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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章7話 『バラバラ』

 黒鉄の手甲が、鮮血の赤色を無くした頃。外は日が再度登り始め、朝のささやかな日差しが窓から覗かせる。来て欲しくなかった今日という日を冷酷に告げられるような、嫌な光だった。


「……行こう」


 様々な考えが重なるかもしれない今日。嫌な予感も肌を逆撫でするが、やるしかない。そう心に決めて、部屋の扉を開ける。その扉はほんの少しだけ、重く感じた。



「……あれ?」


 意を決して酒場へ向かうが、そこにはレイの姿は無く3人の冒険者が待っていただけだった。


「栗色の短髪に青い瞳……お嬢さんが、ベル=ウェンライト?」

「そうですけど、貴方達は……?」

「マスターのレイから案内を頼まれた、冒険者だ」


 そう答える、3人の中心にいた男。この言動と後ろの2人が任せている感じからすると……この人が指示を取っているパーティのリーダーか。


「今日は、よろしくお願いします」

「こちらこそ。契約上この任務だけのパーティになるが、よろしく」


 リーダーの男は大人な対応かつ気さくに喋る。こういう完全に組んだ状態での行動はした事が無いので、仕切れる人がいれば心強い。


「あの、ずっと1人だったので慣れてないんですけど、何をすれば良いんですか?」

「そんな硬く考えなくて良い。こっちはこっちで好きにやるし、ベル嬢も好きに動いていい」

「分かりました、えーっと……」

「自己紹介が済んで無かったな。おじさんは「ジャン=オーグ」だ。変に畏まらずにジャンで良い」


 少し老けているような見た目のジャンは、その少し太めの槍を背中に背負い直し、席に残されていた兜の手入れをし始める。

 その姿はかなり重装甲で、一応雪がつかないように上からコートを羽織っているが、それでも鎧の重さが見て取れる程だ。それに合わせるように身長も高く、白い髭と白髪が少し生えた短めの髪には似合わない体格。槍もよく見れば、鉄製で出来ている柄が傷だらけで……総じて歴戦の戦士と思わせる風貌。


「そして俺は『ミシェル=グレイ』だ。よろしくな」


 続いて、横にいたナイフ使いの……男か? 性別が分かり辛いような人が、勢いよく挨拶を交わす。1つに纏めた黒い髪を靡かせて。


「えーっと、よろしくお願いします。ミシェル……くん?」

「……良く言われるが、一応俺は女だし……くん付けされる歳でもねぇよ」


 ……ここにも、見た目と中身の詐称を起こした女性がいた。明らかに私と同じような身長だが、この言い方から察するに……性格は違えどレイと同じような中身だ。

 だが、身軽そうな見た目と腰に付けた大型のナイフ。ジャンの方は明らかな重装甲だったが、こちらは明らかな軽装甲。鉄製の防具すら付けていないその姿に、若干の心配を寄せる。でも、残り2人が何も指摘しない所を見ると、この装備で問題ないらしい。


「最後に、私が『アール=ファーニバル』です。よろしくお願いしますね、ベルさん」


 少し遠くから最後の1人である男の挨拶。身長よりも大きなクロスボウを担いだ、私と同じ色の目を持つ人だ。落ち着いているような雰囲気だが、それとなく周囲を警戒しているような……そんな印象。


「あの、レイはどうしたんですか?」

「あぁ、あのマスターは別件の用事が出来たとか何とかで何処かへ向かった。それがどうかしたのか?」

「何処か……」


 考えたくない嫌な予感が過ぎるが、その気持ちを飲み込む。


「それで、戦闘時はどうする? 俺は突っ込むから良いけど」

「おじさんはそんなに素早く動けないんだが……最大限アシストに回ろう」

「私は見ての通り後衛職なので、後ろから矢でサポートしましょう」


 一応各々のポジションを確認。と言っても、お互いが得意な場所へ走るだけなのだが。


「……俺らを誤射したら、まずてめぇからぶっ殺すからな、『味方殺し』」


 ただ、ミシェルはアールにかなりの敵意を向けている。味方殺しという物騒な二つ名を言いながら。


「撃ちませんよ? ミシェルさんが私を殺そうとしない限りは」

「あぁ? 依頼の前に1人脱落者を作ってやろうか?」

「双方落ち着け。こんな所で喧嘩してる場合じゃない」

「……クソッ!」


 それをジャンが制し、アールはキレながらも大人しく従う。


「あの、『味方殺し』って一体……?」

「そこのクロスボウ野郎の二つ名だ。『味方殺しの弓使い』……名前の通り、組んでいた冒険者を殺したんだよ、そいつは!」

「単なる噂話だろ? そこまで突っかかる事じゃない。アール嬢、少しピリピリしすぎじゃないか?」

「ふざけんな。ジャンだって分かってるだろ? 今冒険者が疑われている理由はこいつのせいだって――」

「冒険者狩りは別の人……だと、思います」


 味方殺しという汚名な二つ名のせいで、冒険者が敵視される状態が作られた。でも、あの現場の傷の通りなら、その手に持ったクロスボウじゃ付けられない類の物だ。だから、違う……とは思いたいが、この人が別の装備なんかもっている可能性もあるので、強くは言えない。


「てめぇもこいつの肩を持つのか」

「肩を持つつもりはありません。ただ、冒険者狩りがこの人だとすると、現場の傷の説明がつきません」

「……チッ!」


 正論に対して大きな舌打ちをしながら、酒場を出ていくミシェル。


「……アール坊もベル嬢も気にしないでくれ。おじさんと違って、ミシェル嬢はこの国の出身だ。知り合いが殺されて、色々と焦ってる。だから、疑わしい人間に食ってかかってるんだ」

「依頼に支障は――」

「ああ見えても冒険者だ。頭を冷やす為に外で待っている」

「……2人は組んで長いんですか?」

「長いわけじゃない。同じ冒険者としてたまに遭遇して、その時だけ組んでいるんだ。普段はおじさんもミシェル嬢も1人でやっている」


 ミシェルの焦る理由は、知り合いである仲間が殺されたから。納得はするが、そんな精神状態で大丈夫なのだろうか。


「……私も、先にいってますね。遠距離要員なので、色々準備もあります」


 そう言って、アールも酒場を出ていく。ミシェルにはジャンという相方が存在しているが、アールの素性は全くの不明。一応、味方だとは思うが……これもまた、気を張らないといけない箇所か。


「おじさんも、準備は終わった。ベル嬢は大丈夫か?」

「大丈夫ですけど、……こんなバラバラで大丈夫なんですかね」


 仲間を失い焦るミシェルに、味方殺しのアール。そして、信頼は出来そうだが……一切この人物も素性を語らない。ミシェルとアールはまだ分かりやすい部類だが、もし冒険者狩りと想定した場合、一番厄介になるのはジャンだ。

 疑いという一雫は、波紋を呼ぶように周囲に疑心感を植えつけて行く。多分、私も普段なら疑わない人物なのだが、こうなると誰しもが怪しく見えてしまう。


「腐っても冒険者だ。1人で何とか出来る力ぐらいはそれぞれ持ってるはずだ」

「……じゃあ、探索に行きましょう」


 親子程ある身長差を作りながらも、対等な立場として酒場を出る。外へ出ると、腕を組んだミシェルが、少しイライラしながらも待っていた。


「遅い」

「すまん。会話が弾んでな」

「それで、あの味方殺しは?」

「一足先に狙撃位置についた。位置は多分知らせるはずだ」


 その言葉と同時に、遠くから少し光の反射。よく見ると、準備を終えたアールが合図として太陽の光で位置をしらせていた。


「それじゃ、行こう」

「足を引っ張るなよ、ベル」


 先行と探索を行うアールとは違い3人旅。腕は確かだと思うが、それぞれ怪しむ箇所はある存在。そして、多分性格に難あり。前途多難だが、本当に大丈夫なのだろうか。先が思いやられる中、白色の地面を踏みしめて外へ出る。長い一日が始まりそうだ――。

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