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第39話 それとも……

39


 玄関にはローファーやニーハイブーツ。コンバースやナイキのスニーカーが置かれている。サイズは小さい。二三㎝。千尋と同じくらいのサイズもある。

 靴を脱いで中へ。廊下はフローリング。ふわふわのカーペットはクリーム色。フレンチローズの芳香剤。間接照明。ウェルカムフラワーが置かれている。

 

「こっちだよ」

「あ……、う、うん」

「もう揉まなくていいの?」

「は、はぁ?」

「おっぱい」

「い、いいですよ! もう!」

「くす……、そう? なの? 男の子はいつでもおっぱいを触ってたいものだと思ってたけど」

「誰からきいたんですか! もう」 

「誰っていうか、常識っていうか……?」

「どんな常識!」

「あはは、千尋くんおもしろーい」

「あ、あなたが……、変なこと言うからです……よ」

「面白くてかわいいって最強~」

「ち、違います。かわいくない……、です」

「素直じゃないところもかわいい」

「や、やめてください! ……よ。もう」


 千尋は冷静ではない。パニックだ。だが、PTSDのそれとは違う。なにが違うのかは、自分では分からない。呼吸が荒い。お腹が熱い。足が震える。頭が真っ白になり、ふわふわとした気持ちになる。今にも倒れそう。逃げだしたい。しかし、気持ち悪くない。


「さ、座って」

「あ……、は、はい」


 リビング。大きなテレビとローテーブル。ソファ。ラグマットは肌触りがいい。千尋は床に座る。ソファは悪い気がした。

 深紅はキッチンで飲み物を入れる。

「なに飲む? お茶? コーヒー? ココア?」

「いや……、あの、ココア……」

「それとも……あ・た・し?」

「は、はぁ?」

「あたしのおっぱいがいい?」

「な、なに言ってるんですか、もう!」

「言っておくけど母乳は出ないよ?」

「言わなくていいですよ!」

「うふふ、千尋くん、なんか打ち解けてくれたみたいでよかった」

「あ……、いや、あの……、えっと」


 深紅は手際よくココアを三つ入れる。

 ローテーブルに置き、座る。


「先にご飯にする? それともお風呂にする?」

「ふ、風呂?」

「うん! えっちなことする前に、まずはお風呂でしょ? あ、お風呂でえっちなことするのかな?」

「な、なに言ってるんですか、さっきから」

「だってだーりんでしょ?」

「ち、違いますから」

「でもね、あたしは一目惚れしたんだよ」

「そ、それは……、あの」

「ここまで着いてきたってことは、千尋くんもそのつもりってことだよね?」

「いや、そのつもりっていうか……」

「っていうか……?」

「あ……、あの……、帰れなかったっていうか……、あの」

「あたしが魅力的だから?」

「……そ、それはそうですけど、そうじゃなく……」

「うふふ、千尋くんよく分かんないよ? ほら、とりあえずおっぱいでも揉んで」

「も、揉みません!」

「ね! ぎゅうぅぅ!」

「あ……」


 深紅は千尋に抱きついて胸に引き寄せる。体の小さな千尋は、こうなると拒否できない。華奢なあおいにすら、勝てない腕力。母性の象徴。脂肪の塊。深紅の巨乳に押しつけられて、息が詰まる。


「うふふ。ぎゅうぅぅぅ」

「あ……、うぅぅ……」

「ふふ、かわいい」

「はぁはぁ……、う……、うぅぅ」

「そんなに息荒くしちゃって、やっぱりおっぱい嬉しいんだね。男の子だね」

「はぁはぁ……、ち、違いますから……これは、あぁぁ」

「白眼までむいちゃって、ふふふ。えっちなんだね」


 巨乳に押しつけられると、息が苦しい。ほどほどに息継ぎをしないと、窒息する。普通の男なら、抵抗できるかもしれない。が、深紅に抱きしめられている状況では、顔を上げるだけでも大変だ。

 酸素が不足し、白眼をむいた。と、千尋は説明したいが、深紅は聞いてくれない。


「うん! じゃ、先にお風呂入ろうね。お風呂でいっぱい揉み揉みしてね」

「はぁはぁ……、あ……、あの」


 深紅は千尋を抱きしめたままお風呂へ向かった。


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