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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章7話 『防衛戦』

 お互いがお互いを警戒し、緊張感のある空気がこの空間を包む。不安そうな顔で見つめる子供達は、私の服をつまみ、泣きそうな声色で心を口にする


「せんせぇ……大丈夫だよね……?」

「……絶対大丈夫。先生が何とかする」


 子供達への不安感をぬぐうように言葉を選ぶ。それは私にも突き刺すような、決意を固める言葉だ。理由も無ければ確証も無い、それでも何とかする。もう一度心の中でこの言葉を唱えながら、再度二人の男へ身体を向け戦闘態勢を取る。


「よく見たらこの女も上玉じゃねぇかぁ! どうなってんだあの街!」

「無駄口を叩く前に女を黙らせるぞ」


 太めの男は下衆な笑いを浮かべ、細身の男は慎重に構えを解かず間合いを詰めてくる。

 第一目標である人質の確保は終わったが、今度はこの子達を守りながら戦闘を行わなければならない。想定ならあの太めの男に一撃を入れて一対一まで持っていくつもりだったが、細身の男が思ったより早く私の目標に気付いて走られたのか響いている。

 第一あの避けは初撃の予想を立てただけの初見殺しのようなもので、二度目は難しい。中々にキツいが頭は冷静に――。

 そして考える、今は隙が無い。下手に動けばやられる上に、あの細男の目線は未だに後ろにいる子供。太めの男に構わせてる間に子供を取る寸法か。なら、一撃で屠る。その為に――、


「黙らせるのは良いけど、女相手に本気で攻撃しても、私の身体を楽しめないわよ?」


 とりあえず太めの男を挑発。細身の男は確実に警戒しているが、こいつは最初から警戒心が薄い。なので、挑発さえすれば、


「腕が片方無くなるぐらいなら問題は――」

「乗るな。初めからお前狙いだ」


 挑発に乗ろうとした太めの男を止める細身の男。流石に安易な挑発には乗らないか。こうなると、両方とも警戒して相手からの攻撃を返すのは難しい。早くこちらから仕掛けないと、相手はジリジリと距離を詰めてくる。だが、種は撒いた。


 私は再度、太めの男へ走り込む。案の定、警戒していた細身の男は後ろにいる子供の所へ走り出す。太めの男も待ってましたと言わんばかりに武器を構える。ここまでは想定通り。

 あの太めの男は最初に私へ攻撃した時、私の足をあまり見ずにタイミングだけで武器を振ってきた。警戒心はあまり強くないのは細身の男とのやりとりで分かるが、一度避けられた事もあって警戒はされている。攻撃を振らせたいのは山々だが、警戒されてる今じゃ適当には振ってこない。こうなったら何処であの男が剣を振るかの我慢比べだ。

 それならこっちから仕掛ける。そう考え、前回と同じように身体を沈め速度を一気に早める。最初の時と同じ動きに同じ速さなら、きっとあの男は前の映像が頭を過ぎり、()()()()()()()()()()で振ってくるはず。


「調子に乗るなぁ!」


 最大限に警戒していたからこそ私の動きに反応した太めの男の右から放たれる袈裟斬り。これを待っていた――。

 体重を一気に斜めへ傾かせ、最高速のまま左へ曲がり、最低限の動きで斬撃を回避しながら目標を定める。最初の時も、挑発の時も、この騙しの動きも、初めからこの為の布石。狙いは細身の男――。


「――っ! 狙いはこっちか――」

「遅いっ!」


 最速で曲がりながら一気に細身の男の懐へ潜り込む。一撃で屠る相手は決まっていた。太めの男へ何度も攻撃を仕掛けた事で細身の男は警戒を最大限していたが、心のどこかにこう思っていただろう。

 ――細身の男は、私が太めの男から倒そうと思っている前提で動いている。

 子供をずっと気にしていたのが証拠の一つだ。本来なら私に狙われる事を恐れて、私へ注目を向けつつ子供達を少し気にする。だけど、あの細身の男は子供達を注目して、私を少し気にする程度でしか視線を送っていた。それは自分から襲われるはずが無いと心のどこかで思っていた油断、それを私は見逃さなかった。

 至近距離まで詰めた私は、掌の付け根部分で鳩尾を撃ち抜こうと手を後ろに引く。


「ちぃっ!」


 詰め寄られた男は咄嗟に私の手と男の間に武器を置き、刃を立て反撃を狙ってきた。このまま掌底で撃ち抜けば、手が武器に食い込み腕が剥ぎ取られるのは自明。このままでは――。


『攻撃はコンパクトに、小さくても充分なのです』


 アリアさんの言葉がよぎり、脇を締めて引いた手を小さく固める。そのままもう片方の手で相手の手首を掴み、更に潜り込む。そしてタックルするように細身の男へ密着させ、相手の胸へ肩をくっ付け溜め込んだ力と速度を掌底に乗せて、鳩尾へ撃ち込む。


「ハァッ!」

「ガ――……」


 手応えは大いにあり、細身の男は崩れて行くように倒れる。感覚としては暫く動けないだろう。後は、


「この女ぁ!」


 一連を見た太めの男は激昂、私は突撃してくる。ここで子供達へ行かない辺り、この男はやはり頭が弱い。

 一度細身の男を捕まえていたロープを地面から拾い、立ち向かうように突っ込む。相手の攻撃は体重を乗せた右手からの大振り、それは2度見て分かっている。問題は振ってくる角度、上から振り下ろすのか横へなぎ払うか、それによって対処は大きく変わる。

 なので、同じ体勢同じ速度を3度目として繰り出す。一度フェイントで様子を見る為に――、


「ぅおらぁ!」

「な――っ!」


 だが太めの男は単調に、だがフェイントに引っかからずにそのまま突っ込み、なぎ払うように右手に持った剣を両手に持ち、斬撃を放つ。


「っつぅ……ぁ……」


 私は咄嗟に相手の踏み込みへ合わせて突っ込み、剣ではなく剣を持った手で受けるが、踏みこんでダメージを抑えてもなお私の身体は軽く宙に浮き、鈍い痛みが左肩へ響く。そのまま軽く横へ吹き飛ばされ、背中から地面にぶつかる。


「――カハッ!」


 背中から落ちた衝撃で口から空気が漏れる。だけど、これは不味い。吹き飛ばされたままの勢いで倒れたまま横へ転がり、来るであろう攻撃から離れ体勢を整えようと――、


「だらぁ!」


 強い風圧と共に顔の真横を剣が霞める。頬を軽く切って染まる赤色がギリギリだった事を物語り、同時に刺してくるような痛みが身体を襲う。口からは鉄の味、左肩は……動くが痛みが激しい。背中の衝撃は息が止まりそうになったが、今は落ち着いている。一発軽く貰っただけでここまでか――、


「やっと当たったぞこの女ぁ! 次は殺す!」


 一度当たった事によって殺気を増す太めの男。何故当たった? 3度目とは言え同じように見せたあの動きで、動揺するなり戸惑うなりの動きが何かしら出ると思っていたのに。私の動きなんてまるで見ないで突っ込んできた……。


 考えられる可能性は2つ、一つは私の動きを読みきった上での攻撃。3度も同じ動きで読まれている可能性はあるが、それであれば咄嗟に私が踏み込んだ際にも身体を引いて対処されたら私は死んでいるし、吹き飛んだ後の追撃でも冷静になって考えてみれば、攻撃せずに私を追い詰めれば私は立ち上がる事が出来ずに詰みのような状況だった。つまり私の動きを完全に読みきっている訳ではない。

 となれば2つ目の可能性、予め頭の中でこの動きと決めて動いている。予めもう攻撃をすると頭に入れていればフェイントなんて見る必要も無い上に、私はこの男を倒さないと子供達を安全な場所まで連れていけないから、必然的に私は突っ込んでくるのはあの男にとって確定されている。後は決めた攻撃をそのまま放てば難しい事を考えずに済む。

 2つ目の可能性の方が確率は格段に高いが、だからと言って避けられたら初めから苦戦はしていない。腐ってもあの体重を乗せた斬撃は脅威だ。今回が上手く決まったのであれば次も同じように予め決めた状態で攻撃してくるはず。フェイントは無意味となったが、あの速度をどう避ければと頭の中にある引き出しを一つ一つ開けていく……、


『――初動から攻撃までの動作が大きすぎます』


 アリアさんに指摘された事を思い出す。この言葉……あの太めの男にも当てはまるのでは無いか?。確かに体重を乗せた攻撃は脅威だが、その分予備動作が少し大きいような気がする。戦闘中で詳しくは見ていないので確証が無いが、何も無い今なら藁でもすがったほうがマシだ。


「来ないなら俺から行くぜぇ!」


 少し調子に乗った男は真っ直ぐ突っ込んでくる。その歩みはシンプルに策は無いだろうが、だからこそ対処が難しい一手。ここからは読みの勝負……。

 太めの男からの攻撃は4回、そのどれもが右手から放たれた物だ。最初に躱した時、フェイントに引っかかった時、当てずっぽうで振った時、その後の追撃、どれも右から振りかぶっている。だからと言って左からの攻撃が無いとは言えないが、共通点として初撃なのも判断材料だ。また、横へのなぎ払い以外は片手で剣を振っている……いや、流石に片手でもなぎ払いは出来ないという薄い賭けに命を張るのはリスクが高すぎる、可能性の一つとして考えた事も馬鹿らしく感じるぐらいだ。

 だけど、初撃は右という可能性は掛けても良いかもしれない、これを前提に置けば少なくとも私側から見て左から右への攻撃が確定する。攻撃の範囲が円から半円ぐらいに縮まったぐらいか。

 それでも、十分いける――。


 太めの男の突っ込みに立ち向かうようにこちらも走り出す。速度はもういらないが、微妙に左回りになるよう相手の右側へ方向を調整。ただし、気付かれたら相手も身体を入れてくるので、気付かれないぐらい小さく、確実に。


「死ねぇ!」


 案の定相手は右手だけで剣を持っている。これで私から見て左から攻撃が飛んでくるのは確定。


「おらぁ!」


 男の攻撃は真横に飛んでくる片手のなぎ払い。だが、若干左回り気味に動いたおかげでほんの少しだけの猶予が作れた。これなら行ける。

 相手の攻撃に対して側宙をするように横回転しながら飛ぶ。ただのジャンプなら間に合わないが、最短で足を上に持ち上げられるこの飛び方であれば当たらないはず。

 同時にかなり弛ませたロープを前方へ少し投げ垂らす。場所は武器を持った右手付近、切られない位置であれば何でもよかった。

 斬撃の風切り音を耳で受けながら、うまく着地。そのまま弛ませたロープを手に取り、そのまま後方まで走り抜く。


「クソ――っ!?」


 ロープは腕を伝い、脇と首元で止まる。体格差がある人を油断無しで一撃は考えていない。


「させねぇぞ!」


 狙いに気づいたであろう男は、首元のロープを雑に引っ張る。だが、これが狙い通り――。

 首元のロープを必死に剥がそうと前へ体重を掛ける太めの男、だが私は唐突にロープを離す。すると体重を前にかけ過ぎた男は、前へよろけていく状態になり、その状態の膝裏を押すように蹴って体勢を崩させる。

 前に体重を掛けたら、バランスを取ろうと後ろへ同じぐらいの体重を掛けるのが身体の仕組み。その時に膝を折らせたら後ろへ体重を掛け過ぎて、膝を折り曲げた状態で仰向けに倒れてしまう。太めの男も同じだ。

 倒れた状態の男が起き上がる前に一巻きしたロープを再度首へ掛けて、起き上がると同時に滑り込んで男の背中に足を入れる。そのまま背中を押すように足を伸ばし、思いっきりロープを引っ張り、これで締め落とす。


「ガ……ゴ……」


 最初は抵抗していたが、すぐに太めの男の力が急に抜けた。気絶したようだ――。


 これで子供達は大丈夫。私は子供達へ足を進めようとしたが、命のやりとりを終えた後になって急に膝が笑い出す。今回は偶々上手くいっただけ、そう思いながら死が目の前にあった恐怖で動悸も治らない。汗も止まらず、これが実戦だと痛感する。


「せんせぇ……もう大丈夫だよね……?」


 子供の声で恐怖から目を覚ました私は、泣きそうな子供達を抱きしめ、


「うん……っ! もう大丈夫だよ……っ!」


 恐怖から声が震えるが、それでも命を守れた。安心で泣きじゃくる子供に釣られて私の視界も霞む。

 その姿を少し顔を出した月が照らしていた

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