44回目 残された者達、当たり前の結果、何一つ不思議の無い当然
遠ざかっていく出澄。
その姿を見ながら、カケルはため息を吐く。
これからどうなるのだろうと思いながら。
隣の星まで、これから2年はかかる。
この長い航海が無事に終わってくれるかどうか。
準備万端ならともかく、今回の船出はそうではない。
敵に追われながらの出航だ。
まともな状態なわけがない。
幸い、衛星軌道に浮かべてあった資源採取用の小惑星は持ってきている。
当面必要なものは揃える事ができる。
それでも、必要なものは必要なだけ手に入るかどうか。
敵が追ってくる可能性はもっと高い。
出澄の制圧に時間がかかれば、その分だけ安全は確保出来るが。
もし敵が即座に追跡をしてきたらどうなるか。
不安は尽きない。
状況は決して良いものではない。
最悪ではないにしても、良好な状態ではない。
かろうじて逃げ延びた、どうにか生きてるというだけだ。
安心など出来るわけがない。
それでも、宇宙に逃げ出せただけまだマシだろう。
出澄に残った者達には、更に悲惨な現実が待ってるのだから。
異星人への降伏を含め、様々な理由で出澄の残った者達。
また、逃げ出すつもりであったが、最終選別で弾かれた者達。
そういった者達には、容赦のない攻撃がなされていった。
異星人艦隊は逃げ出す者達はとりあえず放置した。
それよりも星の制圧を優先させていく。
その為に、残った都市の破壊をしていく。
あらためて軌道上から爆撃を行う。
そして、地上におろした部隊による掃討を進めていく。
爆撃から生き延びた者達も、この地上部隊に殲滅されていった。
降伏を願い出た者達も同じである。
異星人の地上部隊の前に出ていった者達は容赦なく殺されていった。
白旗を揚げて降伏の意思を示してもだ。
そんな事おかまいなしに、異星人は銃弾を放っていく。
なんとか交渉をしようとする者達もいた。
だが、その努力は全く実を結ぶ事はなかった。
異星人は交渉するつもりがない。
話し合いなど出来るわけがなかった。
例外的に交渉が開始される事もある。
その場合も、決して良い結果にはならなかった。
例え安全保障の約束をしてもだ。
その約束を信じて姿を見せれば、その場で殺される。
安全な場所まで送ると言われ、それならばと出てきたところで殺される者達もいた。
効率よく人を見つけて処分する為。
異星人が交渉に応じ、安全を約束するのはこの為でしかない。
こうして、出澄では次々に人が殺されていく。
生き延びる事ができたのは、むやみに姿をさらさない者達だけだった。
そうした者達も長く生き残れるわけではなかったが。
食料がない、水がない、寝床がない。
どうにか生き延びた者達には、こうした難題が降りかかる。
生活に必要な基盤は破壊されている。
まだ残ってるものをかき集めればどうにかなるかもしれないが。
異星人が制圧した出澄では難しい。
異星人は出澄を制圧すると、地上に基地を建設。
同時に、様々な監視装置を設置していく。
残ってる者達の反撃に備えて。
その監視装置のせいで、生き残った者達も満足に活動できない。
破壊された都市部から食料などを集めようにも、それも出来ない。
森や山に身を潜めているしかない。
そこで田畑でも作れればまだ良いのだろうが。
そういった事をすればすぐに監視装置に見つかる。
殲滅のために軍勢が飛んでくる事になる。
そうして飛んできた異星人の軍勢は決して容赦しない。
たった一人の生き残りの為に、何千という監視装置を働かせ。
無人機を動かし。
様々な探知方法で探し出し。
確実に仕留めていく。
隠れて飢え死にするか。
姿をさらして殺されるか。
生き残った者の辿る道はこれしかない。
どのみち死ぬだけだ。
早いか遅いかの差があるだけ。
それでも救出が来るなら、それまで持ちこたえる者もいたかもしれない。
それを希望にして生きる努力をした者もいるかもしれない。
だが、その可能性はどこにもない。
日本が生存者の救助のために国防軍を動かすわけがない。
生き残ってる者達はそれをよく知っている。
他でもない、彼ら日本人がそう望んだ政治だ。
軍隊は動かさない。
戦争はしない。
敵対してる者達にも話し合いを求める。
例え侵略されても、領土を奪われても抵抗しない。
それが、日本人が求めた日本の方針である。
そんな日本政府が軍事行動を起こすわけが無かった。
それでも生き残りは奇跡を信じていく。
信じるしかなかった。
異星人との交渉により、平和的に物事が解決すると。
その交渉を踏みにって異星人が攻め込んできたのだが。
この事実すらも全く思い浮かべる事は無い。
降伏を受け付けずに虐殺したのもその一環だ。
話し合いなど全く出来ない、受付ない。
その事は既に示されてる。
身をさらすのも危険だと分かってる。
分かってるから隠れている。
にも関わらず。
いまだに自分の理想・夢想・幻想・妄想を追い求めていく。
そんな自分の考えと現実に大きな矛盾がある。
食い違いや齟齬が発生してる。
その事にすら気付かない。
その思いや考えが救いようがなかった。
仮に交渉がすぐに済されたとしてもだ。
隣の星まで片道2年の航路だ。
今すぐ出発したとしても、やってくるのは2年後。
その間どうやって生き延びるのか?
それすら考える事ができない。
結局、出澄に残った者達。
旅立っていく者達に排除された者達。
それらは誰一人生き残る事無く潰えていく。
無惨でも何でもない。
たどって当然の末路である。
自業自得としか言いようがない。
同情の余地もない。
ただ、侮蔑するほどの愚かさがそこにあった。
彼らとてこうなる事を望んではいなかっただろう。
だが、彼らの言動と行動が作り上げた結果がこれである。
自ら作り出した状況に彼らは陥り、作り出した仕組みに従って滅亡していった。
当たり前の、ただただ当たり前の結果がそこにあった。
不思議は何もない。
なるべくしてこうなった。
ただそれだけの事が出澄という星にて起こった。
こうして日本領星である出澄は陥落した。
宇宙に逃れたわずかな生存者を残して、その他全ては全滅した。




