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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章6話 『始めての』

 走って外へ出たけどリナ姉達は何処に行ったのか……。急ぐ足をさらに早めて、まずはリナ姉が住む領主の館まで歩を進める。


「ここにはいない……何処に行ったの……」


 だが、そこには人の子一人おらず、踏み荒らされた草花が倒れているだけだった。人はいなかったが、ここで何かがあったのは間違いない。その上、


「……血痕……誰のかは分からないし、凶器も無い……」


 痕跡はあるが、傷を付けた物は周囲に存在しない。可能性は3つ、一つは単純にコケて怪我をした。だけど、これはありえない。擦り傷で草花に血が付いたとしても、その部分は倒れた体重で潰されているはず。

 確かに踏み荒らされてはいるが、血痕の位置と位置が違う。

 2つ目は単純に誰か、この踏み荒らした人物が無用心に怪我をした可能性。だけと、これも可能性は低い。血が少し飛び散る程度の怪我をしたとなると、痛みで確実にこの血痕に目をやるはず、その上で血痕を残すのは流石に頭が悪い想定が過ぎる。

 となると――、


「凶器……ナイフか何か鋭利な物を持った誰かが、ここで別の誰かを切った」


 この領主の館はリナ姉が領主になって以降、そのほとんどの業務をアリアさんがこなしている。その上リナ姉は病気を患っているので、知り合い以外はこの領主の館には入られない……。

 偶然誰かが荷物なりを運んでる時に切られた可能性はなくは無いが、それなら街に逃げ込んだ人が騒ぎを起こすはず。

 領主の館への道は途中から一本道、道の途中で犯人の追撃があれば、道中にも痕跡はあったはず。だけど、少なくとも私が来た際の道は昨日と同じだった。

 一応館の奥はあるが、そっちは既に使われなくなった獣道で、魔物がいる上に街にも繋がってない行き止まり。パニックを仮に起こしたとしても、魔物がいる方向へ逃げ込むのは考え辛い。

 つまりこの血痕は――


「反撃を貰った凶器を持った誰か、もしくは緊急で向かって行った誰かの血」


 頭に浮かんだ最悪の可能性がよぎり、頭が回る前に足が館の奥へと走っていた。緊急で消えたのは子供達とリナ姉、アリアさん。もしあの場所で子供達を襲った相手と遭遇していたとしたら……。アリアさんだけなら戦闘力は折り紙付きだけど、もし人質に取られていたら……。

 そう思いながら館の奥にある獣道を走り抜ける。すると、金属と金属がぶつかる高い音が微かに聞こえた。


「――そっちね」


 金属音がなる場所まで素早く、でも見つかれば二の舞になるので慎重に動く。相手はまだこちらに気づいていない、利点を活かすのはちょっと前のアリアさんに教わった事だ。


「とりあえず……相手の情報を探る事が先ね」


 音がなった場所の近くまで隠れながら入り、目視できる所まで近づく。そこには子供達が捕まっており、そこに監視役の人間が二人、軽口を叩いている。


「――いやぁガキ共の他に上玉が二人も確保できるなんて、ツイてるなぁ!」

「油断はするなよ、ガキを襲った事はもうバレてんだ。何時追っ手が来てもおかしくない」


 監視の二人に見覚えは全く無く、街の人が行った犯行という線を薄くする。首謀者が街の人という可能性はなくは無いが、少なくともこの男二人が顔見知りじゃない事は思いっきりやれる。今すぐにでも出て行く事も可能だが、アリアさんの言葉を思い出す。


『――どんな時でも心は冷静に』


 今私が出て行っても、単純に二対一を強いられる事になる。仮に一人を不意打ちで倒せたとしても武器持ちと素手じゃ不利を背負う。だから、絶対条件として武器を奪った上で一人を倒す、もしくは二人一気に不意打ちか……。どちらを取るにしても相手の行動を予測しないと無理だ。だけど、


『――お前は目の付け所が鋭く洞察力に長けておる』


 マルクに言われた洞察力、相手を観察すればきっと――。


「あっちに行った奴らは良いよなぁ、あの女達を自由に出来るんだからなぁ」

「無駄口を叩くな、声で居場所がバレるだろ」


 油断しきっている方は左の腰に剣の鞘を納めている。体格は大きめで身長も高く、体重も見た目的には重い印象を持つ。武器の形は刀身が少し太く、切ると言うより体重を乗せて叩き割るような使い方をする感じか。

 油断をしていない方は鞘を持っておらず、抜き身の刀身は薄く軽い印象を浮ける。体格は細く身長は高めで動きも素早そう、厄介なのはこっちだ。

 厄介なのは場所もそうだ。今隠れている位置から少なくとも20歩以上は走らなければ届かない距離、不意打ちは難しい。その上子供達は捕まっている都合上、そちらにあの二人のどちらかを向かわせたら、人質を取られて詰みになる。子供達が捕まっている位置はあの二人がいる位置の奥なのもあって、少しでも隙を見せたら人質=詰みまで容易に想像がつく。


 私の立ち位置を変える……いや、動いて見つかった瞬間に詰みになる中、場所を変えるのはリスクが高すぎる。その上、相手は大きな岩に子供達を置いて、それを背に死角をある程度なくしている。仮に動いて反対側まで行っても、今度は足音を立てずに岩の真裏まで陣取って、そこから行動に繋げなければならない。流石にそれは無理がある。


「なら、ここからやるしかない……」


 一発勝負のぶっつけ本番。でも、私がやらなきゃ他には誰もいない。助けを呼んでも時間が掛かるから、それだけ無事である可能性は低くなる。なら、今しか――。


 まずは半分程度の10歩を走る為の時間を作る。地面に落ちていた石ころを4つ程拾い、準備完了。投げ物の技術もアリアさんに教わっている。命中率は高くないが、牽制には充分だ。

 次に、木の根本へ片方の足をかけ、一気に踏み込める足掛かりとして使う。低い体勢で隠れている状態で、初速を出すにはこれしかない。

 ある程度想定している筋書きはあるが、全部が全部上手くいくとは限らない。なので、アドリブにはなるが、使えそうな物へ目星を立てる。

 人質を縛る用のロープ、焚き火をしていたであろう灰と炎、あの二人が持っている剣、捕まっている場所である大岩、それくらいか。そして――、


「よし、行こう」


 この言葉と共に、木の根本を一気に踏み抜く。


「――っ! 何だっ!」

「この速さ――不味いっ!」


 細身の男は子供と言う切り札へ向かい、もう一人の男は慌てているようでまだ動けていない。まずは細身の男への牽制。手に持っていた石ころを二つ一気に投げる。狙いは――。


「おっと、危ねぇ!」


 流石に避けられるが、石を避ける為に数歩犠牲にした。同時に上下を狙われたら、少し避ける為に時間を使う。太めの男も剣を抜き、体勢を整え出した。だけど、そっちにはまだ構っていられない。


「おい! その女を止めろ!」

「分かってる!」


 太めの男は細身の男への直線を遮るように動く。だか、いきなりの事で体勢が整っておらず、一撃避けたら突破できる。


「そこの女! おとなしく――」


 ――相手の攻撃をずらすように一旦脱力し、相手を見えなくなる位置まで前屈みに身体を沈める。相手の攻撃は見えないが、鞘の位置、武器の形、体型や今の体勢から推測するに、この男がここで選択する攻撃はきっと――、


「しろぉ!」


 右手から放たれる上からの振り下ろし――っ!

 脱力で一旦速度を落とした後に、全力で足を前に踏み込み、急加速。狙いは相手の攻撃の支点、右肩――。

 私の両手を相手の右手の外へ置き、私の右肩を相手の右腕は滑らせるように入れる。本来ならこの右腕を取り一撃を入れるのだが、細身の男の反応が早い今は躱すのが目的。なので、そのまま身体も相手の右手側に入れ込み、走り抜ける。


「な――っ!」


 そう言葉を発しながら体勢を崩した太めの男は倒れ込む。だけと、気にしている暇は無い。


「こっちには人質が――」


 子供達へ向かっていた男は、もう子供の近くまで寄っている。残りの石は2個、男への距離はまだ少しある。

 最初の石投げは、不意打ちと投げた物が分からないから、あの男は避ける選択肢を取った。でも、今は石だともうバレているから、投げてもあまり意味は無い。なら――石を脅威だと感じさせれば良い。


「ガキがどうなっても良いのか!」


 まだ辿り着けていない細身の男は、威嚇なのか足を止めさせる為か声を荒らげる。だけど、それには耳を貸さない。両手に片方ずつ石を持ち、走りながら思いっきりぶつける。割れた石は凶器として扱える程度には鋭く、時間を稼げるはず――。そう思い、石を思いっきり投げる。


「――アッハッハッハ、最後の最後に外したなぁ」


 割れた石は拾った物より変な方向へ飛ぶ。飛んだ石は木に当たる音を起こし、男は避ける事もせず人質へ一直線。完全に当てが外れてしまったが、詰みにはまだ早い。

 予め目星を立てていた()()()()()()()、若干遠回りになるのを承知でこちら側へ来たからこそ打てる次の一手――。


 人質をしばる為のロープを取り、割った石の残りをロープの先端付近へ突き刺す。石とロープを結ぶまでの時間は無いが、先端に突き刺した石が重りと化して簡易的な鞭となる。相手を弾くほどの威力は無い、だけど巻きつけさえすれば時間を作る事が可能。扱い方を間違えたら詰みの一発勝負。

 結ぶまでの時間がない為、鞭を持ちながら先端の石を握りしめ、その石を走った勢いに乗せて投げ放つ。


「届けぇ!」


 かなりの勢いで飛ぶ石は、真っ直ぐに飛ぶ。細身の男とは少しずれた位置に向かって。


「外れ――っ!?」


 ――外してしまった。そう思った途端に石が勝手に少し方向を変え、細身の男へ巻き付くように飛んでいく。ほんの少しの()()()()を引っ提げて。


「何だと!」


 身体へと巻きついたロープによって人質へ辿り着けなくなった男を飛び越し、子供達へと辿り着いた。その様子を見ていたであろう鳥は、気まぐれのように岩の裏まで飛んでいく。


「うわああああん、せんせえええええ」

「もう大丈夫、大丈夫だからね……」


 大泣きする子供達を抱きしめ少しの安心感を与えるが、これで勝利って訳じゃない。


「よくもやってくれたな女ぁ!」

「……中々やる人もいるんですね。だが、油断はもうしませんよ?」


 この一連の行動でやっと勝利条件が変わっただけで、ここからが本番だから――

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