第二章25話 『答え』
闇夜に輝く松明の光。それは、崩れる遺跡から抜け出した私へ向けて照らされる。既に人も寝静まり静かな街中、仮面を付けた人達が崩された瓦礫の前に立っていた。
「お、お前っ! 何者だ!」
「……貴方達もジェフの仲間?」
仮面の人達は、私の姿を見て最大限の警戒。まぁいきなり遺跡から黒焦げの女が出てきたら、誰だって警戒するか。
「待て! 待ってくれ!」
だが仮面の男の1人が、私との間に入って止める。この野太い声と、後頭部に見える特徴的な紋様は。
「オーバン……」
「やっぱり、ベルなんだな」
私の声でオーバンも確信に変わったようで、本格的に仮面の人達を止め始める。
「なんだこいつは!? ジェフの仲間じゃ――」
「待ってくれ、こいつは俺の知り合いだ。俺が話す」
「……分かった。今回はお前の顔を立ててやる。でも、怪しければ」
「あぁ。命令通り、怪しければ俺が殺す」
私に聞こえないよう小言で会話をするが、私の耳には入ってくる。この会話から見ると、この仮面の人達も、ジェフを殺しに来た人達のようだ。
会話も終わり仮面は散り散りとなって、残されたのは私とオーバンだけ。
「……中であった事、正直に話してくれるか?」
「えぇ。でも、私も貴方に聞きたい事がある」
「分かった。俺の家にある工房は音が飛ばないようにしてある。そこで話そう」
そう言って私にコートを被せる。そこまでひどい外見なのかと思い私の身体を良く見ると、再生した皮膚が露出し、隠すはずの防具はボロボロだった事もあって、色々と見えてしまっていた。
「えーっと、見えてた?」
「気付いて無かったのか……」
「全く気付いてなかった……。まぁ、良いか」
「良いのか……」
別に見られて減るもんじゃない。と言うより、身体の制限が無くなって以降、思考が人から離れていってる気がする。
そう心で思いながら、人が寝静まる道を2人で歩いていく。魔物の襲撃によって残された建物からは寝息が微かに聞こえ、今だけは金属を叩く赤色は静まっていた。
「それで? あそこで何があった?」
オーバンの地下工房。そこには魔術本と特殊な武器素材の痕跡が多数存在し、見ただけでルールーさんの装備等をここで作っていたと認識出来てしまう。だからこそ、この場所が隠されているのだが。
「……ジェフの襲撃は知ってる?」
「あぁ。俺も最初はアシュレイと共にいた」
そして始まる認識のすり合わせ。お互いの情報を交換し、誰がどこまで知っていたのか――1つの探り合い。私もこの人もまだ、目の前の人物を信用していない。どこまで言っても大丈夫なのか、これも戦いだ。
「そう。それで、アシュレイがこちらに来たのは、この街にあった装置を全て止められたから?」
「あぁ。全ての装置を止めた後も、全部アシュレイが指揮していた。まるで、先に誰かがいたかのように的確だったよ」
「でも、あそこにいたのはアシュレイ1人だった」
「それは……白い糸に行動を阻まれたからだ」
白い糸。私達の知らない場所で、何かが起こっていた……?
「その原因は何だったの?」
「さぁな。でも、あまりに都合が良すぎた。アシュレイをあの場から1人だけ抜け出せるように、動かされたって言った方が良いか」
「……ジェフ達にそんな糸を出せる人はいなかった」
「そうか。なら――」
「ジェフ達は、ね? 1人だけ心当たりがある」
白い糸という単語を頭の中の情報と照らし合わせ、浮かぶ1つの可能性。
「『カルラ=グラシア』その人名に覚えはある?」
「知らないな。そいつが何の目的で俺達を止めた?」
「目的が貴方達、と言うより私。ジェフ側にも酒場側にも属さない目的不明の人間……でも、私に対して何かしらの行動を起こしていた。だから、今回も私に対する何かをする為に邪魔な貴方達を止めた。今分かる範囲だと、これくらい」
カルラは過去に同じような事を緑の国で起こした。それに、赤の国へ渡った事も聞いた。今この国で、糸による妨害が出来る人物は、今の所カルラしか思いつかない。
「目的は、不明か……厄介だな」
「私に言われても困る」
カルラ自身も目的があって赤の国へ赴いているはずだから……ジェフ達と繋がっていた可能性もある。そもそも、アシュレイだけをこちらに寄越す理由が全く分からない。
「それで、アシュレイが向かった後を知らないが、何があった?」
「その前に先に聞く。アシュレイとセレンは無事なの?」
「アシュレイは大丈夫だ。ただ、セレスティアは……正直今夜が山だ。最善は尽くしているが、治るかどうかは本人次第。俺達には祈る事しか出来ない」
セレンの生存状況は厳しい……。それはアシュレイにも言われたが、やっぱり……何も出来ないのはもどかしく感じる。
「……そう」
「気にしても、俺達に治す力は無い。だから、話を続けるぞ」
「あの後、何があったかよね。あの場所に、ジェフ達がいた――」
私の身体の事や、眷属という存在は伏せつつ話す。あの時起きた一件について、そして……ジェフを取り逃した事を。
「――そうか。分かった」
「あっさり、飲み込むんだね」
「隠している事が何なのかぐらいは分かる。アシュレイから報告もあったからな」
流石に、あの場面で丁度良くアシュレイが起きたとは考え辛い。前から起きていたのは分かっていた――だから、嘘をついた。その先にある眷属という存在を隠す為に。
「それで、今度は私の番。オーバン、貴方は何で……魔法使いの事を教えてくれなかったの?」
「……ベルには関係ない事だ」
「私みたいに、人間から外れた存在が他にもいるから?」
「――何でそれを」
「最初は全く分からなかったけど、魔力が良く視えるようになってから、分かった」
オーバンの魔力は、最初に視た時は何の変哲も無い普通の人だった。だけど、今視た時に浮かぶ魔力は……少しおかしく感じる。隠された眼帯の奥に対して異常な魔力が少し視え、魔力もかなり偏りがある。それは、私が殺した2人には視えなかったおかしな特徴。そして、魔術道具と同じ魔力の集まり方。
「ねぇ、教えて。貴方達は一体何なの」
「……俺達は、魔物に成り掛けた存在。『亜人』だ」
「どういう事?」
「……これを言うのは気が引けるが、お前も同じような存在なら、言っても良い」
多少の静寂が訪れた後に、決心したオーバンが話を続けた。
「『魔物化』って現象は知っているか?」
「……聞いた事が無い」
「元々、魔物がどういう存在なのか、それも考えた事は無いか?」
「……まさ、か」
当たり前すぎて、考えていなかった。緑の国でもそうだった、赤の国でも……魔物の血は例外無く赤い。獣等は分かるが、植物すら赤い血を流していた。そして、魔物に対する行動原理。人を優先的に襲う理由。栄養が無い場所でも生きていられる理由。……ジェフが、魔物を作る理由。そして、魔物を作る為になぜ人を攫ったのかの理由。何で、魔物は突然現れるのか、魔物の発生する理由。全部、当たり前すぎて、何も考えてなかった根本の考え。それは――
「魔物は、元々……人だった……?」
「残念だが、そういう事だ。そして、俺達『亜人』が、その証明だ」
あまりに突拍子の無い真実に、私はただ……愕然するしか無かった――




