第47話 たすけて
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「あたし行ってくる――」
――ピロロンッ。
めぐみが家を出ようとすると、LINEに通知があった。三上家のグループLINEだ。同時に四つのスマホが鳴った。最初に、リアクションをしたのは千尋だった。
「奏……!」
奏:【たすけて】
千尋:【大丈夫? どこ?】
千尋はすぐに返事を返したが、それ以上LINEは来なかった。機転を利かせて、すぐにGPSアプリを確認した。画面には表示があった。
千尋はスクリーンショットを撮った。表示は数分で消えてしまった。
「かなりん、どこ?」
「わかんない。ここは……、聖愛学園の方みたいだけど……」
「行こうよ! ね! せんせー」
「ええ! 車出すわ」
「かなちゃん……」
「あ、そうだ。山吹さんに連絡しよう。聖愛学園の辺りだったら詳しいはずだし」
「それいーね! ちーちゃん! あ、あたし……、沙耶さんに連絡する」
「そうね。それは私から連絡するわ。めぐが連絡しても、上手く言えなさそうだし」
「ごめんなさい。せんせー」
「かなちゃん無事だったらいいけど」
「大丈夫だよ。あおいちゃん。奏は強いから」
「そうね。かなちゃん、総合格闘技頑張ってたし」
「うん。大丈夫。絶対」
千尋たちは琴音の車に乗ってすぐに家を出た。
――十分後。
「GPSはこの辺りみたいだけど……」
「まぁ、もういないわよね」
聖愛学園の近く。住宅街。入りくんだ道の途中。月極駐車場をGPSは示している。
琴音は、車を駐める。駐車禁止だが、緊急事態だ。そんなことを気にはしていられない。
千尋たちは、車を降りると駐車場に入る。車を外から調べる。奏は見つからない。
「沙耶には連絡した。失踪届も出てないけど、事件性あるから何人か来てくれるみたい」
「かなりん……、どこ~ かなりーん!」
「かくれんぼ、してるわけじゃないから。大声で呼んでも……、効果ない、か」
「でもちーちゃん。呼ばなきゃ見つからないよ! 呼ぼうよ!」
「そうね。かなちゃーん」
「か、奏~!」
「かなりーん!」
四人で大声で呼ぶ。反応は返ってこない。閑静な住宅街。人気はないが、少し目立つ。声が反響して、遠くまで響く。通りすがりの通行人が、琴音たちを見る。怪訝な顔。めぐみは、人見知りもせず、通行人に「奏を見かけてないか」と訊く。「知らないなぁ」と返答される。
「近くを探そーよ! まだ、そんな遠くに行ってないよ」
「でも車だったら……、もう遠くに行っちゃってるかもしれない」
「ちーちゃんさっきから悲観的だよ! かなりんを助けたくないの?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「千尋、大丈夫?」
「な、なにが?」
「なんか、目が……、視点定まってない感じだけど?」
「……、外だからだよ。トラウマ。PTSDだ」
「ふぅん。そうなの? そうは見えないけど」
「そうだよ」
「さがそーよ! いこ! かなりーん! かなりん!」
めぐみは声を出して走りだしていった。千尋も、後を追う。奏を助けたい。状況を推理するには情報が足りない。GPSが途切れたのは二十分くらい前。駐車場。通学途中に行方不明になり、つい先ほど「たすけて」と連絡が来た。誘拐? しかし、どうやって?
外は苦手だ。しかし、家族がいる。トラウマなんて関係ない。奏を助けたい。
しかし、不安があった。心で動く怪物。どんよりと気持ちが悪い。息が苦しい。呼吸は出来るのに、吸いたくない。これはなんだ? いつものPTSDと違う。だけど、今は気にしない。
そんな時、世界に光が射した。
「……ッ!?」
駐車場に水色の虹が架かった。それはオーラのように点在して、道の先まで続いて行っている。千尋はその正体が分からなかった。だけど、光が、答えだと思った。
「千尋?」
「……ッ」
千尋は走りだした。不思議な感覚だった。いても立ってもいられない。衝動がおさまらない。
「ち、千尋。待って」
――ダダダダッ。
「ちーちゃん?」
「千尋くん?」
「千尋!」
あおいは千尋を追って走りだす。が……、足がもつれて倒れてしまう。スカート。生足の膝を擦りむく。紺のハイソックスがめくれて、破れる。白い肌。膝から下の右足には、大きな傷跡がある。
あおいは走れない。体に障害があり、全力で走ることが出来ない。
「あ、あおちゃん。どーしたの? 急に。それにちーちゃんも」
「あおい~。無理しちゃだめだって……」
「めぐみちゃん。先生。千尋を追いかけて。千尋……、なんかヤバイ気がするの」」
「ヤバイって、なに? どーゆーこと?」
「千尋……、おかしくなりそう」
あおいは変わらない無表情。だけど、瞳の奥の感情をめぐみも琴音も読み取れる。
「せんせー! あおちゃんをよろしく。あたし、追いかける!」
「うん。任せなさい」
「めぐみちゃん! お願い!」
「うん!」
めぐみは、千尋の後を追いかけた。




