第15話 あ、でも、あっちは大きく出来るからいいのかな?
15
サンシャイン六〇階通りの繁華街。サンシャインシティへ向かう道。東急ハンズをグリーン大通りの方へ向かって右折する。裏路地。六〇階通りに比べ、薄汚れている。メイド喫茶や風俗店。定食屋、ラーメン店。湿った空気が流れる。
数分歩く。並んで歩く三人。千尋は真ん中。めぐみとあおいが両サイド。左右から千尋の手を握っている。身長一五〇㎝台のあおいは、細身で小柄。
が、千尋と並ぶと大きく見える。千尋はさらに小さい。
「今日は夜もカレーにしよ~」
「は? なんでだよ」
「え? だって今日はカレーの日にしたいから。昼も夜もカレー。分かりやすくていーでしょ?」
「意味わからん」
「ほら、千尋。そんな言い方したらだめでしょ」
「はぁ? 言い方?」
「めぐみちゃんの方が年上なんだから、ちゃんと敬わないと」
「敬うって、このアホ女を?」
「アホゆーな! アホって!」
「でも……、めぐみはアホだから」
「んもうぅ~! ちーちゃん! あたし怒るよ!」
「いや……、悪い意味じゃない。いい意味で言ってるんだ」
「い~意味?」
「うん。めぐみは裏表がなくていいなぁって。なに考えてるか凄くよくわかるもん」
「そ、そう?」
「ねえ、それって、私への当てつけ?」
「違うよ。あおいちゃん」
「ふぅん。どうだか。私、無表情人形だから」
「違う違う。全然違うから」
「千尋は、顔がよく喋る子が好きなの?」
「……? いや、好きとかそういうのじゃなくて」
「え~? ちーちゃんはめぐみお姉ちゃんのこと嫌いなの~?」
「いや、だから好き嫌いの話しではなくて」
「どっちなの? 浮気なの? 千尋はめぐみちゃんがいいの?」
「あ~、めんどくさいな」
「女は面倒くさいの。さぁ、答えて。千尋。私と愛ちゃん、どっちが好きなの?」
「……、ノーコメントで」
「だめ。はいかいいえで答えて」
「なんでだよ」
「千尋は私のこと好きですか? 嫌いですか?」
「……、なんだよ、もう」
「ほら。答えて。好き? 私のこと」
「……、ん」
「なにそれ。その返事。どっちなの? いいえ? 嫌いってこと?」
「違うよ! ……、もう」
「じゃあ、好き?」
「……、知るかバカ」
「はい。だめ。そんな口の利き方は、許されません」
「許されないってなんだよ」
「はい。また言った。千尋は、子供なんだから、ちゃんとした言葉づかいをしないとだめです」
「あおいちゃんと年変わらないだろ」
「でもだめです。千尋は私のものなんだから、私のことも敬いなさい」
「……意味不明だ」
「意味不明? じゃあ、教えたげよっか?」
「いや……、いいです」
「なんで? 千尋がいかに私のものなのか、手取り足取り指導してあげる。楽しいよ?」
「……、いや、面倒くさそうなので。いいです」
あおいは訥々と話す。言葉には抑揚がない。表情も変わらない。微笑。瑞々しい瞳。心の内を覗き込むような大きな瞳だ。
「さ、メシだメシ」
「あ~、話そらした~」
「そらしてない」
ビルの地下。道路に迫り出した看板。二〇時間煮込んだ名物のビーフカレーの宣伝が書かれている。200グラム。一人前。九二〇円。香辛料の匂い。食欲をそそる。
地下への入り口。階段が見える。
「お腹空いただろ。みんな」
「すいた」
「ペコペコ~」
「昼飯にしよう」
「千尋もちゃんと食べないとだめだよ」
「そーそー! ちーちゃんもたんと食べないと大きくならないよ」
「……、いや……、僕は」
「好き嫌いするから、千尋は小さいんだよ。だめよ。私みたいにちゃんと食べなきゃ」
「あおいちゃんは食べ過ぎ」
「いいえ。千尋が食べなさ過ぎです」
「そーそー。ちーちゃんも大きくならないと。あ、でも、あっちは大きく出来るからいいのかな?」
「あっちでどっちだよ」
「ちーちゃんのちーちゃんだよ!」
「……、知らんふりをしておこう」
千尋は呆れながら階段を降りた。




