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第70話 大人になったね

70


 午後二時過ぎ。

 青葉の会を出た二人はサンシャインシティ水族館の屋外アリアにいる。

 地上四〇メートル。サンシャインシティを構成する五つのビル。その内の一つワールドインポートビルの屋上に位置する水族館。

 館内の屋外エリアではペンギンやアザラシ、アシカ等を観覧することが出来る。

 秋風が吹き込み、千尋たちを攫っていく。連れて行かれないように、二人はぎゅっと手を握る。

 ベンチに座る。強化硝子のプールが上空に見える。ペンギンが空を飛ぶように、泳ぐ。


「かわいいね。ペンギン」

「う、うん……」

「そういえば夜の水族館ってまだ来たことないよね? ライトアップされて綺麗だっていうけど」

「僕、夜の混雑とか苦手だから……」

「今日、見ていこっか」

「え、で、でも……先生たちに怒られるし」

「見終わったら、そこらのホテルに泊まればいいじゃない。ホテルなんていっぱいあるし」

「いや、そういうわけには」

「いやなの? 私と泊まるのが」

「い、いやじゃないけど……」


 十月の昼下がり。少し傾いた太陽は少年たちへ微笑む。光は影を生む。幼い横顔が、あおいには幾ばくか大人に見える

「千尋、気にしてるの? 恵那ちゃんのこと」

「……、それはまぁ、気にはなるよ。当たり前じゃん」

「しかし行方不明とはね。まぁ、恵那ちゃんらしいといえば、らしいんじゃないの? あの子、じっとしていられるような子じゃないし」


 青葉の会。会長の海月から相生恵那の所在をきいた。

 恵那は青葉の会が運営する「帰還者支援施設」にて暮らしていたが、現在は行方がわからなくなっているという。

 支援施設は埼玉県所沢市の西部にある。

 五年前、団体に引き取られてから恵那は、職員の熱心なサポートを受けた。

 絆の会の教典。やりたいことはなんでもやる。そうすれば神様と繋がることが出来る。アドレナリンやドーパミンは神様のご褒美。垂涎の快楽。

 間違った考え。洗脳を解くために、恵那は世界と密接に関係を持たされた。

 普通の公立小学校に通い、支援団体の職員や家族と、毎日のように接触した。

 洗脳は隔離された環境が生む。それが正しい知識だと思い込まされる。間違いに気づくには、選択肢を知らなければならない。

 

 だが恵那は変わらなかった。「普通」を学び、日常に溶け込んでも、染みついた本質は洗い流せなかった。


「三年前……、って言ったら、まだ中学生だよ。それで家出って……、生きてるかな。恵那」

「大丈夫でしょ。恵那ちゃんはなんかこう……、エネルギーいっぱいな子だったから」

「でも、社会に馴染めなくて孤独に震えてたら……」

「千尋は優しいね。なあに? 恵那ちゃんに共感してるの? 自分も社会不適合者だから」

「……、それは、まぁ、そうだよ。恵那もあおいちゃんも、大切な、仲間っていうか……、家族みたいなものだし」

「千尋も大人になったね」

「……! バカにしてるだろ」

「うん。してる」

「お、おい!」

「しちゃいけないの? だめなの?」

「いや、だめじゃ……、ないけど」

「じゃあいいじゃない。千尋は私に苛められるの大好きでしょ?」

「人をそんな変態みたいに言うな」

「だってホテルに泊まると我慢できなくなるから、泊まりたくないんでしょ? 今日も」

「そういう理由じゃない!」

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