第三章19話 『鍛え直す』
「――それで、何をすれば良いの?」
クーラとレイが首都シャンディへ戻り、たった2人となった倉庫の外れ。稽古を付けると言ったが、何をすれば良いか全く知らされないままサミュエルの後ろを付いて行き、気が付けば街を少し外れた氷の洞窟へ辿り付いた。
「急に力が戻って街中ぶっ壊されても困るだろ? だから、あまり被害が出ない場所に来たって訳だ」
そうサミュエルは言うが、それは建前で……多分本音は私の正体を気遣って人目を外した。私の身体はサバードにとっては興味の塊、だから変に力が戻れば中身が剥がれて騒動が起きる。変におちゃらけているが、そう言う所は見てるのが、右腕たる由縁か。
「まずは、ベルの長所と……調べた結果分かった身体の特徴からだ」
「身体の……隅々まで調べて見たの!?」
「見る訳ねぇだろ馬鹿! そう言うんじゃなくて、身体性能の点だよ!」
機械とは言え恥じらいの感情ぐらいは持つし、見知らぬ人に身体を見られる事は流石に抵抗がある。まぁそういう類ではない事は分かっているが、そんな感情を茶化すような言葉で濁す。
「とりあえず分かった事は、ベルには自己再生機能が備わっている。皮膚が破けたりした際に治りが異常に早いのは、それが原因。本質は自己再生で、一撃で屠られない限り皮膚の奥である機械の不具合すら直すものだ。だから、時間が立てばその傷も完璧に直るはずだ」
そういえば自分の表面が直る感覚はあったが、身体の奥にある骨格にもダメージが入った事もいくつかあった。中まで響き明確な痛みとなって突き刺さった事柄、それも寝て起きれば直っている……。それなら、この身体もいつかはくっ付くはずだ。
「そしてもう1つあるが、ベルの身体能力にかなりの制限が掛かっている事も分かった。まぁ、いじってベルが二度と起動しなくなるなんて望んでないからいじっては無いが」
「え? それは、おかしい。だって、赤の国で――」
思い出すのは友達を守りたい、そんな気持ちに呼応した身体の覚醒。あれのお陰で私はまた動く事が出来た。出来たのに、まだ……制限が掛かっている?。
「赤の国での事情は聞いた……お前が倒れてる間にな。その上で、まだ制限が大量に残されている。だからこそ、冒険者狩り――もう1体の自動人形であるお前の母親に性能で負けた」
「外す手段は?」
「正直サバード総出ですら、たった一人の天才シーグル=ウェンライトを越えられなかった。そんな研究馬鹿が残した鍵なんて、とてもじゃないが弄る事は出来ない」
身体能力の制限……ティアとの圧倒的な性能差があったのは、これが原因。これさえ無ければ、助けられたかもしれない。そんな後悔が私の中から溢れ出そうになるが、もう出来なかった事を引き摺っても……あの3人は生き返らない。だから、沸き上がってきた心のドロドロを全部――飲み込む。
「それ以外は、何かある?」
「他は特に、人間と変わらない構造をしている」
話とは別にサミュエルは慣れた手付きで魔術を使い、何体かの木人形を立てて行く。私に背を向けて1つ1つ、人間のような精巧な人形を。
「次にベルの長所だが、1つはその洞察力」
「……最近は騙されたりして自信無いんだけど」
「そんな事言うな。そういうのは後で考えれば良い」
色々と考えて動いているつもりでも、それが全く違ったりする事もあるし……現に目の前の人物相手に色々愚弄され、最終的に碁盤をひっくり返す怪力で終わらせただけだった。
「二つ目は、怪力」
「それも、性能差で――」
「まぁ、言うと思った。だから稽古するんだろ?」
力も、思考も敵わなかった相手。そこに何を加えれば勝てるのだろうか。
「こっからが本番だ。ベルの、短所について」
「短所……」
「あぁ。と言うよりその身体の異質さが故に、怪力に対応出来ていなされる極端な格上か、逆に対応出来ずに圧倒出来る格下としか、相手してないだろ?」
「――そういえば」
今までの相手を思い起こせば、怪力という点を対処されなければすぐ倒し切れていた。逆に、怪力に対して何かしらの行動――近づけない相手には一転苦戦を強いられた。
「遠距離は、課題だった」
「その原因が、遠距離ではなく違う物だったら?」
「違う物?」
「制動力。ベルには覚えがあるんじゃないか? 自らの力を制する事が出来ずに、ベル自身の身体を傷つけた事」
緑の国での戦闘。あの時に起こした跳躍は、着地出来ずにダメージを受けた。それ以降、着地をちゃんと行える様に調整をした結果、力を抑えるように動いていた。赤の国で起こした覚醒後も、攻撃は問題ないがスピードとなると動けなくなる。
「制動力……」
「その反応は、大分あるみたいだな。それとして、二つ目は本能――野生の勘のような物だ」
「それは、短所に繋がるの?」
「あぁ。さっき洞察力の時に自信無かっただろ? それの理由だよ。早い話、ベルは頭で考えるのが得意な分、考え過ぎているんだよ」
「考え過ぎ……」
「例えば俺みたいな相手に愚弄されたのも、全部一度頭に入れた後、考えて動いていただろ? それは反面相手からすれば、考えさえ読み解けば全部バレる一手に繋がる。何が良いのかを全部考え、それに全て繋げる動きが、な」
考える事が全てと、思っていた。じゃないと無意味な動きへと繋がってしまうから、と。だから、全部情報を頭に詰めこんで一手を考えていた。
「筋力やスタミナなんかの肉体的経験値は、ベルには無理。だから、これだ」
大量の木人形を作り終えたサミュエルは、見せつけるように私へ振り返る。
「えーっと、これは?」
「君の判断力――野性の勘を鍛える即席特訓装置だ」
並べられた木の人形は、それぞれが人のような姿をしており、手には同じく木で作った武器が持たれている。他の人形も、武器以外のホウキや鉄鍋なんかも手に持ち、更には子供の人形もいる。これから一体何をするのだろうか。
「もう一つの課題である制動力は、君の身体が本調子に戻ってからじゃないと意味が無いが、本能や考え方を養う訓練は今出来る。これは、様々なシーンや敵、そして逆に傷つけてはいけない相手等を想定したものだ」
「それは分かるんだけど、何をすれば――」
「これと戦うんだよ」
そう言って人形の背中に一つの魔法陣を描く。すると、人形は動き出して目の前にいる私を見定める。
「それはお前みたいに感情や自立して動く事は出来ないが、おじさんが魔法陣を組み替える事で戦える一種のマリオネット。これで、戦術を叩き込みつつ身体で覚えられるはずだ」
「これで、私の勘を鍛えるの?」
「あぁ。ただ原則として、攻撃禁止だ。受け止めるのはアリだが、ベルから攻撃を仕掛ける事はダメ。そして、勝利条件はこの人形の命令を言い当てる事。言ってしまえば、今までベルがやってきた思考の根幹が、いかに分かりやすいか。そして、どうすれば考えずに動く事が出来るか。そして――頭に叩き込んだ戦術の幅で、お前なりのやり方を導き出せるか」
「……分かった。すぐに始めても良い?」
「始めても構わないが、言っておくと……人形って舐めてると痛い目に合うぞ?」
言葉を置いていくように、サミュエルの近くで私を見定めていた人形が動き出す。そのスピードは私の動きよりも早く、安易に懐まで入られてしまう。
「ちょ――!」
まだ戦闘のスイッチが入ってない私に、手に持っていた小さめの斧を振りかざす。
刃が付いてない斧は私の肩口で止まるが、異常な速度で振り下ろした痛みは内部に響く。
「いっ――」
「これでも、一応最初だから弱くしてあるぞ?」
半ば煽りのような台詞。そして、両手を横にして呆れるような素振りのサミュエル。その姿にイラつきを覚えるが、でも――
「……これを乗り越えたら、強くなれる?」
「強くなれるよ。おじさんこれでも、いっぱい兵士を育ててきたからね?」
「なら、上等」
頭の中を切り替え、戦闘のスイッチを入れる。強くなれるなら、いくらだってやってやる。――もう、あんな思いを、周りが傷ついたり死んだりする姿を見たくないから。




