第三章12話 『廃墟へ』
何度目かの日差し、肌に触れる柔らかな感触から身を起こす。血を洗った後、少し休憩するつもりがそのまま朝を迎えてしまったようだ。
「……起きないと」
トゲで開いた穴を新品同様に塞いだ防具、それを着込みいつものように酒場へ赴く。
「おはよう、ルーちゃん」
そこには、組んでいた3人と共にマスターが先に話し込んでいた。
「よぉベル。遅かったな」
「何を話してたの?」
「色々と、向かうべき場所を確認する為の会議だ、ベル嬢よ」
丁度、話し合いを終えたのか……それとも私に隠し事なのか、私が来た途端にその話を終える4人。
「それで、どうするんですか? 廃墟までかなりの距離がありますが」
「今までどおりでいいだろ。と言うより、今変えても仕方の無い事だし」
「だな。アール坊が急に近接戦闘をしろって言われても無理だ。なら、対策はしておいた上でいつも通りだ」
だが、会話の端々から何となく何を話していたのかが見えてくる。でも、
「それだと、急襲でアールが危なくならない?」
「私は大丈夫ですよ。その為に色々、仕掛けてますから」
「なら、決まりだ。同じ陣形で廃墟まで向かう」
そう言って手早く外に向かう3人。これは、確実に何か隠している。なので、私だけは着いて行かずに、レイを問いただす。
「ねぇレイ? 何か、隠してる?」
「……うん、隠してるよ。でも、これは保険。私だってあまり使いたくない札なの。だから、信じて欲しい」
悲しそうな表情で懇願するレイ。傍から見たら嘘くさいような演技だが、それでも――嘘を付いているようには思えなかった。
「……分かった。その代わり、終わったら全部説明する事」
「うん。だから、絶対4人で帰って来てね」
マスターの依頼、ではなく約束。
「分かった。じゃあ、行ってくる」
それを背負って、酒場を飛び出す。邪な考えも悪の心も真相も全部、廃墟にあるのなら……絶対に何かが起こる。
「挨拶は終わったか?」
「終わったよ。だから、行こう」
だから、この人達を守らないと――そう心に誓って。
「――廃墟遠いな!」
「アヴドゥーグ地方はロクに手入れが出来ず、氷山だらけだからな」
「足元、気を付けてくださいね」
廃墟に向かう道中、氷山だらけの道筋を辿りながら魔物のいない場所を進む。
「……それにしても、魔物がいない」
「そりゃ、こんな場所に魔物なんて寄りつかないだろ」
そうミシェルは言うが、魔物は環境に順応するもの。だから、場所なんて関係ないはず。誰かが倒して回っている……?。
「おいアール! 少し早いぞ!」
「あぁ、すみません。先行しすぎてしまいました」
それに、私の居ない会議でお互いが丸くなっているアールとミシェル。一体何があったのか……。
「ねぇジャン? 私の居ない間に何かあったの?」
「……お互いの過ちを謝っただけだ。ベル嬢」
「過ち、ねぇ」
お互いの過ちというのを知るという事は、レイの事情を話したという事になるが……。そういえばレイに対する疑心感も、あの場面では無かった。
「そんな懐疑的な目で見なくとも、ミシェル嬢は、反省もするぞ?」
「……結構我が強そうなのにね」
「誰の我が強いって?」
「ミシェルさんでしょう?」
「グーで行くぞ?」
たわいの無い雑談。ミシェルとアールの壁が無くなった事で雰囲気良く進んで行く。
「……あれ?」
「どうした? ベル嬢」
「そういえば、サバードに行こうとする道中だったような」
「――サバード」
忘れかけた最初の目的。レイの嘘を考えると、多分アヴドゥーグ地方にあるように思えたが。ただ、サバードという単語を聞いて、アールの顔が少し引きつる。
「ベルさん。どうしてサバードに向かおうとしてるんです?」
「個人的な用事。それよりも、その反応だと私は知っていますって言ってるようなものだよアール?」
「――えぇ、知っていますが」
そう言って、顔が強張ったままアールは続ける。
「ただ、あそこと関わるのは辞めておいた方が良い」
「それはどうして?」
「サバードは興味が無い事柄に関しては、かなり排他的です。ベルさんの個人的な事情をたとえサバードが持っていたとしても……教えてくれないかと」
「そう……でも、尋ねてみる価値はあるんじゃない?」
最悪、私の身体を差し出せば――自動人形と告げれば多分、興味を持たれるはずだ。
「おい、サバードって何だ?」
「私の事を知っている街」
「私の事? ベルはベルじゃないのか?」
「色々事情があるの」
「ベル嬢も込み入っているんだろ。あまり押していくなミシェル嬢」
サバードという単語を知らないミシェルは問いかけるが、ジャンはそれを静止。アールの一件もあって冷静になったみたいだ。
だけど、ミシェルはこの国出身なのに知らなかった。つまり、サバードは……何かを隠している街だ。極一部の人間しか知らない、秘密を持った街。そしてそれは多分、魔法使いという存在だろう。まとめると、サバードという街は――魔法使いの街。
「それはそうと、この氷山を抜けたら見えてくるはずですよ。例の廃墟という場所が」
「……気を引き締めよう」
氷山を登っていく先、氷だらけの青と雪の白だけの山を抜ける。その先には――、
「氷の……森?」
まるで意志を持ったように、氷が木の形へ造詣された空間が広がっていた。
「えーっと、何これ?」
「氷の森ですよ?」
「――は?」
明らかに自然では有り得ない場所。緑色の氷が地面の雪から生え、木を作り森が出来ている。緑色で冷たい木なんて、見た事も聞いた事も無い。
「こんな場所が……」
「きっかけは、昔この場所で研究室を構えていた研究員です」
「研究で生やしたの!?」
「いえ、最初は管理出来ていたらしいんですが……。その研究員が死に、管理が出来なくなった結果、こうなっちゃって」
あまりにもずさんな理由。嘘をついている訳ではない様子だし、何ならこちらも被害者という顔をアールさしているが……何というか、何も言えない。
「……サバードは関わってるの?」
「知っている私が言いますが、神に誓ってあり得ません。これはサバードにとっても悩みの種なんですよ? 放っておけば恐ろしい勢いで生え散らかし、中身は氷なので草木も硬く、足を躓かせて転べば天然のヤスリで擦られるような怪我になる」
饒舌に愚痴が飛んでくる。言葉の節々にも恨みが篭り、本当にこの木に対して負の感情しか抱いていないようだった。
「それに――」
「愚痴はもう大丈夫だアール坊。それよりも、これはどんな事になるか説明をくれ」
「……すみません。つい、恨みが篭ってしまいました。この場所は私達の間でも『氷の森』と称しています。文字通り、氷に植物の魔力を混ぜて作り上げた種子が、この場所を作っています。ただ、形だけ木なので、中身は全部氷、なので異様に硬い葉や草が生身の部分を削ってきます」
「つまり、私が危ないって事か?」
「そうなります、ミシェルさん」
カチカチの氷で、皮膚を貫く葉。色々とまた、面倒なものを作ってくれた……。
「アール! それでも、この先に廃墟があるんだろ?」
「はい。遠目からですが、確認できました」
「なら、進もう」
それでも、一歩真相へ進んでいく。心の中で騒ぐ小さなザワザワに、そんな事は起きないと言い聞かせながら。




