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白い花には赤い血を添えて  作者: purine san
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世界の終焉

「緊急速報!地球に直径90㎞の隕石が接近しています」


 静寂の朝のひと時、画面の前のニュースキャスターは突然理解のできない情報を発信した。


「は?」


 突然の情報ニュースに不意を打たれたためそんな刺々しい言葉をもらす。右手に持った食パンを忘れ、硬直した自分の代わりにコーヒーの湯気だけがゆらゆらと動く。


「先ほど計算された結果によると23分18秒後に地球に接触する見込みで、落下地点は…え?日本…?

嫌ッ!!!私死にたくないッ!!!」


 この女性キャスターは何を言っているのだろうか?隕石?落下?日本?死ぬ?

 フリーズした体を動かし頬をつねる。


「痛い…」


 どうやら現実のようだ。

 何だ?バラエティー番組のドッキリ企画にでも参加させられているのか?

 限界状態に達し、オーバーヒートした脳は我に返るのに数秒を要した。


 すかさずスマホのスイッチを押し、電源を入れる。黒いガラスのような表面に電子的な光がともり起動音が鳴る。

 すぐにスライドして青い四角をタップする。

 瞬時に大量の最新情報が読み込まれ【つぶやき】が画面上を侵食する。

 

 トレンド欄には#人生最後に何をする?と莫大な書き込み量が表示される。いま発覚した情報であるのに彼らの発信能力は感心するほどである。


「隕石?なんだよそれ嘘だよな?俺童貞のままで死にたくねえええええ!」「なにこれ何かのドッキリ?」「え?私ら死ぬの?」「ニュースま?」「まだ死にたくないんだけど…」

 投稿されている内容はどれもおなじような内容ばかりものだった。


 ここまででようやく脳はある確信に至る。これは空想でもドッキリでも夢でもない。そう、現実なのだと。

 

 てことは、残りのすべての人生はあと20分ちょいしかないのか?!最悪な現実をようやく認識し絶望と焦燥感に駆られる。


 スマホを投げ捨て、食パンを放り投げ、ベランダへ飛び出た。

 謎の使命感というより謎の欲望に駆られ、手すりに身を乗せ地面を見下げる。


 視界に映った駅の周りには人、人、人。

 現実を受け止められず意味不明な挙動をする大学生。学生服を着て嘆きに抱き合う通学中の高校生カップル。何かが吹っ切れたかのように突然全裸になるサラリーマン。あそこのスーツ姿の人は…失禁しているのか…?


 普通の状況でやれば冷たい視線を一目散に集める行為だった。しかし全員異常な行動をしているので決して目立つことはなかった。

 もしこの状況でも普段のように振る舞ったいる奴がいたらそっちの方が浮くだろう。


 そんな混沌カオスは駅だけでなく至る所で起こっていた。


 まさしく世界の終わりのような光景だ。

 社会体も人目も忘れた混乱がただまじかにあった。


 今度は視点を変えて上空を見てみる。


 おおぞらにデカデカと映るのは巨大な星。

 黒い球体に赤色とも白色とも言える輪郭をゆらめかし、時間が経つたびにどんどん巨大化してくる。

 迫る度に水色の空は赤黒く染まっていく。


 地獄の光景とはこのことを言うのだなと思った。


 

 もし死期がわかり、自らの破滅までのわずかなひと時、人は何をするだろうか。


 その答えは人によって違うだろう。

 愛するものと抱きあっていたいと願う者もいれば、目一杯食事をしたいと願う者、中には自身のいちぢるしくモラルに反する性壁を晒したいと願う者もいるだろう。


 自分の答えは単純だった。


 何もしたくない。


 どうせ死ぬからと欲望をぶつけるわけでもなく、ただひたすらの救済を願うだけでなく、唯、何もしたくないのだ。

 静かな気持ちで最後を迎えたい。

 滑稽な醜態を晒したくない。

 それが自らの選択だった。


 時間がたった。

 何千時間とも長く感じた気もするし、一瞬だった気もする。

 ただ、ベランダの柵に体を預けて無情に景色を見ていた。

 外は喧騒が鳴りあっているのに静かに感じられた。

 上空の目一杯を覆い尽くしている巨石から逃げ場がないことはすぐにわかるほどだ。

 あと一分もせずにここらは消滅するだろう。


 ふと後ろが気になって目を向ける。


 部屋には湯気の消えたコーヒーがただ異質にも存在感を増しているように感じた。

 それを見た途端一つの考えが生じた。


 コーヒーを飲みたい。


 その欲望を実行した。マグカップを持ちベランダに戻り、地獄の絶景を背景に優雅に啜ろうとする。

 

 しかし見た。手に支えられている黒い水面が微かに揺れていることを。


 一瞬、まじかに迫った質量から発せられた風圧かと思った。

 しかし違った。揺れているのはマグカップを持った自身の肉体とつながった手だった。


 右手が地震のようにカタカタ震えている。

 

 最以後の最後まで格好をつけようと思ったが無駄らしい。

 取り繕った行動とは裏腹に、腕は内心をはっきりと表していたのだ。


 震えを自覚した時、僕は平然を保てなかった。

 抑えていた感情が、欲望がはっきりと感じられた。


「……たく…ない。死にたくないッ。」


 堰き止められていたダムが決壊する。


「まだッ…死に…たくないッ!」


 滑稽だと吐き捨てた行為を行うが、気には止まらなかった。

 父親を失った時にも、友人に裏切られた時にも溢れなかった感情が、止められなかった…。


 明確な終焉を前に激情を隠せなかった。


 想えば面白くない人生だった。

 嫌な役回りだけを演じてきた気がする。嫌、演じらされてきたのだ。

 だがそれらも、後の幸福を信じていたからこそやってのけれた。


 しかし希望はつぶれた。

 己に未来など無い。


 将来への投資とか言う言葉を信じた結果がこれか。

 これならもうちょっと楽しんでおけばよかった。

 悲劇のヒーローを気取るつもりは無い。だが、頑張ったのに…ずっと努力してきたのにこれはあんまりじゃ無いか…。

 

 自分の運命を受け入れられず言葉を投げる。

 ただひたすらに何かに訴えるように。

 滑稽に嗚咽を交えひたすらに死を拒絶する。


 迫りくる重量の圧力に豪風が轟く。

 衣類が揺れ、髪の毛は原型なく吹き荒らされている。

 外気は熱い。

 灼熱の奈良にでも落ちたかのような光景だ。


「……まだ……」


 重量が激突し全てが吹き飛ぶ。

 爆風が全てを飲み込む。


 かすれた声を絞り出そうと試みた直前、全てが残骸に変わった。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 漆黒の景色を元に、意識が覚醒した。

 まっくろな光景をひたすら呆然と眺めている。


 ああ、死んだのか…

 此処は地獄なのだろうか。

 それとも死して無に帰ったのだろうか。


 ふと、手を動かそうとして此処が地獄でも無でもないことに気づいた。

 理由は、手が動かなかったからだ。

 正確には物理的に拘束されて動かせなかったのだ。


 自身の状況を自覚するとあることに気づく。

 周りが暗いのではなく、目が覆われていることに。


 意識が正しくなってきた所である感覚に気づいた。


「全身が痛い…」


 焼けつくような痛撃が全身を蝕んでいるのだ。

 しかし、周りは静寂に満ちていた。

 つまり火事で瓦礫に押し潰されているわけでもないのだ。


 状況を推測したところ、おそらく此処は病院なのだろう。

 搬送されて手当てされたと結論付ける。


 だがしかしある疑念が生じた。

 あの隕石の落下で自分が生きていたとは到底想えない。

 しかも己の感覚から推測すると五体満足で、だ。


 


 

自己満足、あと主人公の性別悩み中

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