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第24話 ロリコン。きもい

24


 午後七時四五分。琴音たちは帰路に着いた。帰りのドライブは雨の中走った。ささやかな雨が降り出した。少し冷たい雫。傘はない。築地寿司と駐車場の間。勢いよく走って社内に駆けこんだ。

 

 入間川の自宅に着いた。めぐみを先頭にかけ足で屋内に入った。タオルで髪を拭いたら、リビングで一息。めぐみが手際よく飲み物を入れた。メニューはそれぞれ決まっている。めぐみはお茶。琴音はコーヒー。千尋と奏はココアだ。めぐみは薬物依存の治療の一環で、カフェインに敏感になっている。また、依存してしまうことを危惧している。

 琴音は、「コーヒーのカフェインくらい大したことがない」と、笑っているが、めぐみは本気だった。コーヒーは子供のころから飲んできた。大人と付きあいが多かったからだ。味も嫌いではなかった。今は、飲んでも無味だが、香りは感じる。

 千尋はコーヒーが苦手だ。本人は子供扱いされることを嫌っているが、味覚は児童と変わらない。「苦くて飲めない」とコーヒーを嫌う奏と二人ココアを飲む。


 その間、浴室にお湯が張られる。給湯器のスイッチを押したのは、めぐみ。めぐみは家事が好きだった。お手伝いが今の生きがいである。

 

 お風呂の順番は大体決まっている。奏、琴音、千尋、めぐみ、の順番だ。毎日、この順序でお風呂に入る。最年少の奏

が最優先。出勤時間が早い琴音が二番。その後、千尋、めぐみと続く。通信制高校の朝は一〇時から。池袋まで通うため、九時前には家を出るが、琴音たちよりは遅い。


 奏がお風呂に入っている間、めぐみと千尋はゲームをしている。琴音はコーヒーを飲みながら煙草を吸っている。千尋のトラウマを引き起こす匂いだが、琴音は気にしていない。「トラウマ? 関係ないわ! 煙草のにおいは先生との思い出の匂いになればいいのよ!」

 と、千尋を誘う。「辛くなったら言いなさい。ちゅーしてあげるから!」と、ふざける。過去に囚われず、未来を目指すべきだ、と千尋は言われてきた。あおいや、琴音に。その考えには、同意している。虐待のトラウマを、琴音先生とのキスへ変えられたら、少しは楽になるのかもしれない。


「あ、ちーちゃんトリックルームだ。ずるい~」

「いや、ずるくないだろ。戦術だ」

「卑怯な手を使うなんて~、あたしはそんな風に育てた覚えはない~」

「育てられた覚えもない」

「ぐ……、あたしのザシアンは、それくらいじゃやられないんだから」

「ま、地震で確定二発だな」


 Switchでポケモン対戦をしている。ポケモンは奏の影響で始めた。奏はポケモンが好きだ。イベントに出かけて、色違いや限定のポケモンの配布を集めるほどだった。病院にいた時は琴音や、看護師に頼むくらいにオタク。

 奏が家に来たのは四月から。奏と一緒に遊ぶため、千尋たちもポケモンを始めた。千尋は小さいころにゲームを一作品やったくらい。ほとんど知識がなかった。

 めぐみは、全く触った経験がなかった。

 しかし、最新作から始めて、過去作を全てクリアした今は、立派なポケモンオタクだ。対戦の知識もネットで調べてある。「厳選」や「努力値」等、オタク用語も飛び交う。

 来週は池袋サンシャインのポケモンセンターに奏と三人でおでかけする予定だ。ポケモンの限定配布があるからだ。

 

 Switchは三台ある。琴音がゲームをやる時は、大抵、めぐみの機体を借りている。今は部屋。お風呂を待つ間、仕事をするのだという。

 

 そうこうするうち、奏がお風呂から上がった。火照った肌。濡れた髪が艶めかしい。パジャマはボタン式。第三ボタンまで外している。胸元は少し膨らんでいる。巨乳の琴音やめぐみに比べると、物足りない。が、年齢を考えれば自然なサイズだ。成長期。身長は少しずつ伸びている。胸も四月より大きくなった気がする。すぐにもっと大きくなるのだろうなぁ、と千尋は思う。


「ちーちゃん! なに見てるの!」

「え? なにって……」

「あ~! えっちなこと考えてたでしょ~! ちーちゃんのロリコン!」

「え? いや……、別に考えてないし……」

「じゃあなにを考えてたのさ!」

「え……、いや、成長期だなぁって」

「えっち! やっぱりロリコン!」

「いや! なんでだよ!」

「いやらしい!」

「違うよ! 僕はただ……、奏も大きくなったなぁ、と思っただけだ!」

「やっぱえっちじゃん」

「親目線的なやつだよ!」

「ちーちゃんはちっちゃいおっぱいが好きなの?」

「いや……、ちっちゃいっていうか」


 奏:【千尋の変態】


 と、スマホにLINEが来る。千尋が視線を送ると奏がスマホを持っている。奏はお風呂場にもスマホを持っていく。声が出せないので、いざという時、助けを求められないから。【シャンプーがきれた】とLINEをすることもある。【寝間着忘れた】と、千尋を顎で使うこともある。

 奏にとって千尋は、友達のような相手。年上であり、兄で

あり、異性でもあるが、緊張せず話せる男性。

 奏は男性が苦手だ。監禁殺人事件の犯人は三〇代男性。男性はトラウマを引き起こす。

 普段は飄々としているが、異性相手は別。小学校でも、男子とはあまり話せない。

 が、千尋は不安を駆り立てない存在。理由は自分でも分からない。見た目が、そうさせるのか。はたまた性格か。琴音にも分からない。

 

【ロリコン。きもい】


「ほら~! かなりんも怒ってるよ!」

「いや……、僕が言ってるのはそういう意味じゃなくてだな

【いつ襲われるか気が気じゃない】

「うんうん。ちーちゃんも男の子だからね。恐いよね」

「奏なんか襲わないから!」

【ひどい。奏なんか、なんて。傷つく】

「ちーちゃんは女の子の扱い方を分かってないなぁ~」

「いや、どっちだよ! 襲って欲しいのかよ! お前らは!」

【やっぱり襲う気なんだ。さいてー】

「ちーちゃん、小学生は犯罪だよ? 襲うならあたしにしよ? 合法JK!」

「いや、どこからつっこめばいいか……」

【突っ込む、なんて。いやらしい】

「あたしはどこでも突っ込んでいいよ? 慣れてるから! ほら? どこ? どこの口かな? うん?」

「お前らが変態か!」

【奏は小学生だからよくわからない。なにが変態なの? 教えて。千尋」

「うーん? 変態じゃないよ~? 経験豊富なだけ!」

「だめだ。こいつら……」

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