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第二章18話 『赤の魔物』

『ベル! あの変な装置から魔物が大量に――』

「知ってる! そこの周囲が魔力で渦巻いているから、遠目からでも良く視える!」


 揺らめいた魔力から大量の魔物が噴き出す。その装置がどういった物なのかは分からないが、魔力の量で何となくどこにあるかは分かる。おそらく、路地裏を中心に6つ。2つ纏めて置かれているとかだと、私も分からなくなるが。


「アシュレイさん! まだ聞こえるなら、あの魔物を出す装置は路地裏を中心に6箇所です!」

『視えるのか!?』

『私が保証する! ベルは視えてる!』


 革防具屋の場所まで混乱の中を駆け回る。私は路地裏で狙撃する立場だったので、大通りの声をセレンの魔術道具(マジックアイテム)を通してしか聞こえないが、それでも――


『ぎゃあああ――』


 魔物に襲われる様は想像出来る。


『ベル! そっちは本当に大丈夫なの?』

「大丈夫――」


 と思いたかったが人がいない場所を走るという事は当然、魔物の群れと正面から突っ込まないといけない。なんせ、目の前にその異常な魔力を集めた空間が存在するから。


「……って思いたいなぁ」

『まさか――ベル! あんた今どこ!?』

「魔力の中心近く――だよっ!」


 走った勢いそのままで壁を蹴って飛び、まだ気付いていない魔物へ後ろ回し蹴り。だが、全力で蹴り抜いたはずの魔物は平気な顔をして立っていた。


「硬っ! 何こいつ」

『ここの魔物は緑の国と違って、溶けた鉱石を取りこんだ魔物が多い。それによって外皮が硬い魔物や、高熱を放つ魔物がいる。注意しろ、ベル=ウェンライト』


 蹴りを入れた魔物は二足歩行の人型。大きさは私達ぐらいで身体の中央に口のような器官があり、そこから少し漏れた高熱の息が火を纏っている。

 他にも、4足歩行の魔物が2種類。そしてどれにも属さない虫のような魔物までいるが、目的は装置と防具屋。不意討ちで数を減らせれば御の字だったが、今ここで戦闘をする理由は無い。ここは――


「逃げる!」


 幸いにも、足場となる壁や物が多い路地裏。知性のない魔物なら追い付けないはず。だったが――、


「魔物が丸まった……?」

『気をつけろベル=ウェンライト! そいつは飛ぶ!』


 虫のような魔物は硬そうな甲殻を丸め球体となり、そのまま甲殻の隙間から炎を吹き出して、弾丸のように身体をこちらへ飛ばす。

 避けられない速度に防御姿勢を取るが、逃走するのに申し分ない足場は不意の攻撃に対して不安定な足場と変わり、まともに体勢を整えられない私に回転しながら飛んでくる魔物は、甲殻の隙間から文字通り牙を剝ける。


「やば――」


 防御は出来ない、かといって受け止めても牙で私の身体がズタズタになる。速度も早いから思考も間に合わ――牙を出した事による弱点。


「そこを狙うっ!」


 完全な球体だったからこそ、高速回転した際に縦か横か分かり辛かった。でも、牙が出た事で見えた攻撃位置――側面。そして、今あの魔物は横回転なら。

 不安定な足場をあえて踏み抜いて飛ぶ。崩れた足場と共に身体は浮き上がり、身体の中央を狙っていた牙は空を切る。そして、足場と真上に飛んだ私を横切るその一瞬――そこへ足を振り下ろす。

 崩れた足場――そこから現れるむき出しで尖った鉄の柱が魔物へ突き刺さり、魔物は火を吹きながら声の無い断末魔を上げる。振り下ろした足の反動で飛びあがった身体は建物の屋上まで届き、魔物の追撃を避けるように屋上を伝って走り出す。


「1体対処するだけで、ここまでか」

『あんたの天敵みたいな奴らだもの。ここの魔物は外皮が硬くて火を吹き出す熱を持つ反面、どうにかダメージを内部へ与えると、ギリギリでバランスを取っていた熱量と身体が崩れて、中から熱を吹き出しながらその温度に耐えられなくなって自壊する。だから、私達のような外皮を無視してダメージを与えやすい魔術師には弱いけど、物理しかないベルには天敵』

「面倒くさい魔物。でも、この魔物を相手しても……元の装置取らないと一生減らない」

『それに関しては朗報だ。ベル=ウェンライトよ』


 毎回のごとくこの装置に割り込んでくるアシュレイ。この装置は酒場の魔術本を見て作ったとはいえ、セレンの自作なのだが。


『6箇所ある魔物現出装置の1つを制圧して分かった事だが、中々に大掛かりな装置で目立ち、それを廃棄された路地裏の廃墟で隠している。装置はいくつかあるが、大事なのはこの魔力を集めている収集装置。それさえ止めれば、魔物が新たに出てくる事は無くなる』

「収集装置の形は?」

『場所によって形は変わるかもしれないが、共通する所はこれがスクロールに無理やり魔力を集めて起こした、という所だ。つまり、そこへ繋がる装置が収集装置になる』

「スクロールを直接止めたら早いんじゃ?」

『それをやると変換という排出先を失い、集まった魔力が限界を越えて吹き飛ぶぞ。スクロールはこれの原因でもあり、集めた魔力を放出する唯一の手段だ。だから、絶対傷を付けるな』


 屋上を飛び越えながら、集まった魔力の中心へ走る。その下から放たれる一筋の雷光。セレンが路地裏にいる魔物を屠りながら、こちらへ追いついてきた。

 上を走る私に気付くと、大剣を足場にしつつ同じ上まで飛んでくる。が、着地を失敗しそうになり、慌てて私が腕で落ちるセレンの身体を支える。


「ベル! あんた物理攻撃しか無いのに魔物の中心へ突っ込むなんて正気!?」

「でも、壊さないと――」

「私達は何の為のコンビ?」

「……魔物をお願い出来る?」

「その為に来たのよ」


 体勢を立て直したセレンと共に、魔物と絡まれないよう屋上を伝う。魔力の塊はもうすぐそこだが、


「あんた、目的を忘れた訳じゃないよね」

「ジェフ達の撃退もちゃんと頭に入ってる。でも、あの防具屋から一番近いここを取らないと、背後から魔物が来る。それを防ぐために――」

「ここを叩くのね。ジェフ達の事が頭に入ってるなら大丈夫」


 そして、魔力を在り処までたどり着いたが、ここは――


「……ここ?」

「うわぁ……魔物がギッチギチに詰められてる……鳥肌立つわねこれ」


 廃墟であるはずの建物の壁には虫のような魔物が這い、元の壁が既に分からない程に詰まっている。それだけじゃなく、周囲にも大量の魔物が押し出されていく。


「でも、この辺り全体に魔術を放ったら、バランスを崩した魔物の熱で、あそこごと吹っ飛ばない?」

「軽い事言ってくれるわね。この範囲をまとめて潰すなら、かなり時間かかるわ」

「その間隠れてれば――」

「生物は天敵に対して、順応していくものなの。天敵だった魔術を察知する事に関しては、魔力の視えるベルより上よ、あれ」


 中々に厄介な順応。自然の摂理と言えばその通りなのだが、納得はあまり行かない。魔術を扱える動物なんて人間しかいないのに、そこに対して順応するのは違和感だ。緑の国も魔物が多ければ同じ事をするのに、全く別の順応を起こしている。まるで人間に対する進化のような、人間を殺すために生まれたような、そんな感覚だった。


「……魔術発動までの間、私が守るのは?」

「流石にあの量は無理じゃない?」

「ダメか……じゃあ、どうするか」


 大量の魔物と奥にある魔物を産み出す装置、どっちも倒せる作戦は、


『――でも、てめぇが手を出して……あの事故が起きた!』


 脳裏を掠める嫌な記憶。だけど、それが同時に突破口となりうる作戦を思いつく。


「ねぇセレン。この辺りに大きめの廃墟ってある?」

「一応あるけど……何をするつもりなの?」

「全部ここに投げ飛ばす」

「――は?」


 突拍子の無い作戦にセレンの眼が丸くなる。まぁ、言ってる事は家を1個投げ飛ばすという、私から見ても頭のおかしい作戦だ。


「頭おかしいんじゃないの? 瓦礫であの魔物が死ぬ確証も無いのに」

「でも! 今止めないと、この量は――」

「だから、何の為のコンビ?」


 頭を軽く叩かれ、セレンはそのまま続ける。


「確かに頭のおかしい作戦よ。でも、あんたの怪力を信用していない訳じゃない。問題は、瓦礫で死なない魔物。だから魔術を引っ付けて飛ばせば良い」

「それは、詠唱時間が――」

「勿論掛かるわよ。だから、簡易的な魔術を廃墟の中で唱える」

「私みたいに身体が頑丈じゃないのに、正気?」

「家投げる作戦思いつく、あんたに言われたくない!」


 そう言われながらもセレンから大剣を渡される。


「廃墟をそのままぶん投げる為にも、まずは家を切り離さないと……出来る? ベル」

「分からないけど、試せる可能性が1つある」

「それじゃ、無茶上等の作戦をやりましょうか」


 廃墟へ向かいながら、お互いの手を叩く。お互いが無茶をするたった2人の作戦の開始だ――。

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