表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/122

第63話 快楽の正体

63


「お……、お前……、どこの子供だ!」

「恵那はね~、恵那! え・な! っていうの! ふひひ~、あ~、人を殺すのって楽しいよね~! いっぱいっぱい……、神様が褒めてくれる! 大神官様も殺した~い! そしたら神様はもっとなでなでしてくれるよね?」

「だ、大神官様……、この子例の子です。第三セクターの地区長一家を殺した」

「あぁ……、あの忌まわしい猟奇事件か」

「はい。居場所がわからなくなっていましたが……、つい先日……、両親の生首と腕を体にくくりつけて繁華街を踊り歩いたという……」

「……? ね! 殺していい? 殺したいの! 恵那!」

「……、みなの者、殺せ。この子は、楽園を滅ぼす。ワシにはわかる。悪魔の子だ」

「はい……」


 相生恵那は数日前、両親を殺した。仲のよかった姉弟も殺した。理由は、「殺したかったから」。それだけである。

 生首や人体の一部を体につけて歩いたのは、「気持ちがよかったから」


 二年前。恵那は、同級生を刺殺した。理由は、嫉妬である。愛らしい同級生は、学校の人気者。誰よりも可愛くて、みんなに好かれていた。羨ましかった。だから、殺してやろうと思った。殺せば、自分が代わりに人気者になれるから。いなくなってほしかった。


 殺人は楽園では認められている。が、殺人ばかりになっては、人口が減少し、村の運営が立ちゆかなくなる。また、殺人の情報が外部に漏れた場合、警察が踏みこんでくる恐れもある。

 情報の統制は完璧。一度、四メートルの壁を越えた者は、出国することは許されない。その壁が、楽園の異常な実態を育んできた。


 七歳での殺人は絆の会が始まって以来、最年少だった。恵那は、敬虔な信徒。父と母は地区長を任され、神官からも信頼されていた。

 だが、恵那は危険人物としてマークされていた。大量殺人が続けば、村は崩壊する。人材は貴重だ。

 表向き殺人を肯定しつつも、その実、殺人者を警戒するというタブルスタンダード。


 恵那は、彼女を殺した後もすくすくと育った。動物を殺したいという理由で、狩りの仕事を手伝うようになったが、小動物や子鹿であっても、夢中になって鉈を振るうため、すぐにクビになった。


 愛らしい彼女を殺した時の、快感が忘れられない。多量の脳内物質が放出され、興奮が頂点に達したあの時、恵那は絶頂していた。

 学校で数学や科学を学ぶ、しかし、教典と整合性が悪い内容は、正しい知識と書き換えられている。

 例えば、快楽の正体。

 人間の脳は、量子レベルで神と繋がっている。量子テレポーテーションがそうであるように、量子は遠く離れていても、繋がっている。

 神の意志に沿って行動を起こせば、天界から、神が幸福を与えてくれる。それが、快楽の正体。


 恵那は、殺人の快楽を忘れられず、数日前に父と母、そして姉弟を殺害した後、教典原理主義者の仲間に加わった。


 教団内には派閥があった。教典を100%完璧に守る原理主義者。ある程度遵守する多数の信徒。そして、教典の書き換えを目指す反体制派である。


 原理主義者は数日後に予定していた集会襲撃計画に恵那を誘った。恵那は、教団の新聞に連載されていた子供向けの漫画に影響を受け、アジト内にあった日本刀を持ちだした。


 聖なる社に辿り着くまでに、恵那は既に三〇人以上を殺害していた。とても子供の体力のなせる技ではない。しかし、アドレナリンの過剰分泌体質が、それを可能にしていた。恵那の脳は、幼少期から刺激を受け続けた結果、少しの刺激でも興奮しやすい状態になっていた。脳内物質が、恵那の身体能力を極限まで高める。五キロを越える日本刀を振り回せるのは、一重にその力のおかげだった。


「殺せ! この子供を」

「……えへへ~、恵那も殺した~い!」


 三〇人を超える大人が恵那に殺意を向けた。楽園の性質上、護身用の武器を誰もが携帯していた。幹部は懐からナイフを取り出して、恵那に向けた。

 だが、最初に突進していった信徒「山県春男」が、恵那が振るう日本刀の一振りで首を切り落とされた時に、その勝敗は決した。

 山県の首は七割が切断され、頭部は首の皮一枚で体と繋がっていた。血の噴水が切り口から溢れだし、山県は白眼をむき、舌をだして絶命していた。


「ありゃりゃぁ……? 切れ味悪くなっちゃったぁ。いっぱい切ったからかなぁ」

「……ッ!」

「ま、でも殺せたからいっかぁ。じゅる……えへへ、たくさん殺したから、もう殺すだけじゃあんまり神様も褒めてくれないや。うん! わかってる! 恵那、期待されてるんだよね! もっともっと、恵那頑張る!」

「……ひぃッ――」


 舌をペロリとだして、恵那は笑った。神様と通じ合い、日本刀を構える。僅か九歳の少女。真っ赤に染まったタンクトップで誇らしげに胸を張り、真っ直ぐに突進してくる。

 幹部たちは怯えた。足が竦み、身動きがとれない。自分たちが作り出した怪物。悪魔だ。刀を振るい、笑顔と絶頂の声をあげながら次々と人間を殺していく相生恵那を、川澄あおいの父「川澄みどり」は、悪魔の子だと思った。その刹那――、首を切り落とされ、絶命した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ