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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第三章 氷麗の国
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第三章4話 『現場検証』

 白い足場が私型の靴跡を残し、その跡は誰も踏み込んでいない領域から飛び回る私を追うように埋まって行く。ここは屋根の上、人目に付かない場所から現場を確認する為に私は走る。いきなり見知らぬ人間がいたら疑われやすい、だから屋上。幸いこの国は法則性で建てられているから、メインとなる道を飛び越えられる脚力があれば、動きやすい。


「――っと、あれは」


 現場に向かう途中、不意に見つけた人の列。そしてその奥からほんの少しだけ見えた、栗色の長い髪を持つ女性の影。どうやら、道具屋を経営しているらしいが……。にしても、男性客が多い。良く見るとかなり大人な女性で、男が通う理由も少し分かる。それに、透き通る紫の瞳は蠱惑的な印象を持ち……あれは、人をたぶらかす類の――


「え――」


 偶然かもしれない。でも……飛び越えて現場に向かうその一瞬、その一瞬だけなのに目が合った。明確に、私の動きに合わせて瞳が動いた。私を追う為に……。


「でも、今は……現場だ」


 あの女性に興味を引かれるが、流石に今は現場が先だ。屋上を伝い先へ進む――でも、あの人……一体誰なんだろうか。



「よし、誰もいないっと」


 現場の周りには人はおらず、特に支障も無く近くまで行けた。1つ目の現場は昨日起こった殺人。死因は何か大きなもので潰された事による死亡。周囲には壊された残骸あり。


「とりあえず、残滓は黒色……」


 ジェフと同じ色をした魔力の残滓。ほんの少しの量しか無いが、黒い残滓は攻撃の衝撃に沿う形で広がっている。


「魔術で殺したってより……武器に魔力を纏わせて殴ったみたいだ」


 残滓は魔術を扱えば出るもので纏わせる程度では出ないものだが、それだと紋様――魔法陣を作った地点を中心に残滓が残る。それをこの現場に適用すると、魔法陣をそのままぶつけている状態になる。流石に魔力そのままぶつけても意味は無いし、人を動かさないように固定しているなら他にも手掛かりが残る。


「周囲にロープの切れ端も無いし、燃やしても焦げが残る。それすら無いし……やっぱり殴った線が濃厚かな」


 そうなると、人を潰せるだけの槌が必要になるが。


「でも、そうなるとこんな変な形にはならない」


 球体で潰されたのなら球体状に抉れるし、ハンマーのような物ならその形に抉れるはず。だけど、この地面の傷的には……凄い平たいもので潰されたような攻撃。地面はあまり抉れず、ギリギリで止めた衝撃で少し砕けた程度。


「……武器の想定が付かない。巨大な板で潰した……? でも、そんな板はどこにも」


 重い物を直前で止められる怪力。最低でも、それじゃないと説明が付かない傷跡。想定できない武器に戸惑うが、残滓以外の痕跡も無い。


「次の場所を見ない事には始まらないか」


 これ以上、ここから読み解ける情報が無い。だから、次の現場へ赴く。来た道を戻りながら。



「あれは……サミュエル?」


 飛び上がる屋根伝い。その途中、少し道から外れた場所にサミュエルが誰かと話していた。でも――


「おかしいな、この距離なら聞こえるはずなのに」


 赤の国の2週間で色々と試した距離、大体20メートルぐらいなら聞こえる耳。そして、今私はサミュエルの話している場所の真上。20メートルあるとは到底思えないが、それでも聞こえない。


「耳がおかしくな――」


 良く目を凝らして見ると、薄い魔力が規則性を取ってサミュエルの周囲を覆っている。多分、可能性としてはこれで音を遮っているのか。


「なら、ここにいても意味無い」


 聞こえないなら、居ても何も起こらない。一応あの人は容疑者として考えてはいるが、それでも今はまだ見逃すしかないから、次の現場へ――。


「――あれ?」


 ほんの少し見えた、気だるそうな女性に引っかかりを覚えて。



「ここが、2つ目」


 場所は袋小路にある、一種の路地裏のような場所。ここも起こったのは昨日だが、あの1つ目の殺人より後の物だ。魔力の残滓もより良く残っている。


「ここも、そこまで痕跡が無い……」


 切断した際に抉れた地面。そしてそこから広がる大量の赤色。それしか、判断材料が無い……。


「魔力の残滓は……あれ? 1つ目と同じ、抉れた箇所中心に」


 ただ、この場所も同じように魔力が残っていた。でも、そうなると更に頭が混乱する。槌のように潰せた上で人を真っ二つに出来る武器……? そんな物は、何かあるのか。


「うーん、ますます分からなくなった」


 犯人も凶器も不明となると人を見て判断するしかないが、今それをやると私への疑いがかなり深まってしまう。最悪、国と酒場が決裂しかねない。


「あれー? お嬢ちゃんどうしたの?」

「……サミュエルさん」


 気配も無く後ろから唐突に聞こえる男の声。さっきより遠くなのに拾う耳、それにある種の確信を持ちつつ振り返れば、馬車の主であるサミュエルが1人で立っていた。


「こんな所で一人だと、疑われちゃうよ?」

「そうかも、しれませんね」


 足音には、さっきと同じ規則性のある魔力が膜を覆うように残っている。雪を踏む足音が無いのはそれが理由か。


「サミュエルさんも、どうしてここに?」

「そりゃ、1人でこんな場所に()()()()()()お嬢さんを見たら――」

「1人でいる女性を狙うとか……最低ですね」

「おじさんそんな事するように見える?」

「すごく見えます」


 軽い談笑のような話題。その割には、私も目の前の男も最大限の警戒をしている。


「それで、何でこんな所に?」

「観光のように思えます?」

「うーん、こんな殺風景な所が好きなら?」


 言葉とは裏腹に、相手に意識を向けながら袋小路からすれ違うように歩く。今、ここから抜けださないと、目撃者が居ないこの場所は危険すぎる。


「――気を付けなよ? あんたの敵は、そんな簡単には捕まらないぞ?」


 ほんの少し、耳元で囁かれる警告。何故、それを私に言うのか。何故、聞こえないように小声だったのか。何故、音を遮断する膜を一瞬張ったのか。何故、私を信用しているのか。まだ謎が多い私をよそに、サミュエルは一瞬の間に消えていた。今まであった出来事が夢かのように。


「あの人は、一体……ん?」


 私が路地裏から出た後、入れ違うように気だるそうな女性が走って中に入っていく。


「……今は、まだ踏み込めないかな」


 多分、この先に何かしらの真実が隠されているのは私の頭が伝えているが、同時にそれは何処かと修復できない亀裂が入るような、そんな嫌な感覚を覚え踏み止まる。本来なら勘には頼りたく無いが、今回だけは嫌な空気が私を押し留めているようだった。

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