第113話 再会
113
――チャリン♪――。
「あ、もう結果来た。恵那は……、あ~! やっぱり一位通過だって~!」
「恵那ちゃん素敵だったもの。ステージが天職みたいな、そんな感じがした」
「えへへ~、ありがとうあおい様~! 私のこと見つけてびっくりした?」
「ううん。それほどでもないわ。千尋から聞いていたし、恵那ちゃんはどこにいるのかなって、私も探していたの」
「えへへ~、そうなんだ~! 恵那はね、ひろくんたちに会おうと思ってここに来たんだけど、コンテストに出たくなったから出たの。でもひろくんも出るとは思わなかったよ~」
「私も探してはいたけれど、ミスコンに出るとは予想してなかったから、少し驚いた」
「えへへ、でも全然そんな感じしない~」
「私、相変わらず人形だから」
「えへへ、素敵です~! ひろくんもあおい様も懐かしいなぁ~! あ、琴音先生は? 先生はいないの?」
「先生は……、ちょっと用事があって」
「ふーん。先生にも会いたかったのになぁ~。ほら! 恵那こんなにも成長したよって見せたかったの!」
恵那は大きな乳房を大胆に掴んで、上下にゆらす。愛と脂肪の詰まった膨らみは、あおいよりもめぐみよりも大きい。恵那は自慢げに笑うと、千尋に向かっていきなり走りだす。
「う……、あ」
「――えへへ~! ひろくん! ぎゅううー!」
「あ――っ、う……、うわぁあぁ……」
「ぎゅうううう~ううううううううううううう~!」
「ふご……、う……、うぅ……」
「えへへっ、恵那もおっぱいぎゅうするの! あおい様みたいにぎゅううするの!」
「え……、恵那……、く、苦しい……、ふごふご」
「恵那ちゃんは変わらないね」
「え~? そうかな~? 私変わったよ。おっぱいも大きくなったし、背だって大きくなった。ひろくんを窒息させられるくらいに」
「ふふふ、そういう感じ、全然変わらない」
「うーん? 恵那よく分かんない。でもわかんないけど楽しいからいーや。えへへ、やっぱりあおい様たちと一緒にいると、恵那は嬉しい!」
七年ぶりの再会。精神病棟で過ごした二年間の思い出は、三人を特別にする。機械のようだった千尋。自分がなかったあおい。感情を我慢できなかった恵那。あれから七年。一番変わったのは誰だろうか。あおいは思う。なにも変わっていないのかもしれない。ただ歳を取っただけ。見た目が大人になっても、心の中はあのころのまま、止まっているのかもしれない。
「ひろくんも通過できた?」
「ふご……、いや……、まだ見られてない……」
「通知来てたよね? 早く見てよ~。恵那と一緒にお祝いしよう?」
「ふごふご……、いや、恵那が離してくれないと……、スマホも見られない……」
「あぁ~、そっかぁ~! 恵那ぎゅうしたくてそういうのわかんなかった」
「離せ……、はぁはぁ……くそ……」
恵那から解放された千尋は、呼吸を整えつつスマホを見る。一次予選の結果は、公式アプリで誰でも見ることができる。投票は専用のアプリを使い、会場にいなくとも参加することができる。
「千尋どうだった?」
「……、二十二位……」
「あら」
「あー、ちーちゃん! 惜しかった~! あと少しだったのに~!」
「ひろくん落ちちゃったんだ」
「……、みたい」
「まあ、投票は参加番号の一人目からできるから、後半の方が不利だったし、仕方ないわ」
「ちーちゃん、慰めてあげるね~! お姉ちゃんがキスとおっぱいで――」
「――ザッ……、いや、大丈夫だから」
抱きしめようとするめぐみの気配を察知し、千尋は数歩後ずさりして身構える。
「僕は……、そもそも勝つ気ないし……、参加したのだってみんなに強制されて……」
「でも残念ね。悔しがってもいいのよ」
「そうだよひろくん。負けは悔しいよ。怒ったり泣いたり、暴れたりするのが普通だよ! 我慢はいけないことだもん。吐きださなきゃ! 感情のままに恵那にぶつけてよ」
「はは……、やっぱり絆の会出身者は同じ考えだね」
「まあ、我慢してたらおかしくなっちゃうもの。心が死んでいく。私みたいに」
「そうそう。それに、好きなように生きた方が楽しいもん。神様のご褒美はとっても気持ちがいいし!」
「僕は別に……、我慢してるわけじゃないよ。むしろ清々しい気持ちだよ」
「そう?」
「うん。あんな大勢の前で自分の言葉を言えたんだ。嬉しかったよ」
「それなら……、よかったわ」
後夜祭では有理栖とのライブがある。不安は拭えないが、その前にステージを経験できた。そして、萎縮しながらも想いを口にできたことで、千尋は成長を感じていた。これまでの僕とは違う。新しい自分。
「それで恵那……、準備ができたってどういうこと?」
「にしし……、え~? なんのこと?」
「さっき自分で言ってただろ。僕たちを迎えに来たって。色々考えてるって」
「えへへ……、それを言うのはまだ早い……、気がするけど……、でも、いいのかな? うーん、どうしよう。ひろくんは言って欲しいの?」
「千尋なんの話?」
「前も言っただろ。恵那は……、よからぬ組織と繋がりがあって、また絆の会みたいなことをしようとしてるって。僕はそれを否定できないけど、でも恵那のことが心配なんだ」
「王国……」
「えへへ、大丈夫だよ。だって絆の会と違って、恵那の王国は恵那のための王国だもん。恵那の思うがままにできるの。恵那は女王で、国民はみんな恵那の言うことをきいてくれる。恵那はカリスマでスターだから。あおい様みたいに」
「僕たちをそこに連れていきたい。そういうことなんだよな?」
「えへへ、そうだけど……、でもそれだけじゃないよ! 恵那はね、もっと面白いことを考えてるの。しかも今日! ここでね、ひろくんたちに見せてあげる。恵那の力。可能性。計画を」
「……? どういうこと?」
「そのうちわかるよ」
「だめだ、今教えろ」
「ぐへへ~、いい! 今のいいよ~! ひろくん! そうやって自分の想いに素直になって、遠慮せずにわがまま言ってよ~! 恵那を監禁して拷問するくらいに強気になってよ! 恵那はそういうひろくんが好きなんだから」
「……、そんなことするつもりはないけど……、でも知りたい」
「じゃあ、聞きだしてよ。前もこんなことあったよね? ひろくんはなにも出来なかったけど、今だったらできる?」
「う……、うぅ」
「恵那ちゃん。千尋をあんまりいじめないで。殺すわよ」
「あぁ~! 今の冷たい言葉いい! いいですよあおい様~! やっぱりあおい様のこと好きです。常識に縛られないあおい様の性格は私の憧れです~」
恵那の計画は千尋にはなにも分からない。たが考えていることはある。恵那がこれからしようとしていること。企てていること。その意味を。