第三章2話 『子供のマスター』
サミュエルの行った通りの道を進むと、露骨に固められたであろう宿屋の群れとその入り口が顔を覗かせていた。ただ1つに纏められたのを考慮しているのか、外装や設備はかなりしっかりしており、宿の中に酒場があるみたいだ。
「あれ? 見ない冒険者がいる……」
その入り口で手続きを済ませていると、内臓されていた酒場の奥から私と同じぐらいの身長を持つ人が、私に近づいてくる。その背中に体格とは見合わない巨大な装備を背負いながら。
「夜遅くにどうしたの? ここじゃあまり見ないような顔だけど」
「旅の途中で寄ったんです」
「へぇーそうなんだ。……怪しい感じはしない!」
私と同じ身長の少女は私の細部に顔を向け、手の先から足の先までじっくりとその鮮やかな緑の瞳で見つめ回す。別に外見だけで判断される物じゃないだろうに……。
「そんなに見て分かる物なんです?」
「……どうなんだろう」
「それ私に聞きます?」
純粋無垢そうな顔でこちらに聞いてくるが、怪しい対象に直接聞くのは……何なのかこの人。
「え? だって、怪しい人じゃない?」
「怪しいのは分かりますけど、本人に怪しいです? って聞くのは……」
「ダメだった?」
「いや、ダメとかではなく……」
あまりに怪しまない言動と動き。良く言えば天真爛漫のような、悪く言えば子供っぽいような、そんな人だ。
「そもそも貴方は誰なんです?」
「私? 私は『レイ=アールストレーム』。この酒場のマスターだよ!」
白いコートを靡かせながら自慢げに誇る少女。こんな子がマスター……? とても、戦えるようには思えないが、それでも周りは従っている。一定の支持はある人みたいだ。
「そういう貴方の名前は?」
「『ベル=ウェンライト』です」
「ベル=ウェンライト……ベル……ルーちゃん!」
「えーっと、はい?」
「貴方のあだ名! ルーちゃんって呼ぶね!」
勝手に付けられたあだ名。別に呼び方を気にはしないが――
「……ルーちゃんだと、ルールーさんと被らないです?」
「ルールーちゃんはルールーちゃんだよ。一応私、ルールーちゃんより年上だからね!」
「……え?」
衝撃の事実。私もルールーさんの歳は知らないけど、少なくとも成人は絶対している。つまり目の前の少女も、少なくとも成人している事になる。でも見た目的にはカルラと同じ、私より年下のように見えてしまう。話し方も子供と思えば相応と思ったが、これで大人……色々と、この酒場は大変そうだ。
「何そんなに考えてるの?」
「あー……もう夜中ですし、明日の朝にしません?」
「そうだね。じゃあまた明日ねルーちゃん」
流石に今考えが纏まってない時点で、マスターと話すのは不味い。適当な理由を付けて一旦頭と荷物を整理する為に、受付から取った鍵で自分の部屋へ足を運ぶ。
部屋に付くと、豪勢なベッドときちんとした設備。食事もこの宿屋と一体化しており、外見と一纏めにされた宿屋で少し偏見を抱いていたが、住めば都になりそうだ。
柔らかそうな寝具に向けて、軽く体重を預けながら顔を埋める。あったかな感触と包み込まれる感覚に身をゆだねながら、1日にあった全てを一度整理する。
「……輪をかけて変人が多い」
いきなり口説いてきた金髪の男、サミュエル。年齢と体格がまるで釣り合わない少女、レイ。サミュエルはどうにも胡散臭さが残り、レイは……何であれで酒場のマスターが務まるのかが分からない。どちらも理由が不明で、その上に謎の冒険者狩り。
「既に情報が渋滞してる……これは、骨が折れそう」
目的は、魔法使いと魔術師が多数存在する街『サバード』。ただ、サミュエルが言ってる説明的には、『ツァリーヌ地方』辺りにあるのが妥当な線かな。でも、意味深な含みも入れると……。
「アブドゥーグも、可能性としてある」
酒場と魔法使いは敵対しているのはルールーさんから聞いた。それは同時に、酒場で情報を集められない事も意味する。前なら普通に情報をくれそうだが、今は冒険者狩りが起こっている最中、この状態で無用心な事を言えば確実に良い関係を作れなくなる。酒場のマスターであるレイの態度から察するに、今はかなり疑心暗鬼の状態。
「……サミュエルも、怪しい」
冒険者狩りとして、サミュエルが本人という可能性も存在するが……私を襲わないのは何故だ。それに、嘘の名前を付かないのもおかしい。
「何と言うか、障害が多そうだ」
サバードへ向かうにしても、首都を離れないといけない。それは、冒険者狩りが狙うには絶好の存在。まずは、どう向かうか……。
「レイの方も……何か隠している」
よくよく全部を考え直してみたが、身長と言動に騙されてるだけで巨大な武器は不釣合い。それに、何で私に向かったかの理由も怪しいからという短的な理由。でも、その割にはすぐに離した。検問という場所があるはずなのに、何で私に目が行ったのか。考えて見れば、少しおかしい。
「それにあの人、演技をしている」
最初に話し掛けてきた際と、私をじっくり見た後……雰囲気が少し違う。何となくでしか確証は無いし、演技が下手な私が言えたものじゃないが……引っかかる。
「後は、謎の冒険者狩りの存在……かぁ」
全くの正体不明で、目的も不明。ただ、冒険者を多数殺せる実力者なら、1つ心当たりがある。
「――ジェフと同じ、眷属」
ジェフと同じ時間で別の戦闘は、流石にあの身体でも無理。となると、他の眷属――それが一番有力だ。あの研究資料も、眷属は数人いる示唆が書いてあった。まぁ、あの化け物が複数人とはあまり考えたく無いものだが……。
「絶対襲ってくるよなぁ。ジェフからの情報を貰ってたなら」
もし、あの液体人間と謎の存在が合流しているなら、私の事は確実に伝わっている。ジェフでいうあの自爆した奴らのように、また変な兵を向けられるかもしれない。その上私は冒険者だ――相手からすると絶好の餌。
「……あーもう! 面倒臭い!」
考えれば考えるほど出てくる障害に嫌気を刺しながら、柔らかなベッドへ軽く八つ当たり。
「とりあえず、出た所勝負でやるしかない、かぁ」
あまりしたく無い、無策の特攻。でも情報が無い以上、愚直に詰めるしかない。1択しか無い選択肢に頭を悩ませながら目を瞑った身体は、その意識を落として行く。何度も思うが、この国は色々と大変そうだ――




