第二章13話 『魔力属性』
「えーっと……これは、何?」
「私に聞かないでよ。あんたが持ってきたんでしょ!」
見えたのは内容の一部分だけ。それでも、頭のおかしい狂気がこの研究から滲み出る。意味不明の単語もいくつか見えるが、まずは判明している部分から考えないと。
「まず、書き手は2人いる……よね」
「……そうね。片方はジェフ様、もう片方ではジェフと呼び捨て。少なくとも2人の研究書が混ざっていると思う」
「問題は、この2人が別々の研究をしていた場合。変に繋げると正しい情報が得られなくなる……」
「それについては任せて。色々やってた頃に筆跡鑑定とかを覚えたから」
紙を見てそう告げるセレン。そしてくっ付けていた紙を慎重に動かして、2つの研究書へ分けていく。
「見た感じ『魔物を作りだす方法』『人を化け物に変える』『マルク=パルヴィスの復讐』。この3つが同じで、残りの『他の眷属』『ジェフ様の為』が同じかな」
「ありがとう、セレン。……眷属って単語が分からないから、まずは前者の研究を考えよう」
2つに分けられた研究書、その片方へ目を向ける。こちらはかなり分かりやすい。
「単純に考えると……人を魔物に変える研究?」
「でしょうね。そして、その目的が『マルク=パルヴィス』という人物への復讐。でも、復讐するだけなら人の方が良いような――」
「無理だね。マルクは魔法使いで、多分……復讐って事は一度ジェフとマルクは戦っている」
ジェフの復讐相手という事は……少なくともあの化け物とマルクは同格。そうなると、人では束になっても一瞬で殺されそうだ。影から飛び出したあの凶刃、それに巻き込まれた雇われ兵のように。
「ベルはこのマルクって人と知り合いなの?」
知り合いというほど、マルクを知っている訳ではない。私の父親と仲が良いぐらいしか、マルクの事は知らない。
「少し会った事あるだけだよ。だからあんまり知らないんだけど、魔力の色は青……というより水色? 薄い青だった感じ」
「その色は……氷を使う魔法使いね」
「分かるの!?」
「分かるって、結構初歩の初歩……もしかしてベル、あんた属性があるの知らない?」
魔力に属性……全く知らなかった魔への道。やっぱり、こういった類は専門家に教わった方が良い。
「全く知らない……セレン。属性って何?」
「えーっと……魔力にも様々な属性があるの。全ての人は6属性のいずれかに属していて『火・水・風・土・氷・木』の6種類。魔力の色は『赤・深青・薄緑・茶・青・緑』って割と分かりやすい色をしてるよ。自然としてそのままの形が残っている水・風・土は比較的持っている人が多い属性。それに対して、火・木・氷は元の状態から何かを加えた形で現出した自然。例えば、火は熱を加えた事で起こる自然、木は年数という物を加えた結果できた自然……みたいなね? だから持ってる人は少ない。まぁそこまで持ってる魔力で大きな差が出来ている……って訳ではなんだけどね」
話で聞く限りは納得するが、そうなると……バンジャマンが使っていた魔術は属性の無いものになってしまう。それは少しおかしい――。
「セレン、本当に6属性だけ?」
「話は最後まで聞く! 実はもう2種類存在しているの。それが『光・闇』の2つ。色は『白・黒』で、これも分かりやすい色をしている。そして、これはさっきの6属性とは別に全ての人間が持つ魔力なの」
2つの属性……そうなると、バンジャマンが使っていたあの黒い魔力は闇属性で、セレンの雷は光属性。同じ理由で、影から武器を取り出した際のジェフも闇属性、か。でも、全ての人間って事は、
「……そうなると、人間は基本6属性の内1つ、そして光か闇の魔力、2つを持っているって事?」
「そういう事。といっても、光・闇属性は判明してからまだ日が浅いの。それまでは、魔力を持っているのに魔法や魔術を使うと苦しみだすから、全く使い物にならないってレッテルを張られていたわ」
「うん……? 2つ持ってると何か弊害でも起こるの?」
「詳しい事を言うと、色々とあるんだけど……早い話、お互いの魔力が喧嘩しちゃうの。異なる魔力が交わる事は決してない……それが例え体内の魔力であっても、決して混ざらない。でも、身体には生まれ持った両方の魔力がある。その状態で魔術や魔法を使うと、使わなかった方の魔力が拒絶反応として身体を傷つける」
属性による弊害。バンジャマンが魔術を撃った後に腕が引き裂かれていたのは、多分この弊害の可能性が高い。ただ、確定ではないので一度聞く。
「拒絶反応って、どれくらいの事が起きるの?」
「人によって様々よ。2つの属性を全員が同じ割合で持っている訳じゃない。人によっては6属性の方を多く持っていたり、その逆もあるの。でも、割合が大きくなればなるほど、拒絶反応は強くなる。私の場合は光の魔力にかなり傾いていて、6属性――水属性が少ないの。だから拒絶反応が少ない部類……それでも、同じ魔力量の人より疲れやすい弊害は起きているわ」
「じゃあ、その拒絶反応が大きくなったら――」
「人体破壊――拒絶を起こした魔力が交わらない事で隅へ追い詰められ、その圧に耐えられなくなった身体は内部から弾ける。身体を傷つけながら。これが、魔力の属性と弊害。色々分かった?」
つまり、バンジャマンは闇属性の割合が少なかった。それでも、闇魔術を使った結果腕が裂けた……。そうなって来ると、あの魔術本……。
「うん、ありがとうセレン。そして急に話を変えて悪いんだけど、魔術本って……薬を作らせたりする?」
「うーん……見た事はないかな。でも、それは多分作らないんじゃない? スクロールと同じ理由で、変に踏み込んだ魔術本を作っても、読み手が悪用すれば事件へ繋がるだろうし」
確かに、スクロールの威力を調整している魔法使い達が、人体を破壊する魔術本を出すとはあまり思えない。仮に出したとしても、かなりの少数で貴重な1冊となる。でも、あの時ウォーレンさんが言っていたのは、
『――あれ、赤の国で仕入れているんだ』
この言い方は貴重な物を仕入れているとは思えない――ある程度の数がある言い方だった。そうなると、ジェフが研究成果を元に魔術本と偽って流した可能性が高くなる。その結果、バンジャマンは魔物のような化け物へと変貌した。と、考えるのが妥当か。そうなると――
「セレン。赤の国で流通する魔術本ってどんな感じ?」
「随分抽象的な質問ね……。そこら辺はアシュレイの方が詳しいよ」
「そうなるとメルキアデスの報告も兼ねて、明日は酒場に行かないと」
「ベル? 自己完結しないで教えてもらえない? 私達コンビよ、一応」
「ごめん、えーっと――」
緑の国で起こったバンジャマンの1件。その顛末と、とある魔術本の存在。その全てを、セレンに話した……。
「――なるほどね。そうなると、魔術本の流通を突き止めたら、再度ジェフへ近づける」
「明日行くべき場所は酒場。とりあえず、セレンもそれで良い?」
「異論無いわ」
明日の行き先は確定した。だけど、もう1つの問題がある
「……それで、このもう1つの研究書だけど」
「単純に、ジェフと同じ奴らが複数存在するんじゃない? そして、これを書いた研究員はジェフに心酔している。研究内容は……流石に分からないわね」
「あれが、複数……」
「今考えるだけ無駄よベル。可能性が広すぎるもの」
本来ならスルーするべき問題。だけど、心のどっかでこの研究が引っかかる。私なりの勘というべきか……とある言葉が気になって仕方が無い。他の眷属……その単語だけは絶対に心に引き止めておこう。その上で、考え込み過ぎるのも悪い癖。答えの出ない問題ならこの単語以外はあまり覚えなくても問題無さそうだ。
「そうだね。……これ以上の情報も無いし、夜も深まったから寝ようか」
話しこんでいたら、いつの間にか外は真っ暗まで夜が深くなり、人も出歩かないような時間になっていた。
「……あれ? ベルは寝ないの?」
「手甲とか直さないと……流石にこの状態じゃ外出られないよ」
既に存在すら無くなった左手の手甲と、ボロボロだがまだ形が残っている右手の手甲。左は無理だとしても、右ぐらいは直さないと。脛当てと防具はボロボロで、何とか形は保っているぐらい。そして……短剣は抜刀術と瓦礫の中、刃こぼれをしながらもまだ折れてはいない。弓はそもそも持って行ってないから無事。
そんな事を考えながら私自身の装備を見つめていると、セレンはその視線を遮るように顔を出す。
「手伝おうか?」
「1人でいいよ。ずっと、私を運んで休めてないでしょ?」
「……分かったわ。じゃあベルの言葉に甘える。おやすみ、ベル」
「おやすみ、セレン」
セレンは私の隣にあるもう一つのベッドで横になり、その寝息を聞きながら装備を直して行く。起こさないよう慎重になりながら――




