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さよなら、桐山家。  作者: さの梅子
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1気骨とやら

世の中っていうのは自分の想像を軽く超える出来事の連続で成り立っている。

このことは普段生活していると忘れがちだと思う。

そしてそういう出来事に見舞われた時、渦中の本人達は何だかんだ言いながらそれを受け入れ、やがてそれが日常になって行く。中には果敢に抵抗を試みる気骨のある人間もいるだろう。しかしその出来事が突飛であればあるほど人々は案外すんなりと受け入れてしまう。

そんな傾向が見られる気するのだがどうだろうか。

そして我が家にそのかなり突飛な出来事がもたらされたとき、御多分に洩れず、まるで夏の日の素麺のごとくつるりとそれを受け入れたのだった。

あいにく我が家族の誰ひとりとして、煮ても焼いても食えない「気骨」とやらは持ち合わせていなかった。


 父が六十歳を目前に死んだ。

あっという間だった。何年か前に癌が見つかり手術。その後の抗がん剤治療が思いのほか効いて、医師が驚くほどの回復を見せた。量はセーブしたものの仕事にも徐々に復帰していった。

しかし次にその癌が再発したとき、父の余命は一ヶ月を切っていた。

そして父は律儀にも、医師が宣告した余命と一日のズレもなく死んでいったのだ。

後々、無駄なまでのその律儀さは、残された私達の話題に幾度となく上ることとなる。

 

人ひとり(特に働き盛りの人間)がこの世から居なくなるのには、様々な手続きが必要だった。

その辟易する様な作業にしばしば思考停止に陥った私は、遥か彼方の乾いた土地に想いを馳せた。


そこには止む事のない強い風があり、青紫色の夕闇がある。

人々が寿命を終えるとその亡骸はほろほろと崩れ出す。

風に巻き上げられ、後には何も残らない。

大地にさえ還らない。


その美しい情景の現実逃避を家族に共有してあげたところ、姉のすみれちゃんは「遺骨がないんじゃお墓どうするの?」とのたまい、母は「風が強いって言えばさ。」と目に砂が入ってすごく痛かったという心底どうでもいいエピソードを披露し始めた。母の話が終わるのを待って、弟の柊が「さっちゃん、青紫色の夕闇っていうのは綺麗で良かったと思うよ。」と言った。

このように日常は続いていくのである。


なにも父が死んだことが我が家にもたらされた突飛な出来事というわけではない。

あまりにも衝撃的な出来事ではあったが、人は必ず死ぬのだし、いつかは経験しなければならないことなのだから。

その突飛な出来事は、父の三回忌を明日に控えた朝に起こった。

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