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2-1

「――四大天士ではないのに、なぜ俺まで――」

 人懐っこい少年のような風貌のガブリエルに腕を取られ、薔薇の咲き誇る庭まで渋々連れてこられたルシフェルは、すでに席についている三人の天士に向けて抗議の声をあげた。

「……四大天士以前に、貴方、天士長でしょうが――。ほら、文句たれてないで、お掛けなさい」

 こんなときは大体、ゴツい体格でオネエ言葉のラファエルが彼の世話を焼く。

「わざわざ、こんな定例会など開いて、天士の規律がどうの、秩序がどうの言わなくても――俺は、それぞれの天士のモラルに任せていればいいと思うが?」

「そうだな。そういう話になったら、一番耳が痛いのはお前だろうしな」

 ルシフェルの発する愚痴をしっかりと捕らえたミカエルが、見本であるべき天士長のクセに、口も態度も悪いのはいかがなものか――と挑発するように冷やかに嗤う。

「……ま、ある意味。反面教師としては役に立っているだろうが――」

 手に持った分厚い本から視線を外さずに、静かにウリエルが呟いた。

「――もう、みんな、毎回毎回同じこと言ってないで。そろそろ始めるから、ウリエル、本置いて――。ほら、ルシフェルも早く座って?」

 無邪気に笑いながら、ガブリエルも席に着いた。彼のその中性的な物腰の中にはいつも有無を言わせない――抗いがたい雰囲気がある。

 天士長と四大天士の報告と連絡を兼ねた定例会は、中央図書館の庭の一角にある、会議スペースでお茶を飲みながら定期的に行われる。

 薔薇を背に五人の大天士が揃うとあって、定例会の行われる日は図書館で整理券も配られるという。そして、傍聴席には溢れんばかりの天士たちが、会議が始まる前から陣取って彼らの登場を心待ちにするのだ。

 この日のルシフェルもいつもと同じように、――ただ天士長という肩書きを持っているというだけで――この定例会に出席していた。彼にとって、天士界での規則の確認や規律の乱れに関する報告、天士の人間界(ゼロレイヤー)へのサポート方法の議論など、いつもお決まりの内容は退屈極まりない。

 ガブリエルに言われて仕方なく席に着いたものの、ルシフェルは初めから真面目に聞く気など持っていなかった。

 そんなことよりも、彼には頭から離れないことがある。


 不完全だから完全を目指して進歩する――


 新しい世界が創造(リリース)されてから、ずっとそれについて考えてきた。

 アダムとエバの追放以降、人類はその数を爆発的に増やし、さらには生活に工夫を凝らし改良を加えながら、着実に進歩している。


 だが、自分は――?


 そう考えた時に、行きつくのは、 『そもそも天士は不完全なものということを前提として創られてはいない』という事実だ

 しかし、自分も進歩していきたいと考えること自体――自分が不完全な証ではないのか?


 とうとうたまらなくなって、神気界のその先――創造主(長老たち)のところへ向かったのは、つい先日のことだ。



***



「頼みがある――」

 いつもは下げない頭を、この日ばかりは下げてそう言ったルシフェルに、創造主(長老たち)はフードの奥に驚きを隠しきれない。

「お前が頼み事とは、珍しいな」

 真ん中の長老――"u"が冷ややかに応えた。

「聞くのか、聞かないのか、どっちだ――?」

 少なくとも頼みがあるというような口調ではないが、意味もわからず焦っているルシフェルにとってはこれでも抑えているほうだ。

「おやおや。今日は、一段と迫力があるのぉ」

 右の長老――"m"が愉しげに笑う。

「茶化さずに、答えろ」

 すでに、『お願い』ではなくなっていることに、本人も気がついていない。

「して、頼みとは――?」

 左側の長老――"a"が先を促した。

「俺に足りないものは、なにか……教えて欲しい」

 進歩を求めるということは、つまり、自分も不完全であるということだ――では、何が足りないのか。

「――足りないもの? お前は、我々がお前を不完全なものとして作ったとでも?」

 真ん中の長老()が呆れたように口にする。

「まあまあ、なんにでも初期不良やバグはある。――ワシらも完ぺきではないのでな」

「それに、知ったところで、手に入れられるかというのは別の話だしのぉ」

 左の長老()が"u"を宥めるところに、"m"が割って入ってきた。

「確かに、それはそうだ」

「ふん。わざわざ聞かずとも、この状況を見ればわかるだろう、お前には『我慢』が必要だ」

「なんだとっ!?」

「まあ、そういじってやるな、"u"。――こやつの短気は言い換えれば機動力だ」

「本人がわざわざここに出向いてまで望むのならば――どうだろう?」

 ルシフェルの反応を楽しむように、口々に答える長老。

「まあ、教えたところで、何が出来るというわけでもあるまいしな」

 そうして左側の長老()から聞き出した答えは、ルシフェルにさらなる課題を与えることとなった。

「もし、お前に足りないものがあるとすればそれは、『愛』だろうな」

「……」

 およそ、自分には無関係の言葉にルシフェルは、一瞬耳を疑った。どうせなら、力とか知恵とか――そういってもらえたほうが分かりやすいし、助かる。

「いや、愛なら、担当の天士がいたはずだ。確か――」

 彼の思考を中断するように、右側の長老()が言葉を足した。

「――人類に対する愛ではない」

「お前にはちゃんと人類、――それだけではない全天士、さらには神々に注ぐための愛はある」

 右側の長老()が憐むような目をルシフェルに向けたのは、気のせいだろうか

「――しかし、お前の心にはある種の愛が欠けておる」

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