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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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断章B 『臆病者』

 虚空から飛んでくる機械の半身。それを軽く1つに纏めて白の雪に隠していく。あの人が時間を稼いでいる今しか出来ない、まだ薬を飲んでいない私が出来る、下準備。


「後は、罠を仕掛けないと」


 用意していた殺傷用の罠を総動員させ、全力で殺しに行く。


「――震えるなよ、こんな時に」


 ただ、1つ1つ仕掛ける度に思い出す、過去の記憶。自分が、一人になった理由――


『――この罠、明らかに人を狙っている』

『人を狙う? そんな……お前がやったのか?』

『違――』

『違わないだろ! 俺らを嫌っていたお前が、俺らを殺す為に仕掛けたんだろ!?』


 きっかけは1つの疑心から。冒険者でも人格はピンキリ、私が組んでいた人達は私をしもべのように扱うような人達だった。だけど、想定外の罠にかかって冒険者の命と言える四肢が動かなくなり、イラつきとやるせない気持ちを私にぶつけて来た。名もある程度売れていたその人物は、後に誰かに襲われて亡くなったが……その時付いたのが味方殺し。


『――あ、あ……』

『助けて、くれ……』


 傲慢だった男に一矢報いたいとは思っていたが、いざ目の前で血を流し倒れる様を見て、どうしようもない恐怖感しか出てこなかった。そして――


『うわあああああ――』


 その場から逃げてしまった。だって、私も作った事のある簡単な罠だったから。だからこそ――そんな簡単な罠で大量の出血で這いつくばる人間が、怖くて仕方なかった。簡単な――子供でも作れるような凶器を持っている自分も、今まで強いのを真横で見てきた人がいきなり倒れる様も、全部が怖くて……逃げ出した。


「事実を知ったら、とんだ臆病者って言われそう」


 罠を全て仕掛け終わり、再度ミシェルが戦っている光景を見直す。ボロボロで血だらけの状態でも、時間を稼ごうと奮戦している姿。


『――もし、今度こんな事が起こったら、躊躇わずに逃げればいい』


「……ベルさんの忠告を無視してごめんなさい。でも――今度は、逃げない」


 一度目は臆病者だったから逃げてしまった。二度目も臆病者だったから、中途半端な覚悟しか持てなかった。だから、三度目は逃げない。


「だから、出来る事を――時間稼ぎをする」


 あの機械の身体は両断されても、まだ生き残れる可能性はある。ただ、私には知識が無い。だから、救援の人間に託す為の戦い。


「だから、まずは――」


 時間稼ぎをする為の最終準備を進める。一か八かの戦術なんてあまり使いたくは無いが、たまには悪くない。



「確か、この辺りまで飛んでいったかしら」


 ミシェルを潰した女は、ベルを探しにこちらへ歩を進めだす。その横っ面にまず、矢を一撃。


「……今更、そんな事で死ぬと思って?」


 口元の苦味を布で隠し、背中に上半身を担ぎながら罠の方向へ走り出す。


「――そうやって逃げるつもり?」

「私は、臆病者ですので」


 ベルの使っていたコートが風を切り、私の脚力が上がっているのを肌身で感じていく。それでも、化け物の足には及ばない。


「遅いわ――!?」


 ただ、追いつかれるであろう箇所をワザと作り、そこに足を向かわせる事で作動するトラップ。強さが故に見落とす、意識の外からの攻撃。

 足元の魔法陣を踏む事で多数の火薬が燃焼し、周囲を爆発させながら中央にいる人間に衝撃を集め、氷の破片と共に高圧と高熱を与える罠。


「……へぇ?」


 それでも、ほんの少しの目くらましになる程度で、距離を稼ぐのは難しい。一応あれでも魔物なら即死する罠なのだが。


「いざ目の当たりにすると、化け物過ぎますね……」


 弱音を呟きながらも、次の罠まで誘導しつつ距離を稼ぐ。()()()にさえ気付かれなければ、大丈夫なはず。


「小賢しいわね」


 私を追う異形は唐突に構えをかえ、両手で斧を持ち回転し始める。ただ、あの動きは――


「――沈め」


 そして、大きな踏み込みと共に弾丸のような黒い閃光が一瞬で通り抜ける。閃光に取り残された音と衝撃が遅れて私へ襲いかかるが、


「その技は、一度見た!」


 事前に作動させたトラップの反動で瞬間的に浮かび上がり、閃光の直撃を避ける。ベルという身体を両断できた威力を作りだす為には、何かしらの予備動作があると睨んでいたが、どうやら正解だったようだ。一瞬遅れた衝撃で吹き飛ばされる事を考慮しなければ。


「これは、死にますね……」


 思ったよりも強い衝撃と飛距離。このまま地面に叩き付けられれば、やすりのように全身摩り下ろされて死ぬ。かと言って、無傷で残れる手段は――


「……死ぬよりマシか」


 落ちゆく地面に向かって、弩を構える。あの時魚を出した時よりも強い、限界まで火薬を詰め込んだ矢を装填して、放つ。

 至近距離で爆発した矢の破片は、私の身体に小さな穴を開けていく。一撃でも貰ったら死ぬ箇所を防御してるとはいえ、痛みで意識が飛びそうだ――


「あ、があああぁぁ」


 それでも威力を殺しきれず、ひしゃげた方向に曲がる足。そして、グチャグチャになった足を容赦なく氷は抉り取っていき、赤い2本線を作りだす。


「――文字通り、死ぬより、マシ程度か」


 止まった身体の足元は、膝先から原型の無い肉塊になっている。少しでも気を緩めれば痛みで意識が無くなりそうだが、まだ……もう少し耐えろ。


「蝿程度の人間が、大層な事を考えをするからこうなるのよ?」

「貴方にとっては、蝿なのかもしれませんね」


 眼前には、既に追いついた化け物……呆れたような顔だ。まるで、私達の行動に理解を全く示していないようだ。


「それで、抵抗しても結局ベルを渡す結果になるのにねぇ?」


 でも、この地点にこの人物を連れてきた時点で、()()()()()


「そう、ですね――」


 私の身体に興味を示さず、その背中に背負ったもう1つの存在を乱雑に取りあげるクリスティアナ。でも――


「な、こいつ……」

「でも、こんな言葉も、あるんですよ?」


 私の背中に背負っていた人は、ジャンの上半身。そこにベルのコートをかけて偽装したものだ。薬のせいで傷口が塞がり、死にきれなかったジャンの提案に乗った作戦。


「窮鼠、猫を噛む、って」

「――自分ごと巻き込む気!?」


 私を起爆剤にして爆発を始める周囲と近くの氷山。

 ――私は臆病者だから、大層な期待を背負って走る事なんて出来ない。


「チィッ――!?」

「逃がし、ません」


 必死に飛びのこうとするが、鉄線の付けたクロスボウを放ち少し、動きを止める。この地域の氷山には、ある特性が存在するのを知っているからこそ抵抗を続ける化け物だが、絶対に離さない。

 ――私は臆病者だから、こんな戦い方しか出来ない。


「――そんな戦い方っ!」

「臆病だと、罵りたければ、罵るといい」


 ここの氷山は、何故か溶けない上にとても頑丈だ。魔術道具(マジックアイテム)で、魔力の切れ目を狙って砕かなければ、どんな材質よりも割れない氷。それで塞げば、時間が稼げる。


 ――こんな、臆病者の、最後の抵抗だ。

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