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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第四章 砂塵舞う国
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第四章4話 『酒場の跡地』

 空に輝く赤い光を砂が隠し、それでも漏れた太陽の線が暗がりの首都を彩る頃。私は鉄製の防具を全て()()()状態で、船の上でレニーを待っていた。


「お? 別に待ってなくても良かったんだが」

「先に情報が欲しいだけ。後、ここってこんなに夜が長いの?」

「あー、この国は大体そうだぞ? 夜遅くまで動けば、何か後ろめたい事の裏返しだから異教徒! って言われててな。加えて、昼間もあまり日差しがないせいでこうなった」

「逆に動きやすくていいんだけど」


 鉄製の防具を脱いだのは、金属同士の擦りあう音が大きいから。武器も厳選して、短剣だけを持っていく。


「それで、何か分かった?」

「ある程度は分かった。だけど、まだまだ断片的な事ばかりだ」

「全部、教えて」


 宿代わりにも使っているレニーの船。その上で簡易的なテーブルに地図を広げ、樽の椅子に腰掛ける。


「船内でやらないの?」

「船の砂除けを防音に変えて、範囲をギリギリで包む程度まで落としこんだ。だから、聞こえないぞ」


 周囲を見渡せば、私達の間近まで近づいた魔力の膜。ただ、よく見ないと分からないが……少し、色が違っている。そして、この色はサミュエルの防音と同じ色だ。私が音を拾えない前歴もあり、これは信用していい。


「……最先端って言うだけあるね」

「だろう?」


 広げた巨大な首都の地図に印をつけながら、レニーは開いた方の手で親指を立ててくる。青の国で見たサバードの光景から勝手に魔は機械と位置づけて、この船の最先端は常識の範囲内と思っていたが……もしかすると、とんでもない船なのかもしれない。


「それよりも、こいつだ」

「……何の目印?」


 巨大な地図に目印を書き終えたレニー。それを除きこむと、大雑把な3種類のマークが地図に付けられていた。


「まずは、丸を付けた箇所。ここは、多数の人間が噂をした所の中で、昼間に俺が確認した箇所だ。まぁ、通るついでに確認しておくといい程度の所」


 丸の位置は大体露店のあるメインの通りが多く、遠くからの目視で充分確認可能な箇所だ。多分、噂って言っても物音がする程度のもので、レニーにはそこまで重要度が高くないと思っているようだ。


「次に三角を付けた箇所。ここも噂が結構ある箇所だが、場所が場所で確認出来なかった箇所だ。だから、基本的にここは見て欲しい。ただ、俺的には空振りと思うがな」


 三角の位置は入り込んだ道や、視界から外れた箇所。ただ人が少ないだけで、道としてはメインから少し外れた程度だから……確認はしやすい。


「最後に四角を付けた場所だが……ここは、一番情報がある」

「含みがあるけど――あぁ、そういう事ね」


 四角の位置は建物へ直接書かれており、他にはかなり要である……おそらく教皇の城である大きな建物、いくつかの教会、酒場跡等にマークされている。


「正直、ここに行けば手っ取り早い」


 そう言ってレニーが指差したのは四角を描いた箇所で、最も侵入が難しいであろう巨大な教皇の城。内部構造が不明な城は、流石に難しい。


「そこは、無理」

「だろうな。だから、周りから行って欲しい」

「じゃあ――手始めに、ここ」


 初日として目指す箇所、私の指差したそこは――酒場跡。


「分かった。ただ、行ったらそのまま別に行かずに、一度船に戻る事。じゃなきゃ置いてくぞ?」


 多少派手な噂を聞いたのか、私の行動に釘をさすよう顔を迫るレニー。まぁ、何も無い状況から別に行くほどの勇気は無い。


「知ってる。――じゃあ、行ってくる」


 そして音の断つ膜の向こう側へ足を1歩動かす。見つからないよう音を沈め、身軽になった身体を確かめるように。



 漏れる太陽の光をサーチライトのように避けながら、早めに寝静まった街中を音もなく隠れて走る。


「……全く、私いつも屋上を走り回ってるなぁ」


 緑の国以外、行動する時は屋上を走ってる記憶しかない。赤の国でも、青の国でも、隠れて走るには屋根が丁度良くてつい選んでしまう。


「と言うより、こんな通りに不審者のような格好の女がいたら、間違いなく敵対するし……」


 鉄の音を除ける為に、手甲と脛当てを外して鎧も脱いだ。

 結果として……最低限の軽量を目指して胸以外を網目状にした事で露出した腹部と、脛当ての為に鼠蹊部から下を無くした革鎧の上に履いた、膝まであるロングブーツ。腕も手甲と鎧を脱いだ事で肩から先は無く、その上から一応皮の手袋をつけて、最後に暗殺者として顔を隠す為に赤黒い仮面という――誰が見ても痴女のような格好となっている。


「レニー相手にさも当然のような態度取ってたけど、これ……どう足掻いても痴女よね……」


 逆に私が誘惑すれば――


「絶対無理だ! 格好でもう恥ずかしくて嫌なのに、扇情的な動きなんて絶対無理!」


 そんな自問自答をしながら、屋根を走り抜ける。三角の箇所を遠巻きに確かめながら。


「やっぱり何も無い」


 ただ、三角の箇所はそれとなく()()()()が残っており、歴史がまだ残ってる。


「何で、隠すんだろう……ここも劣化しきってる訳じゃないのに」


 新品のように傷一つない表に、まだ残されてるがまだ全然使える裏側。それが、まるでこの国を写すハリボテの信仰心のようで、少し……考えてしまう。


「……先を急ごう」


 感情に浸ってしまったが、時間は有限。すぐに切り替えて先を急ぐ。ただ、やっぱりこの国はどこか()()()()。狂ってるのは分かってるけど、その奥に何か……別の物を感じてしまう。だって、こんな傷を残そうが、信仰心なんて変わらないはずなのに――。



「よし、やっと着い――」


 一際高い建造物で塞がれた先。登って見つけたそこには、大量の血とその流した主が横たわり、ここだけ全く別の国のような――まるで戦争でも起きたような、大量の死体で埋め尽くされていた。


「……ひどい」


 鼻にかかる猛烈な腐臭。まだ近づいてすらないのに、放置され腐りきった残骸は目に余る。これが、この国の本性なのか。


「……上から、行こう」


 屋根伝いに飛び付き、酒場の上を取るが……近づけば近づく程に見える鮮明な死は、私の心を蝕んでいく。


「気が滅入りそうだけど、行かないと」


 それでも、調べないと。そう心に誓いながら、頬を手で叩き、その上で再度周囲を確認する。


「……見た目は冒険者だけど、おかしい」


 そうしてよく見ると、おかしな点が浮かび上がる。

 ここの街の人間、その死体が一切ない。冒険者の鞘から抜かれた剣も存在するのに、抵抗した跡は多数残されているのに、街の人間の死体だけが無い。それは、おかしい……つまり、この現象の後に誰かが街の人の死体だけを処理してないと、起きない。でも、移動させたような跡は無く、抜き取られた跡のような物も無い。


「……初めから、街の人を使っていない……?」


 そうなると出てくる可能性。街の人が関与せず、一切の痕跡も残さず、その上で冒険者を全滅させる実力者の存在。そんなの……私の知る限り、眷属しか分からない。


「でも、そうなると……魔力の残滓が無いのがおかしくなる」


 今までの眷属が特殊なだけなのかも知れないが、全員が魔力を持って戦闘に組み込んでいた。そうなると、ここに残滓が無い事もおかしい。

 死体や血の感覚的に、ここ最近の事情。そして、大規模な戦闘なら……魔力を使うとすると大きな残滓を残しそうな物だが、まだ可能性として捨てきれはしない。


「ともかく、中へ入ろう」


 募る可能性は、まだ断片的で確定まで行けない。だからこそ、中にあるかもしれない情報を探しに、壊された屋根の一部を取り除く。

 ありとあらゆる可能性、それに警戒をしながら……酒場跡へと踏み出した。

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