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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章11話 『対魔術師用の剣』

 金属音の無い戦闘。お互いの攻撃は空を切るに留まり、放つ風は雪を散らす。


「面倒くさいな、全く」

「なら、避けなきゃ良い」

「死にたくは無いんだよな」


 再度構えなおす。だが、今回は最初と違って……サミュエルから魔力が少し滲み出ている。


「死にたくは無いから、少し強めに行こうか――!」


 瞬間放たれる最初と同じ一撃。同じ箇所、同じ速度……だけど、魔力だけは違う事をほんの少し、見逃してしまった。

 ほんの少しぶれた緑の魔力が私の動きに合わせて、高速で細いトゲを腕から作りだす。同じ躱し方をした私の首を抉るように。


「危な――」

「一撃で済むとでも思ったか?」


 魔力が視えるからこそのブラフ。わざと魔力を揺らして、トゲを生やす地点を消している。首元から鮮血を流しながら、次の対応をするが――


「甘い」


 トゲの映像が頭にチラつき、どうしても避ける動きが大きくなる。近接戦闘において、動作の大きさは――


「――マズっ!」

「甘すぎるねぇ!」


 ――相手が全力の一撃を出す隙へと繋がる。

 腹部への全力の蹴り。軽く浮いた身体は、鈍い音を告げてくの字に折れ曲がり、同時にトゲによって多数の刺し傷が生まれていく。ただ、私の身体を殺しきれない。


「迷いを持ったままで、勝てる相手と思われるなんて……おじさんも舐められてるねぇ」


 その後も……虚を見れば実を受け、実を見れば虚を突かれる。的確で愚弄する相手の戦法は、私の身体を赤く染め上げていった。


「さて、ここからどうするんだ? おじさん、あんまり女の子をいたぶる趣味持って無いんだけど」


 余裕そうな表情で煽るサミュエル。だが、やっぱり常に警戒を怠らない……この人の戦術は、何となく見えてきた。それに、いくつか分かった点もある。

 まず、ダメージは見た目より少ない。どれもこれも同じモーションの同じ攻撃で、そこを起点に虚を作るトゲか、実を突く打撃かに別れる。だけど、トゲは皮膚を裂くだけで中まで切れていない。

 二つ目に、魔力が視えるからこその虚像を作っている点。これはかなり厄介だが、かえってトゲの強度は減っている。事実、対応しきれずモロで食らったトゲは刺し傷を作ったが、虚を突く為の攻撃は刺すまでのダメージを受けていない。


「……まだ、私は死んでない」

「へぇ? そんなに血を流しながらも、立つんだ」


 ただ、致命的な一撃を貰っていないだけで、私の身体でもちょっとずつ削られていってるのは体感している。早い所、ケリを付けないと。


「対魔術師用……その1」

「――ん?」


 踏み込みと同時に的外れの虚空を短剣で切る。


「何処を切ってるお嬢さん?」

「――負ける要因を切ってる!」


 更に3度、()()()()()()()()に向けて剣を振るう。刃も立てず、峰の状態で――。


「頭でもやられて――っ!?」


 ようやく私の意図に気付いたサミュエルは、その場を離れようと後ずさり。だけど、もう遅い。


「我流剣『無空切り』!」


 魔術師は、大気の魔力を集めて魔術を扱う。それなら、初めから魔力の無い空間を作れば、それは隙になる。

 短剣に備わった魔術を吸収出来る魔法陣。

 そして、魔力を集めさえすれば魔術として発動出来るスクロール。

 原理が正しいなら、この短剣に一定以上の魔力を集め切れたら――魔力を吸収出来る魔法陣を作動出来るだけの魔力を集め切れたら、魔術師には無力な空間を作り上げられる。


「チィッ!」


 後ずさりで魔力の無い空間から逃れようとするサミュエル。ここで逃せば水の泡――この技は空間内の魔力を無にするだけで、攻撃に繋げなければ警戒されて終わる初見殺し。


「逃さない!」


 大気の魔力を集めて、淡い青に輝く短剣。右手に握られたそれを、サミュエルへ追い込むように放つ。()()()()()()()()()()


「短い剣で届くわけないだろ!」


 自らの腕を鞭のようにしならせ、脱力のまま放つ速度重視の斬撃。相手は人間、切れたら勝ち。なら、力を込めずに早さを飛ばす。

 遠心力によってほんの少し伸びた斬撃。それは、サミュエルの喉元を――


「ギリギリ、足りなかったねぇ」


 ――掠めて、剣の冷気で襟元が少し凍った。ただ、


「まだ、終わってない!」


 更に1歩踏み込み、追撃へ動く。ここを逃せば好機は潰れる……なら、ここで決めないと。


「丸見えの攻撃を受ける程、甘くないよ!」


 ただ、右から左への斬撃からの追撃。飛んでくる追撃の択は絞られている。切り返しさえ受け止めれば、そのままカウンターで相手を倒せば終わりだ。


 ――そう、相手は思っているはず。


 脱力した右手から左手へ、武器を持ち替える。力を込めればその分、体勢を切り替えに一度力を殺す動作を入れなければならない。でも、最初から力を込めず、ただ肩を振るっただけなら――瞬時に次の動作を作り出せる。


「これで、終わり!」


 左手に持った短剣を私の身体方向に畳み、後ろへ引く。最初の切りで踏み込んだ右足を一瞬踏み抜いた上で、左足を前に。


「嘘だろ――!」


 そのまま身体を右側にねじり、撃ちだすは正面への一閃突き――。

 力を込めすぎた一撃は袋小路の壁を瓦礫に変え、大きな音と衝撃となって周囲に響き渡る。


「何だっ!」

「ヒイィッ!」


 あまりの衝撃で土埃が立ち、それが幸いして私の姿を隠してくれた。視線が爆発の中心へ向かう中、私は瓦礫の壁を蹴り越え、天井まで姿を見られず逃げ切る。サミュエルの安否を確認出来ないまま――



 月明かりと相反して、轟音に目覚めた住人によって少し騒ぎだした頃。その視線の間を潜り抜けて、酒場へと舞い戻る。そこには私の帰りを待っていたのか、レイが1人佇んでいた。


「――おかえり。ルーちゃん」


 私の顔を見て安堵したのか、微笑みながらもこちらへ抱きついてくる。


「ただいま、レイ」


 強く抱きしめ過ぎて少し軋んだ音が聞こえるが、年上の妹を持ったようで、少しも悪い気はしなかった。


「……あんまり多くは言わないけど、あの爆発音って、ルーちゃんがやったの?」

「あー……力を込めすぎちゃって、辺り一帯吹き飛ばしちゃった」

「対処する私の身にもなってよ……」


 呆れられながらも、私の姿を見てあまり強くは言わないレイ。


「……身体は大丈夫なの?」

「皮が裂けたぐらいだから、大丈夫だよ」


 本当は少しダメージを受けて、もしかしたら機能停止まで行っていたかもしれないのは伏せる。余計な心配はさせたくないし。


「そっか。じゃあ、明日も早いから寝ときなさい?」

「……はーい」


 そう母親のように諭され、自室まで戻る。また現場に行こうとしたのを、レイに見透かされたようだ。

 自室の扉を開け、血だらけになった服装を脱いで洗っていく。それにしても……


「『無空切り』なんて、かっこつけ過ぎたかな……」


 名も無い我流の技。剣に頼ったものだから我流剣で、魔力が無になった空間を作る斬撃だから、無空切り……。

 魔物に対しての攻撃で技名が無く気合が入らなかったので、少し考えていたのだが……少し、名が勝ちすぎた技名を付けたと今になって思う。


「本当は技名なんて無くても良いんだけど、人と合わせる際に面倒臭くならないように」


 それに、技名をわざと叫んでブラフとしてただの攻撃も可能。口八丁の戦術だが、それが有効なのはサミュエルから学んだ点だ。敵だったけど。


「でも、やっぱりサミュエルは()()


 連鎖的に思い出す一連の戦闘。思えば、冒険者狩りと同じような攻撃を一切しなかった。隠している可能性もあるが、魔力の色も違った。


「闇属性を持っているかもしれないけど、あの時使ったのは木属性……」


 私に直撃した一蹴も、人を潰せる怪力とは到底思えない。それを魔術で潰したとしても……武器に纏わせないとあの残滓にはならない。そうなると――


「サミュエルは無いと分かったけど……まだ、あの女性が気になる」


 気だるそうな女性。あの人が冒険者狩りなら、まだ可能性として残されている。結局、ティアにしてもこの女性にしても、絞りきれないなら……もう考える意味は無いか。


「明日の廃墟で、多分何かが起こる」


 あそこに何かがあるなら、の話だが――

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