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第116話 才能

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「千尋くんもミスコン出たんでしょ? あ~っ、言ってくれたらよかったのに~! そしたらお姉さん、走ってきたのに~っ! 見逃しちゃったじゃないか」

「いや、走ってきたでしょ。川に興奮して道草食ってただけで」

「食べてないもん。自然パワーをもらってただけ」

「いや、慣用句だから」

「……? かんよーくってなに? ニューヨーク的なあれですか?」

「……有理栖さんってバカなんだなぁ……」

「う、うるさいな! あたしは不登校だった時期があるから勉強してないの! だから仕方ないの! そういうきみは頭いいのかい? そんな話しは全然きかないけど」

「――ッ……、そ……、それは……」

「にしし~、だめだよ~千尋くん。自分にできないことを人に言ったら~」

「は、はい……すいません」

「うんうん。素直でよろしいっ。んー、若いっていいね~、純粋で」

「有理栖さんだって若いでしょ」

「若くないよ~、もう大人だもん。成人してるし、お酒も煙草もできるし~」

「有理栖さんが若くなかったら先生なんてもうお婆ちゃんですよ」

「……? ん? なんか言った?」

「いや……、なんでもないです」


 午後五時。

 ミスコンテストの裏で千尋と有理栖はリハーサルをしている。イベント会場の控え室で、ギターを抱えて有理栖は歌を歌う。

千尋もギターを持って有理栖の演奏に合わせるが、つたない手元は素人感があらわれている。

 

「そう言えば~、あの子千尋くんの知り合いなんでしょ? 恵那ちゃん、だっけ?」

「は、はい……、一応……」

「かわいい~よね。千尋くんってモテモテだよね。それもスターの証っていうか、人を惹きつける魅力があるからだね」

「そんなことないです……、みんな僕をからかってるだけで……」

「嫌いな人はからかわないよ。好きだからいじめたくなるの」

「恵那みたいなことを……、言いますね。有理栖さんってサディストなんですか?」

「……うーん? わかんなーい。ほらあたしって感覚人間だから、いじめるのもいじめられるのも好きだよ」

「両刀……、なんですね」

「千尋くんってエッチだよね」

「……っ、な、なにを言うんですか」

「なんか~、えっちぃもん。話題の一つ一つが」

「そう……、なんでしょうか」

「……? うん。そう思う」


 純粋無垢。恵那のように無邪気に笑うが狂気を感じない。有理栖の笑顔は太陽のように輝いていて、影を照らしてくれる。虐待され指に障害が残りながらもプロのアーティストになり、若者のカリスマになった有理栖の存在は、千尋の憧れ。いつか自分もこんな風に輝きたい。


「僕……、わかんないんです。そもそもこんな見た目だし……、ちゃんと成長してるのかどうか……」

「子供みたいだもんね」

「う、うるさいな。気にしてるんだから言わないでくださいよ」

「でもそんな見た目がきみじゃん。きみらしさだよ。あたしはきみをかわいいと思うよ」

「別に……、かわいくなりたいわけじゃないし」

「それは元からかわいい人が言う言葉だよ」

「……、またからかって」

「えへへ、どうやらお姉さんはきみを見ているとサディスティックになるみたいなのだ。へへへ~っ、いじめたくなっちゃう~」

「ふ、ふざけないでくださいよ」

「お姉さんと付き合う?」

「……ぶッ!? は、はぁ?」

「きみならいいよ。お姉さん彼氏いないし、色々教えてあげても」

「いや……、あの……」

「嫌、か」

「いや、そのいやじゃないんですけど……、あの、えっと」

「ふふふふっ、ぷははは~っ、千尋くんってやっぱりおもしろーいっ」


 有理栖は吹きだしたように大笑いすると、今度は全身を揺らしながら悶える。その仕草だけで千尋はなにをされたのか意味がわかった。


「有理栖さん!」

「ごめんごめん。だってからかうの楽しくて」

「いい加減にしてください!」

「ごめんごめん、練習だったよね。練習」

「そうです! 僕、難しい演奏できないんですから、有理栖さんが合わせてくれないと」


 有理栖の持ち時間は二時間程度。その間にフリートークの時間もあるが二十曲程度歌う予定である。ライブに慣れた有理栖にとっては楽しみながらこなしたいと思う舞台だが、千尋には荷が重い。まだギターを始めて一ヶ月程度である。ライブは満席が予想される。四千人の観衆を前に、二時間もステージに立っていられる余裕はまだない。


「まあまあ、いいじゃないか、あたしも鬼じゃないし、きみの才能を買ってあげてるんだよ? 舞台に立つのも自分の曲を歌う時だけでいいって言ってあげてるじゃないか。まあ、その方が緊張すると思うから、ずっとステージに居た方がいいと思うんだけれどね」

「いや……、それはありがたいっていうか嬉しいですけど……、でも、僕なんかに才能があるとは思えないし……」

「卑屈だなぁ。ネガティブで内気で日陰大好きっていうきみのハートは、お客さんを導くスポットライトには似合わないね」

「う……、うぅ……」

「でも、そうやって積もりに積もった想いって言うのは、大きな力になる。普段、外に発露できないから、なにかを通して自分を表現し出すと止まらなくなる。つまり、芸術家に向いてる性格でもある」

「う、うぅ……、有理栖さん」

「大体ね~、楽器を始めて一ヶ月で曲を作れたきみに才能がないわけないじゃないか。ろくにコードも知らないのに、歌詞を書いてメロディをつくって……。理論も経験もない人間がなにを頼って歌を作ったんさ? それはもう、才能以外のなにものでもないでしょ?」

「う……うぅ」

「ふふふ~っ、きみはやっぱりかわいいね~。褒められると恥ずかしくなって言葉に詰まるの? えへへ、こうしてるとめぐみちゃんたちの気持ちがよくわかるよ~」

「……?」

「抱きしめたくなる」

「あ、……、や、……、めてくださいよ。有理栖さんまで」

「うーん、色んな人を見てきたけど、きみはやっぱりいいな~っ。そのビジュアルだけで売れるよ。それで色んな人と出会って、色んな経験をしたらね、きっときみの目標だって叶うと思う」

「目標……」

「そう! 大人になりたいんでしょ? だったらね、きっとその夢の近道だと思う」

「うぅぅ……」

「バラエティとか出たらかわいいから人気出そうだもん。テレビの仕事も向いてそう」

「いや……、歌手になるんじゃ……」

「ふふふっー、今は自分を売り込むためには何でもする時代だよ。あたしもね、自分のチャンネルで動画配信してるし~。本当にね、きみもこっちに来たらいいと思う」

「……っ」

「きみがその気ならね、あたしも手伝うし、色んな人を紹介するよ」

「どうして……、そこまで」

「きみが好きだから」

「……っ、あ、有理栖さん……」

「なーんて、ははは~、まあ嘘でもないけど……、イチイチ反応しておもしろーい」

「あ、有理栖さん!」

「まあ……、きみは仲間だから。あたしたちって、ほら、同じ世界から来た者通しでしょ。きみのことはね、まるで自分を見ているように思って、すっごくね気になる。きみが頑張ろうとしている姿にね、あたしだって元気をもらえるんだ。小さい体でもがき苦しみながら前を向いていこうとする。それは、多くの人を感動させるよ、きっと」

「……、ありがとう……、ございます」


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