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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章18話 『模擬戦』

 長い間の闇から目覚めるような日差し。歩く事すら忘れていた身体はおぼつかないが、それでも光の中を進んでいく。身体が凝るっていつぞやの大人が言っていたけど、こんな感じなのだろうか……。


「おじさんも、本調子ではないから……まずは軽く手合わせって事で大丈夫?」

「――何か戦闘でもしたの?」

「貴殿との戦闘の際に出た突きで、サミュエルは壁に叩きつけられ全身打撲。防具で固めているとはいえ、その内側は包帯まみれだぞ」

「えーっと……なんか、ごめん」

「あの時はお互い疑ってる敵同士なんだ。恨みっこ無しさ」

「女だからって手加減しているとの報告を受けていたが?」

「流石に冗談きついって、クーラ」


 軽口を交わしながら、お互いに距離を取っていく。前回は敵だったが、今回は腕鳴らしの組み手。殺気という気配も今はサミュエルから感じない。


「一応、私もいるんだけどなー」

「レイの手加減は手加減じゃないんだよ……」

「今はちゃんと加減出来ますぅー!」


 不貞腐れるレイをよそに、和やかな雰囲気のまま構える。多少身体は重いが、動かせば感覚は掴めそうだ。


「先に一応忠告しておく。ベル、今のお前の身体がどうなってるのか、おじさん達にも分からない」

「でも、ちゃんと直して――」

「完璧に直せなかったの。それだけ、シーグルさんの技術が抜きん出ていたんだよ……」

「だから、貴殿には悪いが技術者を呼んで自動人形ではなく、マリオネットとして直してもらった。その弊害が起こるかもしれないから、こうやって私の右腕と手合わせする訳だ」

「……なら、動けば分かるって事でしょ?」

「話が早いねぇ。おじさん、そういうの好きだよ?」


 そう言いながら、流れる雪のようにゆったりと見た事の無い構えを取るサミュエル。全部を見せるって言ってたけど、その引き出しの多さは少し憧れる。


「いつでも来な、お嬢ちゃん?」

「――上等!」


 その言葉が一種の掛け声となり、まっさらな白に足跡を付けて駆け出す。


「少し鈍いのは分かるが――頭は回せよ、ベル!」


 小さな雪という障害にすら動きを取られ、足がおぼつかない私に痺れを切らしたサミュエルが向かってくる……大きく手を広げたその独特な構えのまま。それなら狙いは足元――


「そこで攻撃せず反撃を取るのは正しい。だが」


 攻撃をせず走ってくる足元を交差的に合わせ、相手の初動を封じる。後は相手の攻撃を、


「その動きは崩されやすいぞ」


 攻撃を待っていた私に対してサミュエルはそのまま踏み込み、私の身体を押し込もうと零距離まで詰める。無策ではないのは分かっている、だが……このままだと不味い。


「――動かし辛い身体を狙っているの?」

「弱点は突いてこそ弱点、だろ?」


 慣れない今の身体じゃ、上手く力が入らない。本来なら軽く押し返せるはずのサミュエルに、ジリジリと押し込まれていく……それは子供同士の押し合いのようで、一手で勝負が決まる詰め将棋。下手に手を出せば確実にあの構えに取られて負ける。なら、考えを改めて――相手の胸倉を掴みながら、不意に力を抜いて後ろに身体を引く。


「な――!?」

「これは読み切れ――」


 それすらも逆手に取られ、身体を返すように上に飛ばれる。捻るように胸倉の指を外され、支えすらも失った私の身体はただ1人で雪中に沈んだ。


「読み切れているんだよ、ベル」

「……私、大分弱くなってる」

「これは、リハビリが必要だね?」


 怪力少女の手を引き、雪で白くなった身体を払いながら起き上がる。まさかここまで弱くなってるなんて……。


「でも、ベルの頭は大丈夫みたいだな」

「言い方もう少し何とかならない?」

「ただ、もう少し戦略に遊びがあった方が良いぞ? 合理的過ぎるのも、読まれやすい」

「サミュエルは遊びすぎだがな」


 それでも、攻め方や思考力に鈍りは無い。攻撃という選択肢が全て詰みになる状況で、力を抜いて相手の動揺と共に何処かを掴んで投げれば距離も取れる、という考えを読まれたのだが。


「それで、そんな身体でも黄の国へ行くか?」

「……でも、急がないと」

「冒険者狩りと、例のカルラって奴の事なら私に任せろ」

「何をするつもりなんです?」

「貴殿――ベルの事を既に多数の場所で伝えている。だから、動きがあればすぐに場所が分かる上に、奴らの片側であるカルラは人間だ。休憩や食事が必要な以上、派手に動けないはずだ」


 理に適った理由。だが、それ以上の狂気を眷属は孕んでいる……。街を全部壊して略奪なんて事が無ければいいが。


「それと、ベルよ。私に敬語は不必要だ。名前もクーラで良い」

「お前があだ名で呼んで良いって、少しばかり丸くなったか、クーラ?」

「サミュエル。お前だけは殿下と呼べ!」

「はいはい、殿下殿下ー」


 軽くあしらうような二人の会話。それだけ、長い付き合いという事か。


「全く――」

「ベル。お前が身体を取り戻すまでの間、俺が稽古を付けてやる」

「話を聞いてないなこの男……」

「でも、仕事で忙しいんじゃ?」

「こっちでも書類持ってくれば出来るし、事後処理も含めてこっちに誰がいた方が良いだろ? クーラは首都に居ないと流石に支障をきたすし、レイも酒場のマスターだ。だから、消去法で俺になるって訳だ」

「……軽い男だか、実力は本物だ。ベルの戦い方にも合っているだろう」


 確かに戦術は多い方が良いが、そうなると武器が――


「あ、今俺の事素手のみの人間って思った?」

「え? サーちゃん素手だけじゃないの?」

「……こいつの厄介な所は、ほぼ全ての武術をある程度極めている事だ。だから、武器も使える」

「真面目な事言うと、木で脆いが武器が作れる以上、色々と学ぶんだよ」


 思ったよりも深い底のサミュエル。あれで、まだ全てには程遠いのか。


「まぁ、それでもベルみたいな怪力や、1つを極め切った奴には勝てないけどな?」


 そう軽く笑うが、最初の1戦は私の勝ちと言うより、痛み分けの勝負持ち越しみたいな感覚。それに、まだ戦術としても、魔術としても、底が無い相手に勝てるビジョンが見えないのは事実だ。


「……じゃあ、稽古をお願いする」

「よし。じゃあ――」

「今度は酒場の番! 私も協力させて?」


 話を終えようとする間にレイはひょっこり顔を出し、会話に入れなかった事に頬を膨らませながら話を変える。


「ベル。暗殺者にならない?」

「いきなり過ぎない?」

「違うの、肩書きだけ」


 そしてその少女から放たれる物騒な単語。肩書きだけとは言うが、流石に穏やかじゃない。


「肩書きだけでもって言われても、どういう事?」

「暗殺者は人を殺せる依頼が出来る人達の総称で、顔を隠す仮面を付けるの。ただ、それだけ得られる情報と酒場の利用できる場所が増えて、今後もやりやすくなると思って」


 仮面……そういえば、赤の国で見かけたあの仮面の人達。あれが暗殺者……。


「実際に人を殺すの?」

「殺さなくて良いよ、だから肩書きだけ。それに、暗殺者になれば特殊な冒険者カードになって、暗殺者同士が繋がりやすくなる。あの人達は人を見定める為に色々な場所を見てるし、私みたいに動けないマスターって職業より現場を知ってるから、情報も持ってる」


 話を聞く限り得でしかないが、それだけ条件が厳しいかデメリットがありそうだ。


「不都合はあるの?」

「人から恨みを買いやすいのと、最悪の場合――」

「私のような、国王を殺す事になる。まぁ、不利益を大量に被れば、の話だが」

「うん。様々な要員で殺さないといけないと、判断されればベルも人を殺さないといけなくなる。特に、権力やシャードを持って圧力を使うような相手と、ね? そして、なれる条件は私と……少なくとも過半数のマスターからの推薦」

「……ルールーさんとアシュレイがいる」

「なら、話は早そう」


 暗殺者のデメリットは、声が掛かれば嫌でも殺さなきゃいけないぐらいか。でも、もうそれは克服している。


「じゃあ私は、酒場に戻って手続きしてくるね」

「私も、そろそろ席を外し過ぎて怒られそうだ」


 レイとクーラは馬車に乗り、雪の中を走り出す。視界の悪い白は容易に馬車ごと姿を消していった。


「さて、じゃあ……続けようか」

「身体が戻ってないからって、変な事しないでね?」

「するか! 俺はそんな子供に手を出す人間じゃねぇ!」

「子供……へぇ……」


 子供扱いに熱が篭るまま、再度構え直す。今は身体が戻るまで、鍛え直す時だ。

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