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第二章8話 『囮』

 陽炎を作る朝の光。その蒸し暑い熱と鍛冶の音で、寝付けなかった身体が起き上がる。


「やっぱり、暑い……」


 夜には多少マシになるが、この国は常時熱気に包まれている。魔術によって冷やされている上でこの熱……魔術無しの暑さをあまり想像したくない。


「さて、と」


 昨日の事を思い出しながら、昨日の夜に終わらせた装備を再度付けていく。メルキアデス=レーネル捜索の為にセレンと組まされて、それから短剣と弓をアシュレイから返されたんだっけ。


「にしても、武器を忘れるって……」


 そもそも、武器を奪った事を完全に忘れたセレン。アシュレイの部下が紛れ込んでいたから回収されていたけど……やっぱり馬が合いそうに無い。


「あれから、あれと組まないといけないのか……」

「誰がアレだ!」


 宿屋の窓から怒ったような表情でこちらを見つめるセレン。というより、何でこの場所が分かったのか――


「……そろそろこの体勢が辛い」

「はぁ……とりあえず中入って」


 窓から外を見ると、建物の壁に拳の刃を引っ掛けて無茶な体勢で待っていた。何が起こってこの体勢でいたのか不明だが、流石にそのまま放置は心が痛むので中に入れる。


「全く、何でこの場所が分かったの?」

「一応これでも、この辺りは庭なんでね」


 保存食として残しておいた食材を調理しながら、セレンへ私にコンタクトを取った理由を聞く。


「私の場所が分かったのはいいけど、何で私の所まで来たの?」

「そりゃ、ベルとバディを組めって言われたから。ってのと……ジェフは宿屋でも関係無しに襲撃してくるからな」

「あー……そういう事。じゃあ、一緒に泊まる?」


 その言葉でセレンは少し恥ずかしそうにし始める。……別に女同士だから特に何も起こらないものだが。私は自動人形だけど。


「あの、女同士でどうこう起こらないでしょ」

「いや、……こういうの慣れてないから……」

「私も慣れてない! 急にしおらしくならないでよ!」


 少し怒りながらもセレンの分も料理を置き、それを見てセレンは黒い瞳を丸くする。


「……食べて良いの?」

「毒なんて入って無いわよ?」


 この反応で何となく察するセレンの過去。多分この人は孤児の類だ……それも、拾われた先が最悪な孤児。セレンは少しおどおどしながら、目の前にある有り物で作った朝食を口にし始める。


「どう? おいしい?」

「……おいしい」

「そっか」


 セレンの頬が少し緩むのを見て少し嬉しさを感じながら、朝食を済ませて朝の支度を終えて行く――。



 朝食を済ませた後に宿屋でセレンの分も手続きを行い、改めてメルキアデスの捜索に足を踏み出す。


「にしても、セレンにはメルキアデスの手掛かりはあるの?」

「セレンじゃな……もう一生セレンって呼びそうだし、セレンで良い。……一応いくつかあてはあるけど、交渉してみない事には始まらない感じかな」

「交渉? 暗部に乗り込むの?」

「蛇の道は蛇って奴。ジェフがこの町の裏側にいるなら、裏側に精通している人間に話を聞くのが一番よ」


 そう言って何の恐れも無く路地裏まで歩き始める。暗部の居場所も何もかも分からない私は付いて行くしかなかった。


「……本当に大丈夫なの?」

「交渉って言ったでしょ? リスクは承知の上だよ。色々と考えもあるし」

「考えって?」

「ベルがこの街に来て間もない事を利用する。あの酒場周辺はスパイに厳しいから、ほとんど情報が漏れないのよ」


 内容は私が囮となる事。まぁ、私が作戦を考えるとしても情報がまだ届いてない所を突くし、考えは理解出来る。問題は――、


「うーん……私を囮にするのは良いけど、どう囮にするの?」

「それは――」


 告げられる作戦の内容。そして、私の手を後ろに回され金属音がなり始める。なるほど、そういう事か。


「……そして、鍵はベルの胸元――」

「いや、足の脛当てに入れて。地図と別々だったら勘ぐられ辛いから」

「分かった。ベルが良いなら構わないよ」


 腕をくっ付けた金属製の拘束具は、特製の鍵が無ければ開けられない。一つは証明としてセレンが持っているが、もう一つを左足の脛当て――槍を仕込んでいた余りスペースへ入れて隠す。


「後は……ベル、あんた色仕掛けとか出来る?」

「出来るわけないでしょ!」

「なら、しょうがないか――ベル。そろそろ、演技をして欲しい。本丸がそろそろ来る」


 その言葉を合図に、いきなり抵抗を開始。ただ、全力を出せば吹き飛ばしてしまうので、あくまで捕まった人が抵抗するフリをして――。


「……目的のブツは?」

「離して! 離しなさいよ!」

「ここにいる。それで……シャードは?」

「ほら、こいつだ」


 投げられたシャードと共に突き飛ばされる。交換条件のようにお互いが目的を受け取り、作戦が開始される。まずは――、


『まずは、ベルが捕まって根城まで運ばれて欲しい。そのネックレスは位置を報告出来る魔術が施されているから、後で私も潜入する』


 不思議な紋様のネックレス。それは、自分の位置を知らせる為の魔術が刻印されているが……()()()()()()()()()()()()と同じ紋様をしている。


「何処に連れていく気!?」

「大人しくしていろ。お前を殺したって構わないんだ」


 一際細い刺突剣を首につきつけられ、とりあえず大人しくする。この作戦には演技が大事……バレたら私もセレンも危ない状態になる。


「私を連れていく目的は何!?」

「お前が知らなくても良い。あまり五月蝿いと殺す」


 流石にイライラさせすぎたが、歩みが止まらない所をみるに……もうちょっと先か。そうなると――、


『あまりに奥地だった場合、潜り込めない危険性もあるから……ベルが冒険者であるという証拠をわざと残して。そうすると、酒場が動ける理由が出来る』


 なので、あえて冒険者カードを落とす。目印は――、


『でもセレン。そうなると、私達にしか分からない目印が無いと困らない?』

『じゃあ、コレを持って――』


 シャードの入った袋。これを目印にして、冒険者カードを隠す。でも、露骨過ぎるとバレるので、


「貴方は何で私に固執するの?」

「――っ! 黙れ! 口を出すな!」


 胸元を持ち上げられ、首筋に剣を再度突きたてられる。以前よりも本気度が増した剣は、首から赤い血が流れる程に強く押し当てられ、次が無い事を伺わせる。でも、これで私に視線が向いた。

 右手に隠していた冒険者カード入りのシャード袋を、ゴミ袋の端に投げ飛ばした。私に怒りを向けている以上、私の顔に視線が向いているはず。なので、コレには気付けない――。


「貴様がオレの何を知っている!」

「知らないわ。カマを掛けて引っかかっただけじゃない? それよりも、離して」


 煽るようにごまかし、それが相手の怒りを更に誘う。首に押し当てられた剣は既に少し刺さり、普通の人なら危ない領域まで深い傷を作っている。


「……そうやって、煽って何になる?」

「気になっただけよ」


 流石に違和感を覚えられたのか、冷静になった相手。そして眼前に広がる、根城となる建物――。


「顔を隠さなくてもいいの?」

「どうせ、ここはバレない」


 確固たる自信と共に、建物の中に連れられていく。そして、地下3階ぐらいか……階段を降りた先に檻が待っていた。


「ここでうちの崇高たるボスが来るまで、大人しくしろ」


 投げられるように牢屋の中に押し込まれて、そのまま立ち去る私を連れて行った女性。監視員はいない……今なら――。

 足元に入れた鍵を手首に当てはめ、金属製の拘束具を外す。この装備自体は今後使いそうなので、持ち運ぶとして……。


「まずは、此処から抜け出さないと」


 色仕掛けが出来ない以上、別の手を捜す。一応、色仕掛けも頭に入れておこう――。

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