第三章17話 『昔話』
外から見えるかすかな光が、まだ日が登っているのを告げてくれる無機質な室内。その中で未だ身体を動かし慣れていない私は、魔法というルーツと私の生まれた理由を聞いていく。
「私のコア……それが、何で」
「クリスタルは今の所、それ以上の魔石が見つからない程に圧倒的な物を持っている。それが、一度取りこんだ魔力を際限なく増やす増幅効果。特性も含めて全て際限なく、な。何でそれが起こっているか等は未だに研究中だが、まだ取っ掛かりが掴めない程謎の多い物だ」
「それで、固定って特性をばら撒いたの?」
「あぁ。サバード全域に、時間制限を付けて、特性を持つ氷を――決して壊れない氷を作り上げて、内部の時を止めた」
封印されていたのは分かるが、だからと言って解除されれば年月という物で風化していきそうだが……。
「でも、それが溶けたら中の人達は……死なないの?」
「いや、多数死んでいる。固定って特性に飲まれて完全に時を失った遺体。私達は『刻骸』と名称しているぞ」
刻骸……刻に囚われた骸。という事は、サバードは既に死体として扱っているのか。
「ちょっと待って! 何も死体として扱わなくても、再び動き出すって事は――」
「0件だ。一応国のトップとして私に向けるよう情報を入れているが、それでも蘇った例は1つも無い」
そう端的に述べたクライナーの顔は、助けられない悔しさを滲ませるように奥歯を噛みしめている。それが、刻骸を復活させる為に色々と策を巡らせた上での悔しさなのは、明白だった。
「……でも、生き残った人達もいる」
「そういった人間でも、固定の影響で肉体の老化が極端に遅くなっている。300年以上生きていても10代の見た目をしているのはそういう理由だ」
「不老不死って事?」
「いや、ほんの僅かだが動いてはいるんだ。だから、いつかは老いて朽ちる。何時になるかは知らないが」
だから、浮世離れしたような雰囲気を纏っていたのか。肉体が若く見えるんじゃなく若いままだからこそ、中身とは遠くかけ離れた現実のような印象になる。
「そして、時間制限の解けた後は再び魔を伝達させていった。封印されていた長寿の魔法使いが昔とすると、それに教えられた今の忌み子は、今の魔法使い。って所だな」
だが、少し引っかかる。今まで援軍にも来なかったサバードが、どうして最初は交流を深めたのだろうか。魔術は人が扱えるように工面されたものなら、魔法使いが関わっているはずなのにどうして――。
「ねぇ、どうしてサバードは排他的だったのに……魔術を広げていったの? 教えずに制圧も出来たはずなのに」
「……魔物化だよ。あれは、人でも魔法使いでも平等に訪れてしまう原因不明の死なの。そして……魔法使いはその封印の影響で多数の死者も出て、数が少なかった。全滅を危惧した魔法使いは、あらゆる国に流通出来るとある場所に目を付けた」
「酒場……」
「うん。私達酒場が中立なのに何でここまで情報を持っているか、それは裏で魔法使いと手を組んでいた時期があったから。そうでしょ? サーちゃん。クーラちゃん」
「一応私は国側の人間なのだが」
納得がいった。酒場の技術には魔力が使われていた理由、それはこういう事だったのか。そして、レイの良い方と契約書の内容から……どちらかが手を切った。
「どっちが裏切ったの?」
「……酒場、かな。当時の記録はかなり主観だったんだけど、クーラちゃんから見せてもらった資料と合わせて、当時の酒場が悪いって結論になったよ」
「レイが酒場に入る前まで、酒場は大の魔法使い嫌いでな……。元を正せばここが原因なのだが、酒場の資料を見て私も驚いたよ。必死で自分は善、相手を悪だと罵り続ける主観的過ぎる資料を見て、な。だから、中立だった国としての記録を見せたら、レイは大層驚いていたよ。でも、何故裏切ったのか理由までは――」
「そこは、何となく分かる」
理由は、さっきの話を聞いて何となく想像が出来ていた。きっと、酒場の人間も明らかに異質な技術を見て、恐れという物が膨れていったんだと思う。再度魔を伝えようとしても、受け取る側の人間が付いて行けないなら、それはただの理解不能の物になる。そして、膨れ上がった恐れは小さなほつれによって、爆発した。
「――多分、忌み子と恐れて魔法使いを追い出した昔の人間と、同じ事が起こった」
「はぁ……歴史は繰り返すってもんだな」
「それで、シーグル=ウェンライトは何処にいるの?」
「……一応国に入った報告は残されているんだが……その先が――」
「多分にしかならないが、『シャンノット=アルマゾフ』の元に行ったんじゃないか?」
また、新しい人名が出てきた……。というより、どれだけ魔法使いがいるのか。そんな少し荒れた気持ちを抑えながら、話を聞いていく。
「えーっと、誰なの?」
「自動人形の素体となった人物。まぁ、体のいい実験体なんだが……」
「その人物はどこに?」
「黄の国――正式名称は砂塵の国『ケロン教皇領』そこにいる」
ケロン教皇領という場所は聞いた事あるが、あそこは――
「また妙な所にいるな。あそこは一番危険な国だぞ?」
「国の女王様とあろう御方が、別の国の悪口を言って良いのです?」
「茶化すなサミュエル。事実を述べただけだろう」
「まぁ、あの国に関して言えば概ね同意するが」
女王とその補佐が口を揃えて言う、危険な国。それは、私がまだ自覚していない頃に見た本にも乗っていたが……正直何故危険なのかは記されていなかった。
「危険危険って言うけど、何が危険?」
「……まぁ普通にしていれば良いんだけどな。3つ程、危ない所がある」
「1つ目は……『レヴィアタン』と呼ばれている怪物だ」
緑の国にあった大樹をユグドラシルと呼称したのに続いて、また神話から引っ張って名付けたのか。
「その実態は巨大な蛇のような魔物だよ。そして、未だに討伐されていない化け物でもあるの。酒場は過去に何度か挑んだみたいだけど、その全てが全滅。それ以降触らぬ神に祟り無しと放置した」
「よその国の事情なんぞあまり知らないが、その化け物はある一定の場所にずっと留まっている。だから、手を出さなければ襲う事は無い。副産物である『砂の海』は違うが」
「えーっと、あの魔物は砂を砕いてキメ細かな砂に変えるの。そして、その中に潜って地中を移動して行くんだ。だから、通常の砂漠と違って砂の上を歩けないの」
女王の話に、酒場からの補足が入っていく。つまる所、あそこにいた魚の魔物が大きくなり、周りへの被害を増やしたもの。
「二つ目は、それに伴う運送を狙う賊の存在。これは単純に、砂の海で運搬が限られた手段しか無くなった事で、それを使った賊が生まれたようなものだ。まぁ、どんな国にもいるが……ここの場合、場所が場所だから面倒でな。国同士の面談の際にも1回現れた事もある」
「それは、冒険者だからなんとか出来る。最後は?」
「……正直、ここが最も注意しなければならない所だが、3つ目は国民全員だ」
どうしようもない3つ目に、少し驚く。だか、教皇領と付いた名の通りなら……。
「そんなに、信仰心が高いの?」
「昔はあまり無かったんだがな……30年ほど前ぐらいから、ちょっとずつおかしくなっていってる。横への口出しすら拒んで、狂信的になっていった。だから、変に事を荒立てるな。そうした途端、異教徒として国民全員が敵になるぞ」
……全員敵は中々に面倒臭い。倒す事は出来るが、それでも時間も術もかかる。
「分かった。じゃあ――」
「その前に、今の身体がどういった調子か、俺――おじさんと一戦交えない?」
少しの間黙っていたサミュエルが突然口を開き、決闘を申し込んでくる。
「えーっと?」
「単純な話だよ。その身体、全部が直ってるかどうか試さないと……大事な時に動けないと困るだろ?」
「……全力出すけど、良いの?」
「おじさんも、今度は全部見せる。その代わり、寸止めでお願いね?」
そう言いながら、ある程度動けるようになった身体で外へ向かう。サミュエルとの一戦の為に、外へ――




