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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第四章 砂塵舞う国
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第四章5話 『青髪の女性』

「……中の方がもっと酷い……」


 壁にこびり付く、おびただしい血痕。四肢すらない死体の腕がテーブルの上に転げ落ち、大量の首を刈り取った証として、剥製のように天井からぶら下がる。横に視線を送ると、人間を直接壁に打ちつけ腹部から切り取られた……まるで解体を楽しんだような跡。首の残ったその解体先は、瞳から垂れ落ちた雫と力みすぎて口からの鮮血……どう思考を動かしても、最悪の想定――生きたまま腹を割り、中身を掻き出し、遊ぶように殺したようだった。


「――っ!」


 外よりも数段、死に塗れた光景。眼前に映るその無残さに、機械の身体すら拒絶反応を起こして、無いはずの胃から気持ち悪さが上がってくる。


「……何で、ここまで」


 ――確かに、人殺しを楽しむ物はいた。赤の国、あの2人組……少なくとも男の方は、人を殺す事に狂った殺人鬼だった。だけど、それだけあの人物は壊れきっていた。でも、人を解体するのは……そして、楽しんだ上で自身の跡を全く残さないのは……壊れていない人間の行動――だからこそ、分からなかった。人殺しに喜びを見出す破滅と、自身の痕跡を残さない理性の共存。純粋に殺人へ染まりきった悪。それが、理解出来なかった。


「早い所情報を集めよう……」


 見るだけで後退りしそうな場所を、1歩1歩進んでいく。死体で埋まりきった地面は、嫌な柔らかさを足に伝え、吊るされた首だけの顔は、私を恨めしそうに見つめる幻影のように視線と言う肌寒さを送る。


「これだっけ、情報を管理する奴」


 記憶として残るそれと同じ型を持つ、魔術を用いた機械。それは緑の国で見た記憶に残された物。垢の国じゃ酒場に行く余裕は無く、青の国はそもそも事務作業を完全に任せていたから入れなかった。だから、ちょっとした賭けにはなるが……。


「えーっと――」


 緑の国で依頼を受けたあの時と同じ、見様見真似で動かす。ただ――


「あれ、反応が無い」


 触れば起動するのかと思っていたが、魔力が全く視えない。同じように動かしても、何も音も魔力も動かない……。流石に情報元であるここは、理性ある殺人鬼なら止めるか。


「そうなると……」


 酒場の中、隠された引き出しや書類が無いかを手探りで確認していく。もし、これが急襲でも――何か残す人はいるかもしれないから。


「――あった!」


 引き出しの奥、板を敷いた裏に隠された2番底。そこに、端が血に染まりながらも文字として残した……この酒場の遺産が眠っていた。


「とりあえず、持ち帰って後で――」


 その紙を全て手に取り、一度船に戻ろうとした際に見えた……青色の髪を持った女性。その人物が、私を酒場の入り口から見つめていた。


「誰!?」


 その声に驚いたのか、一瞬で姿を消す青髪の女性。必死で追おうと急いで入り口の扉を開けるが、既に影すらも残さず消えており、加えて――急いで開けた扉のせいで少し、声が聞こえ始めた。


「不味い、逃げないと」


 あの女性が一体誰なのか、この紙に書かれている事は何なのか、この死体は彼女がやったのか、様々な思考が頭で飛び交う中、身体は人に見つからないように船まで動いていく。一体、あれは――あの眼は……あの明らかに人じゃない、白い目に3つの点を付けたような左の瞳は一体……そしてあの()()……ティアと始めて会った時と似たような、あれは――。



「おう! 戻ったか!」


 音を立てず船に戻ると、レニーが即席のテーブルで街を見ながら飲み物を嗜んでいた。まぁ、匂いから簡単に酒というのが分かるのだが。


「ただいま。色々、収穫はあった」

「へぇ――って臭っ! お前、どこ行ってたんだよ!」

「……先に、水で洗って良い?」


 酒場の血が少し染み付き、それが悪臭の原因になっている。直接触ったりはしていないから軽微な物と思っていたが、鼻が順応していたようだ。


「別に構わないが――その場で脱ぐのか……」

「……見られるのは嫌だけど、そっちの方が効率良いでしょ?」


 一度洗いに船内に行けば、戻る頃には活動がギリギリの時間になってしまう。だから、情報の共有と洗浄は同時にこなせば……もう1度だけ行き来が出来る。ただ、そう考えてしまうのは、少し心が機械側に寄ってしまったような、まだ恥ずかしさが残る心が人として嬉しいような、複雑な感情を胸に秘めながら、手頃な樽で身体を隠しつつ話し合う。


「それで、何があった?」

「……酒場、死体だらけだった」

「まぁ、何となくそうだとは思ったが……全滅だったか?」

「少なくとも、生きてる人は見かけなかった」


 そう言いながら、隠されてあった資料をレニーに渡す。樽越しに隠れながら。


「これは?」

「隠されてた資料。血が付いているって事は、襲われてる最中に隠した物だから……多分、何か書かれている」

「なるほど……これは、権力者の資料か?」


 資料を読み進めるレニーは、ふと権力者という新しい単語を口に出した。


「権力者?」

「早い話、この国を牛耳ってる奴らだよ。一番上を教皇として、その直属の真下にいる総大司教、続いて枢機卿という奴ら。ここら辺はどっちも同じぐらいの力を持つとされている。そして、大司教っていう所から、司教、司祭って続く。まぁ、総大司教が全部を束ねて、大司教が地区を全て、司教がその街全て、司祭がその補助って感じだ。そこに異常が無いように監視しているのが枢機卿。まぁ、共通の認識なら助けて、違うなら会議して止める。みたいな感じだ。まぁ実際は大分ドロドロの人間劇場を起こしてるんだがな」

「まぁ、そうじゃないとこんな状態にならないからね」


 この国の内部抗争。それが起きた結果、こんな殺伐とした幸福が起きているのだろう。でも、だからと言って何でそれを隠したのか……。


「……くそ。一部()()()()()見れねぇ! しかも、ここに矢印が付いてるし……」

「どういう事?」

「権力者のリスト、その中にいくつかマークが付いている。ただ、血のせいで読めない箇所がいくつかあるんだ」

「血……ねぇ」


 あの時、あの場所にあった資料なら……何か引っかかる。


「うーん……でも、マークの付いた奴はここの街の奴では無いしなぁ」

「知ってるの?」

「いや、会った事すらない」


 レニーという運び屋ですら、お目にかかれない存在。そうなると、色々と面倒になる。


「何処にいるか分からない存在を探せ……かぁ。結局酒場と同じ結論になる」

「だな。名前だけしか知らない、少なくとも首都担当じゃない大司教や司教を探せとなると、無理だな」


 名前は求めていない情報だった。私達はまだ、そこの手前で足踏みしている状態だから……これは、困った。


「この資料は俺の領分として、昼に聞いて回るしかないか……マークの付いた名前、聞いていくか?」

「……いや、まだいいかな。まだ断片的過ぎる情報を頭に入れて、余計な混乱したくない」


 それに、まだ理解出来ていない気持ち悪さのような、引っかかりがある資料。それを頭に入れたら、嘘の可能性もある。だから、まだレニーで済ませる。


「他には、何かあったか?」

「……死体を解体するような、それでいて足跡を残さない、理性ある殺人鬼みたいな情報ってある?」

「無い! と言うか、なんだそりゃ」

「酒場の中が、そんな感じで……そんな奴がここにいるなら、一番危険な障害になる」

「うーん、聞いた事は無いが……少し似たような事は知ってるぞ」


 資料を見終わったレニーが、手に持った酒を飲みきり、その口で続ける。


「まぁ、噂の域を出ないが、教皇様の配下に人を殺す事専門の部隊があるって話だ」

「それは、あるとは思うけど……まだ、繋がらないよ?」

「それが、繋がるんだよ。その部隊は噂しか出ない程足跡を残さず、残された死体は全て惨たらしい物になる、って噂だ」

「……惨たらしく殺す意味は? 暗殺部隊なら、そんな事――」

「一方でこんな噂もある。惨たらしい死体は、何かを隠す為の偽装なんだ、ってな?」


 理屈は通るし、辻褄も合うが……壁に直接貼り付けたあの死体が、どうしても引っかかる。あの顔はどう見ても、生きたまま解体した跡だ。でも、何かを隠す為にこんな事、本当にするのか?


「でも多分、隠してるのは死因でしょ?」

「まぁ、そう言われてるがな」

「……あーもう情報が少な過ぎる!」


 酒場さえあれば、ある程度情報が纏まって入るはずなのに、それすらないハンデが大き過ぎる。断片的には持っている物が集まらないし、繋がらない。


「全く、あの青髪の女も分かんないし――」

「待て! 今、青髪の女って言ったか?」

「うん。青い髪をした女が酒場から私を見つめてた。左目がおかしい人だったよ」

「……嘘だろ……」


 青髪の女という単語を聞いた途端、レニーは激しい動揺と共に、さっきまで見ていた権力者のリストを再度見漁る。


「ちょ、どうしたのレニー?」

「……お前が見たのは、教皇様の秘書なんだよ」

「……へ?」

「つまり、俺達……もう見つかってる」


 とんでもない袋小路――唐突なタイムリミットがレニーの口から告げられた。

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