンで私たちもソラ君のような『すごい能力』を手に入れることができるかもしれないでしょっ!!」
「⋯⋯ああ」
「ダンジョンなのよ! 今も謎だらけの! そして、私たちはそのダンジョンの探索を許された探索者になったのよ! これからじゃないのっ!!」
「⋯⋯ああ。そうだな」
「そんなしょうもない愚痴を言うくらいなら、少しでも多くダンジョンに潜って探索すればいいのよ! 強くなればいいの! あとは行動に結果がついてくるだけよ、フンッ!!」
と、一気に捲し立てた胡桃沢はそのおかげで少しハァハァと肩で息をしていた。
「すげー。やっぱすげーよ⋯⋯胡桃沢は」
「フンッ! 当たり前でしょ!!」
そう言って、二人がニッと笑う。
何と言うか『息ぴったり』という感じだ。
「息ぴったりだな、二人とも」
「なっ?! ソ、ソラ!! お、お前⋯⋯」
「な、なななな、何を言ってるのよ、ソラ君っ!! どうしてそうなるのよっ!!」
その後、二人からやいのやいのと説教を喰らった。
何だろう⋯⋯ただのイチャイチャにしか見えないのは?
あ、ちなみに⋯⋯⋯⋯結局、俺たちの探索者集団名は『新進気鋭』となりました。




