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第42話 あ、今、びくんってした?

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 深紅は子供のころから容姿がよかった。妹の唯と同じ。小学校高学年頃には胸も大きくなり、異性によくモテた。深紅はそんな自分が嫌いではなかった。自分を評価してもらえることが嬉しかった。


 スカウトされ、アイドル活動を始めた。地下アイドル。際どい衣装を着てライブをした。撮影会もあった。大人の男性ファンも数多く居たが、嫌ではなかった。時々、視線を恐く感じることはあったが、褒めてもらえること、認めてもらえることは嬉しかった。


 が、ある日、家に帰宅すると、襲われた。熱心なファンだった。やましい目的ではなく、ただ「会いたい」という思いから、深紅を尾行し、自宅を特定していた。

 手を握られ、抱きしめられた。夜。誰も助けのいない状況。深紅は、身の危険を感じた。咄嗟に、大声を出すと、口を塞がれた。

 小さな体。身動きがとれない。絶対的な恐怖。


 以来、深紅は、男性が恐くなった。

 アイドル活動は引退。中学からは女子校に進学した。男性と接点を持たないためだ。


 が、ある日の聖愛学園の文化祭。親族であっても男性は入場禁止。しかし、十二歳以下の男児は特別に許可される。

 友達の大崎瑞穗が連れてきた子供。瑞穗の弟に、深紅のハートは射貫かれた。

 男性は苦手だが、子供は別。一緒に居て息苦しくならない。胸がドキドキとする。気持ちが高揚した。

 深紅は気づいた。自分の性癖に。子供なら大丈夫。そうか。なら、子供と付きあおうと。


「小学生の男の子を何人も連れ込んだんだけど……、やっぱり、ここまで来ると怖じ気づいちゃう子も多くて……」

「いや、連れ込むって……」

「もちろん合意の上だよ? でも……、唯にも犯罪だ~! ってよく、怒られてて……」

「は、はぁ……、そりゃ、まあ……」

「でも、千尋くんだったら、犯罪じゃないもんね? 合法ショタ男子! しかも心も体も、本当に子供みたいに純粋……、まさに理想の男の子」

「いや……、そんなこと言われても……」

「あたしもね、色々あったんだよ。だからね……、千尋くんだったらきっと分かってくれると思う」

「……」

「千尋くんも、なんかあったんでしょ? 分かるよ。あたし、そういう勘? 優れてるから」


 深紅は過去を千尋に話す。千尋は、同情する。そして共感する。自分も色々あった。傷を抱えた女の子。千尋は繊細だ。人の痛みを、自分のことのように感じる。

 深紅のことは、胸が大くて元気で、ちょっと恐い女、と思ってきた。早く帰りたいのに、勢いに気圧されてきた。

 しかし、過去を知り、千尋は共鳴する。


「ま……、言いたくないなら言わなくていいけれど……、あたしね、千尋くんを運命の人だと思った」

「そ、……、そうなんです、ね」

「あ、今、びくんってした?」

「し、してないです……」

「ね! もっと揉み揉みして。あたし、小さい男の子に揉まれると感じるの」

「い、いや……なに言ってるんですか」

「しかも、同い年ってなったら、余計に興奮する!」

「へ、変態……、なんですか」

「違うよ? それが好みってだけ」

「も……、物はいいようですね……」

「千尋くんだって、女の子の好みとかあるでしょ?」

「そ……、それは」

「千尋くんはどんな子が好きなの? あたし、出来るだけ近づけるように頑張るから」

「い、いや……、好みって……」


 千尋の脳裏に浮かんだのは一人の少女。川澄あおい。恋はよく分からない。性癖もよく分からない。しかし、あおいの声が聞こえる。顔が見える。ジト目で見つめている。浴室で、巨乳の女子高生とお風呂に入り、裸で抱き合い、胸を揉んでいる自分を見ている。いつもの無表情で。感情は読み取りづらいが、千尋には分かる。なにを言われるか。


「彼女、どんな子?」

「……、え、……、え? ……もみもみ」

「さっき一緒に歩いてた子だよね? 美少女だったよね。あたしと同じくらい」

「え……、あ、いや」

「もうえっちはしたの?」

「……え、ええ!?」

「その反応だとしてない、かぁ。キスは?」

「え……、な、なに言ってるんですか」

「したか。じゃあ、あたしもキスした~い!」

「は、はぁ?」

「だって~千尋くん、全然元気にならないしぃ、おっぱい揉んでてもなんか震えてるし、表情暗いしぃ……、そういうのしたくないのかなって」

「そ、それは……」

「でも事情は訊かないよ? あたしだって、昔のこととか、あんまり訊かれたくないし。でも、仲良くなりたい!」

「あ、あぁ……」

「だからちゅーしよ? ちゅー! ちゅう~」


 深紅は振り返って、千尋の顔に触れる。湯煙の中だが、深紅の豊満な体は分かる。少し、火照っていてとてもいやらしい。正常な男子だったら、最高のシチュエーションなのだろうか。深紅の言うとおり、自分はおかしい。男なのに、この場面で頭に浮かぶことは、深紅を襲いたいということではない。えっちしたいという気持ちではない。

 

「だ、だめですよ……」

「え~? なんで~? ちゅーくらいいーじゃん!」

「キスは……、愛の交換だから……、その……、愛がないと」

「愛あるよ! いっぱいあるよ! あたし、だーりんのこと愛してるもん」

「で、でも……、それはお互いに……、愛がないと」

「だーりんはあたしのこと愛してないの?」

「わ、わかんないです、よ……。ぼ、僕は……、そういうのよく分かんなくて。でも……、今は、整理が追いつかなくて」

「ピュアだねぇ。千尋くんは」

「すいません」

「それに真面目だ。とっても」

「い、いや……、そんなことないです、けど」

「でもちゅーしちゃお」

「……え?


――ちゅううう。

 

 深紅は千尋にキスをする。唇を重ねる。五秒、一〇秒。濃厚で甘いキスである。

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