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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第四章 砂塵舞う国
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第四章3話 『狂気』

 遮蔽物何も無い太陽が容赦なく私達を照らし、赤の国とは違った熱で船を焼いていく。そして砂埃が壁を作り、強い風が帆をなびかせる。そんな中、かすかな視界からでも分かる目の前の光景には、街と呼ぶには相応しくない文字通りの砂山がそこに立っていた。


「――えーっと……何あれ」


 一見すると他の国ではありえないような構造。ドーム状に広がった外壁のそれは、まるで砂が守っているかのような円形の壁を作り出している。


「あれは、船に積んでるこの砂避けの上位版みたいな奴だ。あれがないと、飛び散る砂で建物が()()


 この国が独自で進化した順応。そうしないと環境という天敵に対応出来ず、淘汰されるからだ。それぞれの国は、それぞれの進化をする……理屈は分かるが今まではあまり変化のない箇所だった為に、大きすぎる進化に少し驚いてしまう。ただ――


「でも、()()()が無い」

「そいつは大丈夫だ。この砂避けの膜を張っていればな?」


 レニーは顔色を変えず、天然の防壁へ船首を向けて速度を上げる。


「ちょ――!」


 だがその防壁にぶつかる事なく薄手の布を手で払うかのように砂が裂け、道が作られていく。


「ここに付いてる砂は風で舞う程に軽く、細かい。だから、こういう砂避け付けて突っ込めば大丈夫。ちょっと砂入っちゃうがな」

「だろうね。……ここが――」


 黄色い壁を越えた先には、砂の嵐から打って変わって穏やかな町並みが広がっていた。


「そう、ここが首都『ガルガリン』」


 建物の材質や木等は違うが、確かにここはどこの国とも変わらないような街だ。人は賑わいを見せ、露店もしっかり存在する……賑わった街。


「――イメージと違ったか?」

「だって、あんな事いうからもっと殺伐としているんじゃないかって」


 本当に何も起きていない、そう思わせる程に変わらない。いや……()()()()()()()()。少なくとも、壁の傷や喧嘩……街の歴史と思われる傷が存在するはずなのに、それが全く無い。隠れているのかもしれないが、そもそもそんな隠して行う事でもない。これは、


「でも、何というか……幸せを押し付けてるような雰囲気が残ってる」

「……洞察力は高いんだな、ベル」

「生憎、色々と鍛えられてるから」


 レニーは皮肉めいたような目線で、灰色の瞳をこちらへ向けてくる。まるで、手に負えないおっかない女性を見るような恐怖の混じった瞳は、敵に回ったら怖いと思わせるものか、それとも手を出したく無い下心なのか……まぁ、多分後者だろうが。


「でも、ベルの言った通りだ。これも、過ぎた信仰心が産んだ賜物だよ」

「……悪い所だけを隠しても、それは良い事じゃないのに」

「同感だ。でも、街で言うなよ?」


 きっとこの街は、他人の粗探しによって信仰心という優劣を付けられた結果だ。悪い所や汚れを全部、悪と捉えて潰している。それをすれば救われるという、一種の貪欲さ。もっと、もっと、と考える行き過ぎた信仰心が、強制の幸福感を漂わせていた。ただ私には、一切理解が出来ない……。


「よし、とりあえず船を付けるぞ! 錨を降ろせ!」

「「「アイアイサー!」」」


 船を港と思われる木の足場へ寄せ、重りを下に落として船を固定する。


「ベル、上陸する前にいくつか注意事項だ」

「……変に敵対するな、名前を出すな、調べるな、でしょ?」

「それもあるが、冒険者という所も伏せておけ。俺達はまだ船という街への利得があるが、ベルには無い。早い話、冒険者はもう敵対されている状態だ。だから、今は船員の1人で通せ、良いな?」

「でも、酒場は――」

「ようこそ、『ガルガリン』へ!」


 半端な説明のまま、強制的に住民が割って入ってきた。これ以上、口に出せない話題は……後で聞こう。


「いつも、ありがとうございますレニー様!」

「どうってことねぇよ。依頼だからな」

「……ところでその方は?」

「こいつは新しく雇った船員だ。流石に小人数過ぎてな、1人増やしておけば万が一も大丈夫って奴さ」

「流石レニー様! 頭が冴えてらっしゃる!」


 ……露骨なゴマすり。顔に出せば迷惑が掛かる為に出さないが、吐き気を促しそうな程の嫌悪感が肌を伝う。会話は可能な為に一瞬まともかと思うが、街の人の瞳孔は開きどことなく虚ろな状態。狂っていないようで、一番狂っている国。一目見たら分かるその狂気は、同時に敵対すれば命すら容易に捨てる恐ろしさも感じてしまう程だ。


「……荷物、運んでおく」

「頼んだ」


 街で太鼓を持つ人。それをレニーに押し付け荷台へ行き、他の船員達と1つ1つ荷物を運んで行く。その他のごたごたは今、起こすべきじゃない。気になる多数の情報に、自制という蓋をしながら――



()()、終わったよ」

「……おう、ご苦労!」


 荷を降ろしきった私は、未だに下手に出続ける街人の相手をしていたレニーに声を掛ける。


「流石、レニー様――」

「すまない。荷を降ろしきったようだから先に行く」

「申し訳ございません。せっかくご足労頂きましたのに、お手を煩わせてしまって……」

「これは、こっちの仕事だって何度も説明したろ?」

「それでも、申し訳無さの方が上回ってしまうのですよ。それでは、教皇様のご加護を」


 そういって、目の前の狂気は船を降りて去っていく……。


「……あれを敵に回すとどうなるか、何となく想像付くだろ?」

「嫌でも分かった……」


 荷を降ろすまで1時間弱。その間、あの人はずっとゴマをすり続け、笑顔以外の表情を全く見せなかった。それがまるで機械仕掛けの押し問答のようで、どうしても私と重ねてしまう。心は違うが身体が機械と、身体は人でも心が機械のような人間……。嫌悪感の正体はこれか。


「そういえば、何だったの? 冒険者がどうとか」

「……この国に酒場は無い。冒険者を異教徒と捉え、教皇様が全部潰したんだよ」

「え? 酒場は中立なんじゃ――」

「中立、だったからだよ。俺らにとっちゃ正しい事でも、此処じゃもう……悪なんだ」


 酒場という拠点の喪失は、私の活動を大いに阻害してくる。情報元としても、マスター伝いの信頼も、全部が1からやり直し……。それは、情報を全て私1人で集めなければならない事の裏返しでもある。


「まぁ、風の噂でどこか隠れた場所で酒場は残ってるらしいがな」

「……ただ、今私へのコンタクトは無い、かなぁ」

「だろうな。一応、俺も噂程度でベルの事を知っていたが、それでもまだこの国じゃ流れてない。だから、今ベルに絡んでいくのは、ベルを危険に晒すと同義。酒場がそこまでお前に期待はしないだろう」

「あの、ちなみにどんな噂なの? 私知らないんだけど」

「『豪腕の少女』だったかな。異常な力を持つ少女が、暴れ回ってるとか何とか――」

「それ、魔物扱いされてない?」


 一応まだ酒場が残ってる事自体は朗報。だが、私の噂は情報との競争状態だ。少なくとも風の噂は広がっていく以上、日に日に私が冒険者というリスクが高まる。早い所、取っ掛かりが欲しい……。


「どう、動くかなぁ……」

「担当を分割しないか? 俺は昼でベルは夜。顔を知られてる上で、まだ交友的な俺がそれとなく人に聞いて、寝静まった夜にベルが動いて物を見る、とか」


 確かに、有効な作戦。だが、いくつかのリスクのようなデメリットも当然存在する。


「逃げ道はどうするの?」

「船でしか逃げられない以上、船で脱出だろう」


 周りには砂の壁。出入り口のない半円は太陽を防ぐと同時に、中の人間を出さない牢獄でもある。砂自体は軽いが、それは少しの量だったらの話。魔物すら通さない壁となると、少なくとも人は通れない。おまけに足場も分からなくなる。だからこそ、船が狙われるとどうしようもない。


「船を狙われたら、閉じ込められるよ?」

「そこは、交代で見張りを付けてる。一応無警戒よりかはマシだ」

「次に、連携問題。私が夜に動くのは良いけど、そこで見つかった場合は、船が動かせなくなる」


 人という幾らでも隠せる情報を聞くレニーより、物という隠しようのない証拠を見つける私の方が、夜という保険があっても見つかるリスクが高い。そうなると、夜に船を出す確率が必然的に高くなる。そこで船員が眠っていたら、詰みだ。


「そこも大丈夫だ。あの船は、意外と最先端を突き進んでる物だからな」

「それは理由に――」

「保証する。船は俺らに任せろ」

「……分かった。でも、肝心な所で動かなかったら承知しないからね」

「そこは、メンテナンスをするさ」


 船の知識は無い以上、レニーに託すしか選択肢は無いが、正直心配だ。船の下で爆破して飛ぶ前例が、私の中で不安という二文字に変わる。本当に大丈夫なのだろうか。


「最後に、時間の問題」

「ベルの噂か。……こういった腕利きの噂は広がりやすい。依頼を頼む際の目印にも繋がるしな。だから……体感で3日、遅くても5日経てば確実にここへ来ると思って良い。あくまで体感たがら、もっと速い可能性もあるが――そこは気にしない」

「最悪を通り越す予想は多分無いと思うけど、噂をすれば何とやらって言うから、あまり言わない方が良いと思うよ……」


 タイムリミットは体感の最速である、3日と考えて行動した方が良い。つまり……チャンスは3回か。


「それで――ベルはこの作戦に、乗るか?」

「乗り掛かった船って言うでしょ? 上等だよ」


 船で始まった作戦会議。仲間は船員とレニー、目標は革命派の情報で、リミットは3日。

 ある程度目処が立ち、宿屋代わりの船の上でレニーと軽く拳を合わせて気合いを入れる。

 まだ分からない、欠落しすぎた情報。全てが断片的で、繋がらない。

 でも、1つだけ何となく思った事がある。それは、この国を確実に狂わせた裏。教皇様じゃない誰かが糸を引いているような――そんな予感。

 私の勘がそう告げている。これには、まだ隠された何かがある……と。

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