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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章21話 『矯正』

 一通り街を回り終わり倉庫の扉へ手を掛ける頃には、空は明るさを無くし、薄暗さとコートの上から刺し込む寒さが私の尾を引いていた。


「やっと戻ってきた」

「少し、長くなっちゃ――」


 倉庫の中に入ると、話を終わらせたであろうサミュエルが山積みにされた資料にサインをしていく様と、自前で少し汚れた見慣れない機材を弄る、武器屋にいた胡散臭い青年がこちらを待っていた。


「また会いましたね」

「……えーっと?」

「あぁ、あの時申し遅れました『マリオン=アレグラス』です」

「アレグラ――まさか、サミュエルの子供!?」

「まぁ、子供と言えば子供だが……養子だぞ?」


 どっかで見覚えがある胡散臭さは、サミュエルを見て納得がいく。顔や身長等はまるで違うが、中身が似ているから何となく分かる親子関係。


「好きで養子を引き取るような人には見えないけど?」

「あー、こいつの両親が俺の部下なんだ。父親は兵の指導係で、母親はこういう書類を俺の代わりに手伝っていた」

「……亡くなった原因は?」


 核心の一言。その答えとしてサミュエルはため息混じりに答える。


「はぁ……新人が多数混じった仮演習の最中、突然現れた魔物に対して身体を張りすぎたんだ。そのお陰で、新人である部隊は1人も犠牲者は出さずに済んだ……あいつらが死んだら元も子も無いって、再三注意したつもりなんだけどな」

「何で魔物が現れたの?」

「正直知らん。ただ、この辺りに棲む魔物()()()()事は確かだった。完全なイレギュラーって奴だ。だから、一番強い指揮権を持った二人が、全て工面した。自分の命を度外視な作戦を立てて」

「……そうなんだ」


 ――あぁ、だからこの人は、全部を1人でこなすようになったのか。一人では到底片付けられない程のオーバーワークを、たった一人で……また人を雇えば、その重みに耐えられずに命を投げ出すかもしれない。そう思って、1人になった。


「それで、この人は」

「……両親の記憶はおぼろげにしか無いんですけどね」

「でも、どうしてサバードに?」

「それは、単純に僕の趣味が一番合った場所だからです。子供の頃からおもちゃを解体したり、その部品で変なのを作ったりしてたみたいで、おじさんがここに連れてきてくれたんです」

「今ではこの街じゃ結構有名なマリオネット作りの1人だからな」


 そして、多分だがサミュエルが自分をおじさんと名乗っている理由も、この青年が子供の頃にやっていた時の癖なのだろう。


「事情は分かったんだけど、原因は掴めたの?」

「両断された腰周りがほぼ確定ですが、何が原因かまでは」

「だから、私の身体を弄ると」

「話が早くて助かります――」

「そんな厳つい機械バチバチさせたら嫌でも分かるよ!」


 寝具のように人が1人寝転がれる卓。その近くに、嫌でも目に付く巨大な機械。そこから伸びた多数の工具は、私の身体を修理する為の物だと容易に分かる存在感を示す。


「まぁ、おおよそ目安はついているので、大丈夫とは思います」


 観念して、その卓の上でうつぶせになる。背中から聞こえる皮膚を剥がす音も、工具による鋭利な刃によって嫌な感覚も無く、気付けば赤く汚す事無く中身が露になる。


「……やたら手際が良い」

「それは、ベルさんの身体をくっつけるのに一度やってますからね」


 そして、手際よく背中の部品を外して行く。少し、中に響くが痛みは無かった。


「……これですね」

「何か、見つかったの?」

「見つかった……と言うより、変なくっ付き方をした感じですね」

「どういう事?」

「背中のパーツ、切断された事によってパーツを1から作り直してはめ込んだんです。ただ、両断されたという事は、そもそもパーツをはめ込める地点すらボロボロになっています。僕も、しっかり寸法を計って精巧に作ったはずなんですが、どうしても完璧には出来なかったようで……」


 私の身体だから、何となく理解出来る。歯車をいかに精巧に作っても、土台である中心が少しズレていたら上手く回らなくなるものか。ただ、問題は――


「それで、直せるの?」

「えぇ。ただ、問題が1つあって……」

「何? 大体の事なら耐えるよ?」


 そう答えると、無言で工具を背中付近に押しやる。すると、唐突に痛みが全身を巡る。


「――いったぁ!」

「身体を動かせるという事は、人間に例えると神経という物が繋がっているような物なんです。そんな中で身体の基礎――人間でいう骨格を弄るとなると」

「さっき程度の痛みなら、まだ――」

「あれでも、ほんの少し弄った段階。まだ、本番のズレを矯正するには程遠いです……」

「……耐えられるかな」


 骨同士を無理やり繋ぐ痛みは想像を容易く越えていき、その度にマリオンは腕を止めるが――直さないといけない気持ちの方が上回り、暫く私の叫び声が倉庫に響き続けた。



「――良し! とりあえず、これで大丈夫とは思いますが……大丈夫です?」

「……死ぬかと思った」


 全身をひたすら釘で刺され続けるような痛みと、痛んだ神経の塊同士をくっ付けて擦り合わせるような追い討ち。死なない身体を今だけは恨み、魔物化の痛みもこれと同等なのかと、少し思ってしまった。


「ただ、まだ完治とまでは言えません。何がベルさんにとって正解なのか、知っているのは製作者の人ですから……」


 テキパキと皮膚をくっつけ直し、元の状態まで戻ったが……痛みで少しの間動かせないままでいる。


「まだ、直ってないって事?」

「実際に動かさない事には何とも……ですが、最善は尽くしています」


 まだ残る痛みを我慢し、腰を少しずつ動かしていく。


「どうです? 前よりかは動かしやすくはなっているはずですが」


 思ったよりも身体が軽く感じる。今までは、支えが無い身体を無理やり引き留めていたような感覚で、宙に吊るされたような浮遊感が残っていた。それが、今ではしっかりと地に足付いたような、しっかりと曲がるようになっていた。


「お? 動かせる」

「それは良かった。他にも試して下さい」


 卓から降りて、自分の足で地面を踏み締めた。しっかりと踏み込めた地面は硬く、前までとは比べ物にならない程、力を込められる。そのまま、軽く動作確認。しっかりとした支えがある分、力を入れるが……そこで少し問題点が浮かび上がる。


「大分マシになったけど――」

「まだ、全力は出せないんですね……」


 それでも、赤の国以降のような力の出し方は出来そうに無い。それは、支えがあるとしても少しグラつくような感覚だ。だから、全力を出せばまた外れてしまいそうで、無意識の内に出力を落としている。


「うーん、調子は良いんだけど」

「一応傷を付けたとみなして、自己修復が起きるのもあるので、待った方が良いと――」

「完全に外れた状態から少しズレた所まで戻せたなら、やりようが生まれる」

「おじさんは何をするつもりです?」


 私の叫び声でうるさかった中、一人書類を片付けていたサミュエルが、背伸びをして骨を鳴らしながら横槍を入れる。


「何って、戦闘だよ」

「まだ直りきってないのに無茶を――」

「自己修復が悪さをしているのは、マリオンも何となく察してるだろ? 一応おじさん、人間ならこれで治してるんだ」

「……あれ、マッサージですよね?」

「ベルの身体硬いから、戦闘をしながらの方が良い」


 準備体操のような動きで、ポキポキと身体から音を鳴らすサミュエル。


「何をするの?」

「今からベルと俺で模擬戦だ。主に、打撃じゃなくて組んでの戦闘だがな」

「それは、大丈夫なの?」

「寧ろ、全力で締めて欲しい。おじさんの事は良いからさ」


 狙いがあるかのような含み笑いをして、サミュエルは私を挑発する。


「良いの?」

「ベルが人間に近しい存在なら、ベル自身の力を利用してズレを戻せるかもしれない」

「……なら、遠慮しない」


 倉庫の室内、その一室でお互いの服を掴み、打撃禁止の静かな戦闘。サミュエルの狙いは分かるが、そう上手く行くのか、少し不安だ。

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