第31話 校門
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聖愛学園の校門には守衛がいる。高等部。生徒数は一〇〇名を超える。東京ドーム五個分の広い敷地には、充実した施設。メインとなるクラス棟、部活用の部室棟、音楽室や理科室を備える専門棟。校庭は四百メートルトラックが二つ。隣接する野球場。サッカーグラウンドは二面。テニスコートは八面備える。埼玉県の郊外。空いている土地を活かし、都心部では難しい施設の充実。学校の売りだった。
「えっと……、あの、その……」
「……?」
「いや! あの……、えっと変なあれじゃなくて、あの……、ごにょごにょ」
「……? なにかご用ですか?」
「いや、用っていうか、呼ばれたっていうか、あのえっと……」
「きみ、名前は?」
「あ、うぅ……」
千尋は守衛の男性に威圧される。守衛は威嚇したつもりはない。が、圧倒されてしまう。千尋は口ごもる。目を見ることもできない。頭が真っ白。言葉が消えていく。
「関係者以外は敷地内には入れませんよ」
「あ……、うぅぅ……」
「……? 大丈夫ですか?」
「あ……」
「優木千尋です。二年三組の山吹未来さんに招待されて来たんです」
「招待?」
「はい。私はその連れです。ほら、千尋。ちゃんと言わないと」
「う、うん……、あの、新聞部の活動の一環で……、先生の許可もいただいているとか、で」
「新聞部の?」
「はい。そうです。えっと、教師の花村麗奈さんに連絡してもらえると、分かりやすいんですけど」
「あ、はぁ。では、少しお待ちください」
守衛は受話器を手に取り連絡をする。守衛室は職員室と連絡が取れる。あおいの冷静な対応に千尋は安心する。同時に、情けなくなる。
招待されたのは千尋だけ。が、同行者がいることは、LINEで連絡済み。
「あ、許可が取れました。この、来客者用の札を首からおかけください」
「ど、どうも」
「ありがとうございます」
警備は厳重。昨今の未成年者への事件の多さ。対策はしっかりしている。守衛を通さないと学校に入れない。来客者は「来客者」を書かれた札を首からかけることになっている。
「はい」
「……?」
「ここからは人ばっかりでしょ。密室だし。だから、はい」
「なに? その手」
「言わないと分かんない?」
「いや、分かるけど、恥ずかしいし……、だって学校だよ。高校だよ? さすがに……」
「大丈夫よ。どうせ姉弟にしか見えないよ。制服も着てないし」
「余計恥ずかしいわ!」
「とにかく。握って」
「しょうがないなぁ」
――ぎゅっ。
千尋は差しだされた手を握る。二人は手を繋ぐ。同じ制服を着ていれば、遠目にはカップルに見えないこともない。が、私服では関係性は推測しづらい。体格差と千尋のあどけなさが、判断を歪める。
「お手々繋いでラブラブ登校だね」
「いや、登校じゃないし」
「いいじゃない。じゃあ、学校訪問デート?」
「そんな言葉はない」
「んもう、なんでもかんでも否定してぇ。千尋はわがままなんだからぁ」
「どこが?」
「じゃ、ただのデートでいっか。それで許したげる」
「なにを?」
「ほらほら、行くわよ。倒れないでね」
仲良く手を繋いで、校舎へ向かった。




