第二章27話 『新装備と新しい国』
見慣れた天井、既に慣れた日差しと金属音。窓からの光と、この暑さでまた目が覚める。街はいつものように熱で溢れ、つい二週間前の事件すら忘れたように戻っている。
「まぁ、でも――」
建物まで、全て忘れている訳ではない。私が使っていた宿屋は比較的残っていたが、魔物の発生源辺りは……全て瓦礫と化していた。
「さて、と……今日も行こう」
軽く背伸びをしつつ、宿屋を出る。朝の支度は、しなくてもいい。ここを使っているのは私だけになったから。
「遅かったな、ベル=ウェンライト」
いつものように酒場へ行くと、包帯でグルグル巻きにされたアシュレイが立っていた。
「アシュレイさん……もう大丈夫なんです?」
「あぁ。まだ、全快とまでは言えないが、顔を出せるまでにはなった」
そう言いながら、軽く腕を回すアシュレイ。だけど、アシュレイは魔術の使い過ぎで思った以上にダメージが大きかった。無茶していないといいけど。
「本当、実は私より大怪我してたなんて、笑えねぇぞアシュレイ!」
「死の淵を彷徨っていたセレスティア=ズィルよりマシだ!」
後ろから既に全快していたセレンが、アシュレイを煽る。セレンは毒以外のダメージが無く、峠を越えてから凄い勢いで回復していったのもあって、今では復興を手伝う1人になっている。
「全く、良い具合に騒いでるな御三方」
「私騒ぎに参加した覚えないけど……」
「一緒のように見えたが?」
大きな荷物を抱えて顔を出すオーバンに、軽く蹴りを入れる。あの騒いでる2人組と少し一緒にされたくはない。
「いった! お前の蹴りは少し洒落にならないんだよ!」
「うっさい、身体頑丈でしょ?」
「全く、装備を持ってきてやったのに……」
「あらオーバン? 服が汚れてるわよ?」
「……変わり身が早いなお前」
他愛無い世間話をしながらも、オーバンは完成した装備を一つ一つ取り出していく。
「まずは手甲だが、お前用にいくつか機能を付けた」
「機能? 私的には頑丈にしてくれるだけでも良かったんだけど」
「馬鹿いうな、そんな単純なだけなら俺の名が廃る。機能は3つ付いてる。どれもちゃんと作ってあるから安心しろ」
手甲を少しいじって私への最終調整をしながら、オーバンは説明を続ける。
「1つ目は、魔術に対する物だ。お前は多分、今後も魔法使いや魔術師と対面するだろうから、その為の機能。魔術を掴めるようになる」
「掴める……? どういう事?」
「魔力に干渉出来る魔法陣を、手甲に刻んでいる。ベル自身に魔力が無いから、普通は起動しないが……相手の魔術を受け止めると、魔力が流れ込んで魔術が起動する仕組みだ。それによって、魔術に干渉出来るようになる。さっきは例を挙げて掴めるって言ったが、他にも色々応用が利くベルに合う機能だ」
確かに、今までは魔術に対して私は突っ込むしか出来なかったが、これによって対応策が増えるなら……全然使えるな。それに、近接戦で魔力の視える眼と合わせれば、発動前の魔術にも干渉が効きそうだ。
「次に、左腕側に付いた二つ目の機能だ。ベル、これを付けて手首を手前に畳んでみてくれ」
言われるがままに左腕に手甲を付け、手首を手前に引く。すると、短剣とは違う剣が手の甲を伝って表に出てくる。それは片側――身体の外側にのみ刃の付いた直剣で、叩くと言うより切るに特化した薄刃の剣だ。反面、内側の峰部分には受ける為のへこみのような部分が何箇所かあり、手甲と同じく紋様も刻まれている。
「――これは」
「隠し玉の1つって奴だな。ベルの場合、常に右手で剣を振るう。だから、ベルの左は警戒しない。だからこそ、この剣の一撃が強みになるんだ」
「1発勝負って事?」
「加えて、その剣も後で説明するが……短剣と同じく、魔術を切れる機能が付いている。詳しくはこっちを短剣で説明するから飛ばす。大事なのは、この窪みだ」
「……これで、相手の攻撃を受け止めろと?」
「そういう事だ。そこを支点に相手を動かせるのもあって、組む際も使えるだろ?」
魔術を切る機能は少しやりすぎかと思ったが、2刀で攻める事は少し考えていた。
「なるほど、それで最後は?」
「今度は右手の手甲だ。これを展開すると――」
右手側の手甲を少し弄った途端に、小さな盾が展開される。薄めの盾は全身を守るものではなく、どちらかと言えば弾く為の盾。それに――
「何この盾。周囲に少し窪みが付いてるのは分かるけど、ここまで尖らせる必要ある?」
「そりゃ、遠距離攻撃用でもあるからな」
「――へ?」
盾の部分から止め具である蓋のような部分を外すと、頑丈な鉄の糸を付けて分離する。これは、投げればかなりの威力が出そうだ。
「これを投げれば、お前ならかなりの威力を出せる飛び道具。当然、魔法陣も刻んでいるが、こっちの場合は少し違うものを付けている」
「違うもの? 魔術に干渉出来るものじゃ?」
「いや、干渉出来るのは出来るんだが……それは、魔術を吸収出来る。威力そのままに1度だけ、貯め込める。そして、ここを押すと――」
そう言って、盾が元々あった場所にあるボタンのような物を押すと、盾の紋様が少し変わって伸びた。
「まぁ今回は魔術を貯めてないから、ただ飛び出ただけなんだが……魔術を吸収する為の魔法陣が変わり、今度は放出する。この窪みから四方八方に吸収した属性を飛ばしてな」
「うわぁ……味方巻き込みそう……」
「ベルなら、巻き込まずに戦えるだろ?」
「私を高く評価してくれるのは嬉しいけど、流石に難しい」
だけど、使いようによっては色々と出来る。と言うより、今までの装備が魔術を度外視していただけなのだが。
「ともかく、これで手甲は終わりだ。脛当ては……正直機能は付けていない。理由は簡単、変に機能を付けすぎると、戦い方が雑になるから」
「そっちの方が嬉しい。扱い切れないと重量がかさむだけになる」
「まぁ1個だけ付けているが、補助機能だ。空気を蹴る際に少し移動姿勢を取りやすくなる。それくらいは付けた」
そう言いながら、足も装着していくが……正直そこが問題じゃない。目の前に見える鎧……それが――
「……防具を作ってくれとは言ったけど、少し……肌が見えすぎじゃない?」
「これでも、削らずに重くなっている。頑丈な装備となると、重さがネックだからな」
「あー……そういう事ね」
頑丈な布地は、盾に付いていた頑丈な糸と同じ材質で、身体を包んでいる。その上から鎧をいくつか付けているが、それでも最低限。そこから、軽量化の為に布地を少し切られ、腹部が網目状になっている。
「にしても……少し、趣味が――」
「入ってるわけないだろ馬鹿」
「まぁボロボロになるし、これくらいでいいかな」
「だと思ったよ。最後に短剣だ」
鞘から取り出された短剣は少し紫掛かった金属で出来ており、それは妖しく紋様と共に輝く。そして、見ただけで分かる鋭さ。手に持った感覚は重く、結構な重量感。短剣ながらその重さは威力を出せる事の裏返しだ。
「これも、魔術を切れるが……盾の方でも説明したようにこっちは魔術を吸収出来る」
「でも、取りこんだ後は?」
「同時に出力用の魔法陣も入れている。だから、切った魔術の属性をそのまま一定時間使えると言った感じだ」
「……了解。でも、あの人は?」
「あの変人は帰って来てない……どうする?」
あの時から2週間。装備も完成したが……ソフィ=アルダンは来なかった。それなら――
「……『ボルダラック連邦』へ行く」
「ん? ベル、あんた青の国に行くの?」
装備の説明も終わった所で、避難していた子供と遊ばせていたセレンがこちらにやってくる。
「うん。私には、目的がある。セレンは、来る?」
「私は……行けないかな。これでも、私はこの国の人間なんだ。故郷がどうとかって感情はある」
「……そっか。じゃあ、お別れだね」
「横から失礼するが、ベル=ウェンライトよ。青の国に赴くなら、色々と警戒しておけ。あそこはこことは逆の国だ」
加えて、アシュレイもこちらへ顔を出し、話に入ってくる。
「逆ってどういう事?」
「……温度もそうだが、気質も逆だ。あそこは寒いし、思った以上に人へ心を開かない」
「それくらいなら大丈夫だけど」
「後は……あそこは今、結構面倒臭い事になっていたな。確か、とんでもない人数が死んでる」
今から行く所への警戒心を持つように言われる。でも、とんでもない人数が死ぬ事って……ジェフはここにいたから、他の何かがあるのか……?
「どういう事? 人がそんなに死ぬなら冒険者が――」
「その冒険者が襲われているんだ。気をつけろ」
「……分かった。話はそれだけ?」
「自分からは、それだけだ」
アシュレイは、今青の国で起こっている事柄を説明した後に、酒場の奥へ戻っていく。
「じゃあ、行くね」
「ベル! また、ね」
「うん。セレン、また会おう」
馬車に乗る直前、セレンに抱きしめられながら、別れ。若干きつく抱きしめすぎて私が苦しいのは、何と言うか……セレンらしい――。
別れを遂げた後に、馬車へ乗りこんで次の国へ。今度は、『ボルダラック連邦』の『サバード』へ行く為に。




