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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章22話 『身体の中身』

「先に念を押すが、打撃はダメだからな? 力がある程度戻ったベルの1発とか、おじさんミンチになっちゃうからな?」

「分かってる。流石にそんな事しない」


 素手同士、お互いの服を掴むような至近距離。服を掴んだのは良いが、そこから先をどうするのかが全く考えていない。そして始まる膠着状態の中、先に動いたのはサミュエルだった。

 滑りこませるように首筋まで右腕を伸ばし、肘で首裏を押しこんで倒しこもうと力が加わる。そして倒れこむ先、顔の位置に膝が置かれていた。


「ちょ、打撃技禁止って――」

「止まってるなら、ノーカウント!」


 落とし込まれる先を見て、咄嗟に力を込め抵抗。だが、その際にほんの少し――何かがはまったような音が体内で聞こえた。


「――そうするならっ!」


 そんな音もただの気まぐれと、無視しきった私の反撃。

 落としこまれた上半身を反転させ、サミュエルの内側へ捻り込むように身体を持ち上げる。それと同時に、サミュエルの左足を左腕で抱え、持ち上がっていく身体の勢いで足払い。


「流石に、パワーが戻ると押し負けるねぇ!」

「そのまま――」


 単純な押し合い、それなら私は負けない上に左足を封じている私が有利。本来なら、ここで一撃入れたい所だけど……流石に打撃は控え、抱え込んだ足を持ったままサミュエルを仰向けに押し倒す。


「だけど、甘い」


 ただ、完全に固定できなかった足を少し捻られ、先に地面に付くはずのサミュエルの身体は、私の背中へ回りこんでいた。迫る地面――勢いを止めようにも左腕は逆に拘束され、右手でしか止める手段は無い。でも、限定的過ぎる上にただ止まるだけは隙にしかならない。なら、いっその事――


「――勢いをっ!」


 地面に向けて思いっきり上半身を前へ折り、そのまま倒れこむ。倒れた衝撃でまた身体から音が鳴ったが、それは今気にしない。後ろに捕まっていたサミュエルは、一瞬の投げのように私の身体から離れ、そのまま地面に転がり込んだ。


「いったぁ……」

「体勢が体勢とは言え、地面に頭突きなんて、なんつー無茶を」


 人を2人乗せた状態で頭に全て集約させた衝撃。一応硬い部分で受けたので多少はマシだが、それでも視界は左右に揺らぎ、上手く動かそうにも言う事を聞いてくれない。


「大丈夫ですか?」

「一応、身体は――あれ?」


 2度の音。それによって、何故か身体は軽く感じる。前よりも、グラつきが無くなったような……徐々に土台が詰まっていく感覚に、心の焦燥感は無くなっていく。


「やっぱり、ズレた状態で身体を止め続けたのが原因の1つみたいだな」

「なるほど……直るより前に動かしまくれば、自然とはまって行きますね」

「……それ、完全に外れるリスクも無い?」

「それは、身体が両断されると同じです。いくつかの型で仮組みしている以上、完全に外れる事は無いと思われます」


 完全に外れる事は無い。そう言われても、私の身体がどうなっているのか……私自身が分からない。そんなちょっとした不安を察したのか、サミュエルが私の内容物に触れる。


「一応、あの直す時に見てて思ったんだ。骨格と中身はどうしてもズレる物だって。そして、自己修復機能という存在で、ベルの中身は半ば液体のような状態。だから……空気を抜く」

「空気を……抜く?」

「今のベルは、きめ細かい魔力の砂の入った器のような状態だ。そして、その器を冒険者狩りに壊された。ここまでは分かるな?」

「そして、その器を直した。でも、それとズレがどう言う繫がりになるの? それに、運動ではまるなんて――」


 本当は専門用語や魔法の事に関する知識が飛びそうだが、サミュエルは私にも分かる様に別の例えを持ち出して説明する。


「器を直せてはいないんだ。今は、器の型取りが出来た段階。器の欠片はそのまま放置で残された砂と共にグチャグチャ。その状態のまま、更なる砂が入れば?」

「……ヒビが入ってる箇所から砂が漏れる」

「正解だ。でも、半分ぐらいだな。答えは、砂が漏れるが、漏らさない様に砂を器へ変換する。これが、ベルの自己修復の正体だ」

「つまり、その砂は……増幅によって無限に増える私の魔力って事?」

「あぁ。そして、ベルの魔力が持てない理由でもある。常に砂という自己修復に魔力を溜め込む都合と、ベル自身の動力。そして、ベルの感情。その全てをコアだけで補っている。だから、魔力なんて取り入れ出したらベルの感情が――心が壊れる」


 私の感情も、作り物の魔力。分かってはいたが、事実は残酷で、時に鋭く心を突き刺してくる。


「……砂は、関係ないんじゃ?」

「自己修復機能という魔力の消費先によって、君の身体は他の魔力を弾き返している。って言ったら良いか? ベル、魔力属性の関係は知ってるか?」

「えーっと、確か魔力には色があって……同じ色は交わらな――まさか」

「そう。そして、魔力特性が違えば同じ属性でも別の魔力。今のベルは、修復という特性の魔力を生み出す事で、外部の魔力を弾き返している」


 自己修復によって、私が私のままでいられる。だけど、そうするとティアは……もう一人の自動人形は何なのか。


「ねぇ、心が壊れるって言ったけど、魔法は使えたりするの?」

「今の状態は絶対無理だ。常に修復の魔法放っているようなもんだぞ? それに、魔法も体内で全て練ってる訳じゃない。どうやっても多少は大気が混じる。そのほんの少しで壊れてしまう心。……それでも撃ちたいか?」

「私じゃなくて、冒険者狩り! あれも自動人形なら、魔法は放てないはずなのに……魔力は纏っていたよ?」

「それは……その……」

「――1技術者としての見解は、それはあり得ない存在と思われます。多分、本人の意思ですらない完全なイレギュラー。事実、ベルさんの身体に掛かった制限は、魔術や魔力に関する事です。それはつまり、別な事態で魔を教わったとしても使えない様にする、製作者の鍵。だからこそ、冒険者狩りは有り得ない事を可能にした何かが起こった異分子となります」


 完全に専門知識の領域になり、サミュエルからマリオンへと説明相手が変わる。


「異分子……眷属との関係が?」

「詳しくは彼女の身体を調べない事には分かりません。ですが、これだけは言えます。あれはベルさんとは似てる様で、更に別の何か……そう考えた方が良い」

「……終わった様なら、ベルの身体に話を戻すぞ」

「お願い、サミュエル」

「ベルの身体に魔力が溜まってるまで、話したな。そして、身体を動かす理由。それは、隙間を埋める事にある」


 更に別の化け物。流石にティアという存在は、ハバードですら分かっていない。未だに考える事は多いが、今は私の身体を直す事に集中しないと。


「隙間を?」

「言ってしまえば、今は気泡が出来ている状態なんだ。さっきの器で言えば、器の枠をしっかりと固め、魔力と言う砂を流したが、外枠だけで砂を留めて、器の修復は砂任せ。そうすると、無理に器の欠片を繋ぎ合わせようと、中の流れはガタガタになり――不安定な状態になる」

「だから、動かす」

「正直弄れる箇所、身体という外枠は出来上がってるんだ。ただ、中身という肝心の器は砕けたまま。だから中の物も不安定になり、今のベルになる。自己修復は形を直すだけで、どういう風に直すかは決まっていない。なら、動かして中の隙間を埋めていけば、新しい器がしっかり出来上がる。自然とな?」


 そう言って親指を立てるサミュエル。


「理屈は分かったけど、修行はどうするの? 私の身体、まだ直りきってないのに」

「それは、もう終わってるんだよなぁ」

「――は?」

「さっきの組み手、あの時抑えた勢いを止めただろ? あれで終わり」


 唐突に修行の終わりを告げられ、流石に色々ツッコミたい所が湧き出てくる。


「一体どういう――」

「課題の一つ、制動力。力が出ていないとは言え、お前の力なら地面を砕けたはずなのに、床には傷が付いてない。つまり、それが制動力という答えだ」

「でも、それは上半身だけで――」

「バランス感覚は、しっかり木人形で教えてる。身体の使い方も一緒に、な? だから、気付いてないだけで、もう修行はある程度終わってるんだよ」


 いきなりの宣言に混乱を隠し切れないが、よくよく全てを考えれば、サミュエルの攻撃に対して……力を抑えた上で戦えていた。力の調節が出来ないなら、殺さずに勢いを出す二律背反のような戦闘、出来なかった。


「じゃあ、このままやれば……強くなれる」

「あぁ、強くなれてるんだよ。ベルは」

「……そろそろ僕は仕事に――」


 身体の調整を終えて帰ろうとするマリオンを呼び止める。


「ねぇ! 作って欲しい武器があるんだけど」

「……良いですよ。ただ、かなり特殊な装備を頼みますね」

「色々と、考えた結果」


 夜中の約束を交わし、強くなった実感と共に夜が明けていく。今度こそ、追いつく為に――

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