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第104話 生足はむはむ

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「あ、千尋くんだ~! 私に会いに来てくれたの~? 嬉しい~!」

「う……、西園さん……、うぅ」

「はぁ~いっ。千尋くんが大好きなおっぱいだよ~、むぎゅ~」

「あ……、うぅ」


 温水プールを特別に改造した入浴施設。

 校舎から渡り廊下を通ると華やかな暖簾が下げられた受付がある。若さが眩しいミニスカートの女子高生が纏うはっぴは、爽やかな香りを振りまいて揺れる。

 湿度の高い空気が、千尋の髪をくすぐる。湿気でねじれた髪型を、受付を手伝っていた西園深紅は「かわいい」と言う。


「ぎゅうう~、ほらぁ、また前みたいに揉み揉み~ってしていいよ。千尋くんだったら揉み放題吸い放題っ」

「う……、うう、あ、あうあわうあ……」

「ちょっと深紅~! こんなところで性癖見せないでよ。外部のお客さんだってたくさんいるんだよ」

「だって千尋くんかわいいんだもん。理想の彼。合法ショタ男子。今日の格好も似合っていてかわいいね。千尋くん、むぎゅう~」


 第二ボタンまで開けたブラウスにスカート。はち切れそうなHカップを千尋に押しつける深紅の口からは、生ぬるい涎がこぼれる。

 乳白の肌はほんのりと紅く色付いて、ブラウスの隙間に落ちた体液が少年を甘く誘う。


「生徒会の副会長がそんな顔をしたらだめだ」と、用事から戻ってきた親友の山吹未来は指摘するが、深紅は自重しない。

 西園深紅。生徒会の副会長にして、聖愛学園二年生。

 かつて千尋を誘拐し、自宅で一緒に入浴をしたショタ好き女子高生である。

 元アイドル小学生で、そのころの不快な体験から大人の男性に嫌悪感を持つ一方で、未成熟な少年に性的興奮を感じる異常者。

 地頭はよく、抜群のルックスとスタイル。社交的な性格や女子力の高い振る舞いから、生徒人気は高いが、少し変わり者である。


「お風呂入りに来てくれたんだよね? そのチケット……、うふふっ。じゃあさっそく入りに行こうか。こっちだよ~」

「え、いや……、あの」

「ぎゅうう――、はいはい。こっちこっち」

「――ふご!? もごもご……、うう……、はぁはぁ」

「おっぱいでずっとぎゅっとしててあげるからね~」


 身長一五五センチ。体重四八キロ。

 胸は大きいが、体は小さい。だが、成長不足の千尋をその巨乳で押しつぶすくらい、深紅には造作もなかった。

 巨乳の中は暑苦しいが、頭をくらませる効果があり、千尋は全く身動きがとれなくなる。


 深紅のことは苦手だった。

 明るく積極的で、すぐに胸を押しつけてくるのはめぐみや琴音に似ているが、過去のトラウマ――、小学生のころ自宅を特定され襲われかけた――、そんな心の傷と戦っているところも、めぐみやあおいのようで共感する。

 けれど、対人関係は心のように複雑だ。

 深紅に迫られるとPTSDが発動し、発作が起きる。温かみと優しさに溢れるHカップの谷間の中は、頭を柔らかくする作用がある。脳死状態になるのだ。


「ちょっと、西園さん。千尋をどこに連れていくの?」

「え、川澄さん。それはお風呂……」

「ふごふご――」

「だめ。千尋は私と一緒に入るの。西園さんはここで仕事をしてて」

「やだよ~、私も千尋くんと一緒にお風呂に入って洗いっこするんだからぁ。ね? 千尋くん。こないだのつ・づ・き、しようね? ぎゅうう――」

「ふごふご……、う、うぅぅ……」

「だめ。千尋は私のもの。ほら、千尋。こっち」

「ふぎ――」


 深紅の胸に埋もれていた千尋の顔を、あおいが強引に引っぱると、ぽよんという音と共にあえぎ声が響く。

 言ったのは深紅と千尋。

 深紅は少し嬉しそうに、千尋は苦しそうに悶えた。


「千尋。浮気したらだめでしょ。私怒ってる」

「そ、そういうわけじゃなく……」

「罰としてちゅー」

「い、いや……、ちょっと」

「はい、キス。キスキスキス。キス」

「あ……、あの」


――ちゅー。


 動揺する千尋にあおいは配慮しない。ただ思うがままエゴを押しつける。千尋の肩に手を伸ばし、あどけない唇を奪う。整っているが無表情の顔は、人形のように秀麗。抑揚のない動きは、芸術作品と見まがうほど。


「はむ……、ん……、じゅる……」

「あ……、あおい……、じゅる……、ちゃん」

「じゅる……、だめ、目をそらさないで」

「……、そ、そんなこと言われても……、は、恥ずかし……よ」

「恥ずかしくない。千尋は私のものなんだから、嬉しいはず」

「い、いやでもこんな人前で……」

「女の子同士のキス。これもまた、気持ちがいいものね」


 賑やかな受付の前で、女子高生は線の細い少女にキスをする。その正体は女装男子だが、傍目には誰にもわからない。白い肌、小さな体、高い声、あどけない顔は化粧を施され、とても男性とは思えない。


「ずるい! 私も~、千尋くんとちゅーしたい! したい~! ――ちゅ~」

「あ……、え?」

「ぺろぺろぺろぺろ~、じゅるるるる~」

「うぅ……! あ……、あぁぁ……」

 

 あおいと千尋のキスに嫉妬した深紅は、勢いよく女装男子の体に飛びつく。丈の短いワンピースから見える白く、ムダ毛の一つもない足を大事そうに捕まえると、宝物を愛でるように頬ずりをする。そして、だらしない顔でその生足を舐めるのだ。


「う……、うぅ!?」

「ぺろぺろぺろ~、千尋くんの綺麗な足おいし~っ。ちゅーっ、ぺろ……、じゅる……、はむはむはむ~!」

「あ、あぁぁ……!? うぅぅ……、あぁ……」

「千尋。はむ……れろ……、キスに集中」

「え……、あぁ……、うぅぅぅぅぅ」


 千尋の足を夢中で舐める深紅の姿は大変にみすぼらしいが、あおいには怒りの対象になる。感情がわからないあおいだったが、最近は自分が感じている気持ちがどんな意味を持つのか、少しは理解出来るようになった。相変わらず表情には表れないが、千尋を通してなら、自分を発見できる。この気持ちは、嫉妬。恋の怒りである。あおいは想いに任せて、千尋の口を犯す。


「深紅~……、こんな人が生徒会副会長なんて……、うちの学校って結構やばい……、かも」


 受付の周りには女子生徒に溢れる。だが、驚きや絶望の渦は昇らない。深紅の性癖は、学園内では周知の事実である。なにを隠そう生徒会の立候補演説で、深紅は過去のトラウマと、自分の性癖をテーマにしたのだ。

 傷を乗りこえたその先で少年愛という歪んだ嗜好をもった自分のように、一風変わった人生や性格を認められるような校風、――個性を尊重する自由な学校。

 それこそが聖愛学園の目指すべき人間像だ。私はそれを生徒会に入って推進していきたい――、


 抜群のルックスとスタイルを持ち、人間性に溢れる深紅のそんな言葉は、生徒たちの琴線に触れたのだ。

――だが、聖愛学園の学園祭で性癖を全開にするのは、推奨されない。頭のいい未来や、周囲の生徒たちは深紅を止めに入る。


「深紅~、だめだって。やるなら裏でやらないと~」

「ぺろぺろぺろ……、やだ~っ! だって千尋くんは私の運命の人なんだから~! こんないい男の子一生現れないもん~っ!」

「そんな子供みたいなこと……」

「子供だもん! 千尋くんは子供! 合法子供!」

「はいはい……、ちょっとあっちに行きましょうね。はいはい~」

「う……、や、やだ~! 私は千尋くんといっぱいちゅっちゅして、えっちなことするんだから~っ! 離して~っ」


 これ以上、学校の恥部を見せては醜態になる。そう判断した未来と実行委員の仲間たちは、深紅を千尋の足から引き剥がし、裏のスタッフスペースへ連れていく。

「ち、千尋くん~、たとえ運命が邪魔しようとも~、私たちはまたいつか出会うの! だって……、千尋くんの生足はどんな男の子よりも美味しかったもん。運命の味!」

「静かにしなさい! 変態生徒会長! これ以上、醜態をさらすな」


 未来に叱責されながら、深紅の泣き叫ぶ悲痛な声が廊下にこだまする。

 千尋は事態に圧倒され、既に脳が破綻している。状況を処理できず、性玩具のようにあおいにただ、口を犯されている。

 

 千尋争奪戦に参戦できなかっためぐみは、後悔をする集中を最愛の弟に向けられる余裕がなかった。

 見てはいけないもの――、に目を奪われていたからである。

 

「ミスコン?」


 入浴施設の少し手前の渡り廊下――、無数に張り付けられたポスターにはそれぞれの出し物の内容やイベントの告知がされている。

 その内の一つ――、一際目を惹く花とフリルをモチーフにしたアニメ風のポスターに描かれていたのはミスコンテストの開催日程と場所だった。


「ミスコンかぁ、生徒以外でも出場可……、資格は一五歳から一八歳まで。性別不問……、ふーん、なるほど」


 水商売のシングルマザーの家庭で育ち、幼いころから家出と麻薬、セックスに溺れてきためぐみは真っ当な学園生活を送ったことは一度もない。だが、憧れはある。楽しくて煌びやかな青春。そんなスクールデイズの象徴は、学園祭で行われるミスター、ミス、コンテスト。自分のルックスには自信があるし、ステージの中央に立って、踊ったり歌ったり、マイクパフォーマンスで票を集めたい。儚い夢は、実体もないくらいに半透明な願望だった。

 だが……、


「ねえ! ちーちゃん」

「はむ……、じゅる……、はぁはぁ」

「……? なあに? めぐみちゃん。今、千尋とキスしてるんだけど」

「ちーちゃん! ミスコンに出てみよ~!」

「……は!?」


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