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第1話 せんせーは、ちゅーしてくれないと千尋くんから離れられません

 1


 九月三日。金曜日。朝十時。埼玉県狭山市。人口十二万人。工場と住宅街が広がる東京のベッドタウン。三上琴音の家は郊外にある一軒家である。築三十年が経過した木造建築。二百平米の広い敷地に庭付き。部屋は五部屋ある。

 一級河川。全長二十五キロの入間川沿いに建つ。入間川は目と鼻の先。裏庭から外に出たら、もう土手である。川の匂いが窓から吹き込み、流れる水の音も聞こえる立地。自然溢れる環境を、琴音は気に入っている。


 朝八時。

 千尋はリビングのソファに座っている。今日はこれから外出予定がある。学校に行き、恋人の川澄あおいと池袋で会うのである。

 川澄あおいは解離性障害を患っている。幼少期に激しい虐待を受け心を壊した。感情を表すのが苦手。能面。訥々とした声。美少女だが、蒼白で儚い。人形のようだ、とよく言われる。しかし、そんな自分を否定せず、受けいれている。そして、力強く前を向いている。千尋はあおいのそんなところが好きだ。


「千尋くーん。せんせーに若いエネルギーちょーだーいっ!」

「はぁ? 嫌ですよ」

「え~? なんで~? ぎゅっとさせて~っ!」

「だめです」

「やだやだ~っ。千尋くんはせんせーにぎゅっとされるためにここに居るんだから! えい!」


 三上琴音は一階の別室。奥にある自室からリビングへやってくる。三十代前半。メガネをかけ麗しい美人。異性にもよくモテる。琴音は、千尋に勢いよく抱きつく。千尋は眉をひそめる。


「はあぁぁぁ~んっ、やっぱり若い男の子の体は元気が出るわ~っ、せんせー若返る~っ」

「タバコ臭いので離れて下さい」

「やだ~、せんせーはもう千尋くんから離れられない~」

「離れて下さい」

「む? せんせーは、ちゅーしてくれないと千尋くんから離れられません。はい。離れて欲しければちゅーして下さい」

「は? どういう理屈ですか」

「せんせーはさみしがりだからぁ。愛情をちゃんと貰わないと千尋くんから離れられないのです。心理学用語でいう、反応性愛着障害です」

「違うでしょ。変態だからでしょ」

「え? ちがうわよ~? せんせー変態じゃないもん!」

「ショタコンでしょ」

「ぐへへ~、違うもん。千尋くんが大好きなだけだもん!」

「まぁ、まだ僕だからいいですけど、本物の小学生とかに手を出したらダメですからね」

「あ、千尋くんならいいんだ? ぐへへ~、なんだかんだ千尋くんはせんせーのこと大好きだね~」

「そりゃ……、嫌いなわけないでしょ」

「あら、そう?」

「不本意ですけど……、僕は先生に救われましたから。だからといって、ちゅーしたりは……、しないですけど!」

「え~? だめ~! ちゅーしよ? ね? ね?」

「離れろ変態!」

「やだ~。ちゅー! ちゅー! それにもっと先もしよ? 

ね? 千尋くんはせんせーの性欲処理用の男の子なんだから~!」

「きもい! 離れろ~!」


 三上琴音は小児性愛者である。重度ではない。性的嗜好、という程度だ。一〇代の男の子がすき。見た目は十二歳くらいが一番好きだという。声が変わりする直前の男。筋肉がつき始めたが、まだ子供の体型。そんな男の子をみると興奮する。

 優木千尋は琴音のタイプである。千尋は背が小さい。一五〇㎝に満たない。線が細く色白。声が高く、女性のよう。声変わりはしたが、低くならなかった。

 千尋は小学生に見間違われるほどに、あどけない見た目だ。顔立ちは綺麗。ニキビひとつなく、可愛らしい顔。

 琴音にとって理想の男の子。しかし年齢はまだ十六歳。肉体関係を持てば犯罪になる。だが後二年、待てば……。千尋は合法ショタになる。

 

 小児精神科医でありながら、小児性愛者。変態先生、と千尋は琴音のことを罵倒する。入間川の畔。二百平米の一軒家。木造二階建て。築三十年。部屋は六つ。二階に四部屋。一階に二部屋。そしてリビングと客間がある。リビング二十畳。広々とした空間だ。アイランドキッチンが併設。四十七型のテレビがあり、大きなソファに六人掛けのダイニングテーブル。イスは今は四つ。すみっこぐらしのぬいぐるみが置いてあるのが雪村めぐみのイス。ピンク色の膝掛けが置いてあるのが琴音のイス。四角形の黒いクッションが敷いてあるのが千尋のイス。そして、何も置いていないのが日高奏のイスである。


 この家で、千尋が暮らし始めてもうすぐ二年が経つ。

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