第三章7話 『思惑と不穏』
「――そこっ!」
探索の途中、魔物を倒しながら白色を赤く染めていく。私が倒した血の匂いを辿る魔物がいないお陰か、何不自由なく探索が進んで行った。
「……と言っても、何を探せば良いのかは全く教えられてないんだよねぇ……」
正体不明の存在を探索する依頼。今の所、私の瞳には何も映らない。
「こっちは終わったぞ! ……ってベル、お前何してるんだ?」
「何って……依頼の内容探しですよ?」
「あー例の何を探せば良いのか分からない奴か。一体、何でこんな依頼――」
「それは、ベル嬢に言っても仕方の無い事だ。と言うより、一番苦労しているのは他でもないベル嬢だしな」
僅かな違和感も残さないように周囲を観察しながら、魔物も対処する。それだけ、私の負担が大きくなってはいるが、魔力が視える眼を持つのは私だけだから……やるしかない。
「でもさぁ、本当にそんなのあるのかねぇ?」
「分かりませんよ。でも、依頼があったから――」
「その依頼が嘘だとしたら?」
「……どういう事です?」
「簡単だよ。依頼を出したって言ってる人物が嘘を付いてハメられたって事は考えてないのかい?」
頭の中で最初からあった可能性。考えたくなかったからあえて無視していた現実。でも……あまりに辻褄が合いすぎてしまう。
「でも……依頼を出したのは、レイですよ」
「……レイ嬢を疑ってるのか」
「今酒場にいなかったのも、冒険者狩りなら辻褄が合うだろ? それに、レイの戦闘を見た人間はいないっていう都市伝説も残ってる。何でマスターになれたのかも分からない。疑うのは当然だろ?」
「でも、背負っていた武器ではあんな傷つけられませんよ?」
「擁護したい気持ちは分からないでも無いが、おじさんも今回はミシェル嬢に1票だ。時折レイ嬢は何を考えているのか分からない時がある。それは、何かを隠しているのと同義だと、おじさんは思うぞ」
よく分からない武器、重要な地点で消える、そして……酒場のマスターとして不明な点。全てが冒険者狩りという1つの終着点へ向いている。でも、緑の国でも赤の国でも、マスターが裏切るなんて事は無かった。と言うより、裏切れないと思っていた。そんな事をすれば、国側が黙っちゃいないから……国側……。
「あの! この国の王様ってどういう人なんですか?」
「ガサツで冒険者嫌いな女王様だよ。ってどうしたんだ? いきなり王様って」
ガサツで冒険者嫌いな女王様。国側が事を起こして、レイになすりつけたら……酒場のマスターという不祥事で、酒場を追い込める……?
「事はそんな簡単なものじゃないと思いますけどね、ベルさん?」
「うわぁ! びっくりした……」
「木の上からいきなり出てくるな! 次やったら切るからな」
どうやら、アールの狙撃地点は木の上だったようだ。そして、降りてきたついでに私の思考を読み取ったような言葉を残す。
「ガサツな女王様でも、無意味な事はしませんよ」
「アールは何か知っているんです?」
「さぁ? ただ思った事を言っただけですよ」
そう言って含み笑いをするアール。ただその袖にあった罠用の道具から、ほんの少し魔力が見えたのは見逃せなかった。
「――そうですか」
「じゃあ、私は次の狙撃地点まで先に向かいますね。あぁ、その辺りは罠があるので気を付けて」
そんな事には気付いていないアールは、颯爽と次の場所まで向かう。
「結局疑う奴が増えただけだったな」
「ミシェル嬢が増やしたんだろう。……さて、着いたぞ」
そうこうしている内にたどり着く、探索として絶対に外せない地点。
「ここが、『オーヴェルニュ氷原』」
「あぁ。『ソノラ地方』最大の氷原、オーヴェルニュ氷原」
目の前にはまっさらな砂のような氷。今まで歩いていた地面とは全く異なる感触と、軽く全体が沈みこむ様はまるで砂の中を歩いていくようだ。
「これは――」
「この場所が最大の広さかつ、誰も近寄らない理由だ。何故か溶けない極小の氷がこの場所を埋めていって、結果こんな場所になった。地元の人も寄らない上に、魔物もあまりいない忘れ去られた氷原」
「でも、だから隠し場所にはもってこい、と?」
「そういう事。ただ、1個問題点が――」
その一言を遮るように、風が強くなり地面だった氷が宙を舞う。それは光を反射して、幻想的だが何も見えない空間を作り出す。
「……もう言わなくても分かるな?」
「これの原因は、魔物」
この風には多少だが、魔力が視える。それはつまり、魔物が起こした風。1つの問題点と言われたものは、この環境に順応した魔物の土俵に上がったという事だ。
「話が早くて助かるねぇ。外に狙撃手を置いているのもそれが理由だ。信用は出来ねぇけどな」
同時に、何かの炸裂音が聞こえ――少し風が収まり魔物がその姿を現す。
その姿は、あまり人とは思えない外見。かといって、獣とも思えないようなものだった。足はあるが、あれを足と言うよりヒレだ。私も実物は見た事無いが、多分あれは、
「……魚型の魔物だ。注意しろ――外見に相反してかなり獰猛だ」
その鱗は氷と同じく光を反射し、風と相まって眼を凝らして見なければ分からないほどの擬態能力。そして、獰猛という事は攻撃能力もあり。その上、最初に氷原を見た時は何も見えなかった。つまり、潜る能力も存在しているはずだ。
「ベルは左! 私は右側を叩く!」
「そうなるとジャンは――」
「おじさんは、正面で受け止める」
姿を表した魔物は、再度地面に潜ろうとその身体を捻らせる。そこに合わせて、どこからともなく飛んでくる矢。それは確実に魔物の頭上にぶつかるが、ガリガリと削れる音を立てた上で矢が逸れる。矢の通った跡にはうっすらと傷が残り、それだけ硬い事を伺わせる。
「ベル! 鱗は硬いから、内側に突き刺せ!」
矢に合わせて左右に別れた私とミシェルは、それぞれ構えて戦闘体勢。魔物は身体を揺らして左右にいる私達に向けて何かを起こそうといるが――
「セェイ!」
正面にいたジャンが口元に向けて、その槍を突き刺す。口から吹き出す鮮血と同時に鱗が動き、明らかに正面のジャンに向けて魔力が溜まっていく。
「ベル! 合わせろ!」
足元しか見えないミシェルに踏み込みを合わせ、ジャンと同じように内側へダメージを起こすよう、一突き。私が自動人形だとまだバレてない以上……力加減は慎重に。本当なら、多分この鱗ごと貫けるが、繊細にミシェルが踏み込んでいた箇所、顔の側面にある内側へ繋がる切り傷のような器官へと。
斬撃に屈した魔物は、大量の血を流しながら動きを止める。これで一体なのは中々に骨が折れそうだ。
「よし、なんとか潜る前に倒せたな」
「潜るとどうなるんですか?」
「何かと面倒くさくなる。あの鱗を向けた攻撃は、光を通す氷の中でも発動出来るっていったら、分かりやすいだろ?」
なるほど、風で視界を奪っている間に地面から貫くのが、あの魚が順応した終着点か。
「さて、ここら辺の魔物はあの魚しかいない」
「――え?」
「魚が獰猛過ぎるんだ。食うために殺すんじゃなくて、陣地に入った奴らを軒並み殺す。魔物も関係なしで、な?」
「だから逆に楽なんだがな。魚は群れずに1匹、そしてテリトリーに入った物に喧嘩を売る。逆を言えば、それ以外無い上に1匹倒せれば安全って事だ。分かったかいベル嬢?」
「遠距離狙撃役は大変なんですけどね?」
遠くから巨大なクロスボウを運びながら、少し呆れつつもアールが説明を続ける。
「普段は潜っている魔物の近くに爆薬を付けた矢を刺して、地面から無理やり引き上げるんです。風の影響を受けないほど遠くから、ね?」
手に持っていた爆薬らしき道具を見せびらかしながら、再度矢を構えだすアール。
「この氷原はひたすらに広くて、射程より遠くになるので……これ以降は後ろからついて行きますね」
「後ろから撃ったら殺すからな!」
「射線に入らなければ撃ちませんよ」
「あぁ!?」
3人で動いていた時より、アールが加わった4人での行動……一応腕は立つが、問題が増えてしまった。何事も起こらなければ良いんだけど――




