58回目 敵への対処 3
「なんでそこまでする……」
意気消沈した者達は、絞り出すようにそう声をもらす。
そこまでする必要があったのかと。
そんな者への対応は冷ややかな態度と声だった。
「お前ら、俺たちを助けたのか?」
その声に、対面する者達は声を無くす。
「まったくしなかった。
それどころか殺そうとしただろ」
瑞穂にて向けられたのは、同情と憐憫ではない。
敵意と軍隊である。
殺意は明確だった。
「そんな連中がどうなろうと知った事か」
出澄脱出者達にとって瑞穂の人間など敵でしかない。
そして、これが瑞穂だけで終わるとも思ってない。
全人類が似たような事をしでかすと考えている。
だからこそ、相応の態度と対処をしていった。
人間は自分が危険にさらされるまで世迷い言をほざく。
上っ面の虚飾を好む。
愚にも付かない理想論を振りかざす。
現実など見ようともしない。
だから現実を突きつけてやらねばならない。
それがどれだけ悲惨なものであっても。
地獄のような惨劇であっても。
それでどれだけ混乱しようが問題ではない。
騒ぎになるからと真相の発表は控えるわけにはいかない。
真相や真実が分からなければ、適切な対処はとれない。
だが、人は嘘を求める。
明るく楽しい誤魔化しを求める。
そうして間違った選択を延々と繰り返す。
その結果、最も悲惨な状況に陥っていく。
危険を見ようともしない脆弱さ。
臆病さと言うべきか。
それを多くの人間が持っている。
そう呼んで良ければ、弱者というべきだろう。
この弱者が最悪の方向へと物事を進めていく。
するべき対処を怠り、日々の準備を滞らせる。
惨劇を食い止めるべき手段をとらず、妄想をただひたすら求め続ける。
自分の弱さを自覚し、ならばと対処方法を考えるのでもなく。
幸せな妄想を現実として事を進めていく。
あるいは、自分たちは大丈夫と強がる。
強いふりをする。
そして本来の実力に目を向けずにいる。
こうであったら良いと思える虚像を現実と思い込む。
そして、失敗していく。
そうならないようにしていく。
そんな妄想を抱けないようにしていく。
その為に安全な場所を潰す。
嫌でも地獄と向かいあうようにする。
「そうでもしなけりゃ、お前ら何もしないだろ」
軽蔑しながら脱出者は言葉を叩きつけた。




