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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第四章 砂塵舞う国
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第四章2話 『信仰心』

「――いやぁ、勘違いして本当すまない!」

「……本当、いきなり吹っかけてきて驚いたからね?」


 砂埃が舞う国の入り口、国境としか呼べないその場所。そこで私は、レニーの船に積む荷物や食料運びを手伝っていた。早くも嫌気が刺し始める程の量が、カバーを被せた積荷を黄色く染めていく。


「勘違いで襲った挙句に、荷積みの手伝いもしてもらうなんて面目立たねぇ!」

「乗せてもらうんだし、早いに越した事ないでしょ?」


 全ての荷を積み終わった後、改めて私を襲った理由を聞く。


「……それで、何で襲ったの?」

「この国の事情なんだが、場所が場所だ……船に行くぞ」


 レニーのスカーフで隠した口元が揺れ、強い警戒の視線――その態度ですぐに分かった。聞かれてはいけない問題、これが……国民を敵に繋げるものだと。


「とりあえず、先に出港だ! 錨を上げろ!」

「「「アイアイサー!」」」


 船長であるレニーの合図によって錨という支えを取り外し、風を受け取る巨大な布によって船は進みだす。この光景は始めて見たが、砂の舞う船で帆は少なくともデメリットが多そうに見えてしまう。


「えーっと――」

「帆船が珍しいか? まぁ、これはうちだけなんだけどな」

「砂も掛かるのに、どうして帆に?」

「この国は常に砂が舞うんじゃ無い。これは副産物で――常に強風が吹き荒れる領域なんだ」

「それって、より帆だと不味いんじゃ?」

「普通なら、風を読みきれずにマストを折る。だから、魔術船を使うんだが……どうにも速度が遅く、読みきれるならこっちのが格段に早いんだ。それに、砂だけなら魔物対策と同等の手段も取れる」


 そう少し胸を張りながら、上を指差す。そこには不自然に砂だけを弾いた光景が広がっていた。だが、逆に砂の黄色が視界を塞いで操縦難度も上がりそうだ。


「この結界は軽い防壁だ。物は通さないが、強い物理で簡単に通り抜けられる……ある種のクッションのようなものだ。だから、軽い砂は通すが――」


 タイミングが良いのか悪いのか、小さな蛇のような魔物が黄色い海を泳ぐように船を取り囲む。その仲の一匹が船内へ、鋭い牙を光らせながら結界をも軽く通り抜け、船長であるレニーへ襲いかかる。


「こうやって、魔物は防げない」


 言葉を掻き消すような銃声。コートの隙間から放たれた弾丸は、魔物の口元を的確に貫く。


「……銃の方が得意なんだね」

「あったり前だ! こちとらずっと船でこんな事してるんだ、魔物を撃ち殺すだけは自信がある!」

「自慢する前に他の魔物を潰さないの?」

「それは大丈夫だ。おい! 準備は終わったか!?」

「全部終わっております! 後は号令を!」


 1匹が仕留められた事で、周りの魔物も警戒しながら――それでも周囲を塞ぎ、ちょっとでも油断すれば殺すような殺意が膨らんで行く。これを一掃出来る手段なんて、結構危なそうな――


「よし! 爆破しろ!」


 地中から浮かぶ炸裂音。それは船を揺らす衝撃と共に船が飛び上がる。文字通り、空へ――。


「嘘でしょ!?」


 中の人なんてまるで考えていない縦の揺れ。周囲の魔物を散らしながら吹き飛ぶ船は、着地の衝撃によって馬鹿さ加減が伝わる。


「――っと、全員無事か!?」

「「「アイアイサー!」」」

「……馬鹿でしょ、こんなの」


 準備という事から、確実にこの船が起こした事態。だからこそ、あまりに無鉄砲すぎる機能に怒りを通り越して呆れの感情が沸き出てくる。


「そんな顔すんなって、一応安全確保はしているんだぞ?」

「あれの! 何処が! 安全! なの!」


 未だに何が起こったかの確証は無いが、大体想像が付く。船を吹き飛ばすほどの衝撃を持つ爆弾か何かを船の底から投下し、合図と共に起爆させただけの攻撃。いままで船があった場所には未だに砂が波打ち、周囲にいた魔物は塵すらも残っていない。こういうのは本来緊急事態で仕方なく行う物なのに、それを平然と行う様は私から見ても命を軽視しすぎている。


「着地を和らげる魔術を常時かけてるからこそ出来る作戦だ!」

「……乗る船間違えたかもしれない」


 それをあたかも当然のように高笑いするレニー。もう、ついていけない……だから、話を変える。


「それで、話せなかった理由は?」

「あー、シャンノット=アルマゾフの事は先に言うが、俺らは分からないぞ?」

「分からないのに話せないの?」

「この国の事情って言ったろ? 早い話、今の情勢は完全に二分した状態なんだよ。昔はそんな事無かったんだがなぁ……」


 感慨深いような声で唸りながら、荷物の1つである樽に座りこんでレニーは続ける。


「元々、教皇様なんていう実質国を治める人間を信仰していたんだ。と言っても、信仰してなくても何も無い、信じたければ信じよ程度の話だったんだが……ある日、新しい教皇様が生まれた後から、変わって行った」

「……愚王だったって事?」

「間違っても、それ街中で言うなよ? でも、半分は正解だ。その名前は『アメリア=ケロン』彼女が教皇になってから、ちょっとずつ変わって行った。……人がどんどん死んでいったんだ。それも、彼女を信仰しなかった場所から。そして、逆に信仰を強めた人間は救われていった。病気が治るとか、そんな感じで……幸運が訪れた」

「傍から見たら、そんなの教皇が裏で手引きしたと思うんじゃ?」

「俺も、そう思うよ。ただ、言えば殺されるかもしれない。信仰が無いと言われ、死んでいった人間と同じように、殺されると思ったんだろうな。そして、救われた人間は……盲信をし始める。周りへ布教し、異なる意見に耳を貸さなくなっていった」


 反対意見を殺して、賛成意見だけが周りに広がって行く。そうなると、行きつく先は――


「それで、教皇様の悪口や信仰が無いと思われた途端に、国が敵になる……と」

「もう、盲信する信者しかほとんどいないんだ。正確には、合わせないと殺される同調概念によって、全員が敵になる……死にたくないからな。でも、そんな中でも抵抗を続けてるのが、通称『革命派』という存在だ」

「それを、指揮してるのがシャンノット=アルマゾフ」

「そういう事だ。だから、名前を出したら殺されるぞ? 俺みたいな中立として立っている人間ならまだ良いが」


 名前を出さない理由。いつ殺されるか分からないから、人を殺して救われようとする二律背反な心によって……壊れてる。五つの国の中、四つの国を見てきたけど、ここが一番悲惨なように見てしまう。

 ――緑の国には、平和があった。

 ――赤の国には、自由があった。

 ――青の国には、秩序があった。

 だけど、ここには今の所何もない。狂った信仰心があるだけの国。それは酷く悲惨で、時に残酷な国だ。


「……昔のように戻したい。そう思っている人は多数いるんだ。でも、船一つあっても到底勝てない。だから、革命派に祈るしか無いんだ……」


 きっと、行き過ぎた信仰心によって、中立な人間すら敵とみなしている。酒場も、この船も、全部敵。


「……革命派の場所は?」

「知っていたらとっくの昔に協力してる。名前だけが飛び交う正体不明の部隊なんだ。だから、分からない」


 革命派の場所は不明。だけど、やり方によっては知れるはず。だから――


「……追加料金、払っても良い?」

「――は?」

「一千万シャード。払えば、シャンノット=アルマゾフについて、教えてくれるんでしょ?」

「そんな事言ったって、俺は知らねぇ――」

「だから、一緒に探して……目の前でちゃんと、この人物がシャンノットだって、教えてよ」

「――お前……シャードの当てはあるのか?」

「出世払いって事にしといて」


 丁度私の目的に革命派という存在があるなら、寄り道は出来る。それに、何より――


「分かった。地の果てまで追いかけて、請求書を叩きつけるからな!」

「こっちこそ、シャードが溜まったら必ず見つけ出して渡してやる」

「……最後に教えてくれ。ベル、知らない相手の知らない国事情に、どうして手を差し伸べるんだ」

「……昔の光景を見たいだけよ」


 ここで見捨てたら心が廃る。寄り道が正義じゃない事も、余計な事で仲間を殺すかもしれない事も分かっている。

 でも、手を差し伸べない後悔で、目の前の救える命が散るのは見たくない。エゴかもしれないが、私は――、

 ――心まで機械にはなりたくない。

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