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第二章6話 『似た者同士』

 入り口が閉ざされた部屋で2人、お互いの距離を計る。距離と間合いをひたすらに掴み、攻撃を1つも放たない異質な空間……これは、


「あんたとこんなお見合いするつもりじゃないんだけど?」

「こっちの台詞!」


 戦闘スタイルが同じの相手――。相手の攻撃を見てから詰めて倒すタイプだ。ズィルの装備を見ると、揺らめいた刀身を持った大剣と何やら尖った小さな刃を無数に持つ拳……あの剣で守って拳で肉を抉るつもりか。だけど、入り口を崩してまで1対1まで持ってこれたんだ。こっちから動く――!

 手に分割した槍の先端部分を右手に持ち、間合いを一気に詰める。今までは一撃を狙っていたが、相手は当然警戒するものとして――場所は手をフェイントにした足元への蹴り。槍の穂先を見せれば、嫌でもこれを意識せざる負えない。


「これで――」

「甘いよ、あんた」


 槍の穂先を短く持ったナイフのような攻撃を大剣の柄頭で止められ、同時にローキックを刃先で止められる。そのままズィルは剣先を上げるように私の左足をその止めた剣で持ち上げ、バランスを崩しにかかる。このまま体勢を倒したら、相当不利になってしまう。ならいっその事――


「嘘!?」


 持ち上げられた足でバランスを崩すのは、それに抵抗しているから。なら、私は持ち上げる力を利用して1回転――!


「ハァッ!」


 飛んだ勢いのまま、右足のかかとで回転蹴りを放つ。これは予期出来ていないようで、ズィルはそのまま剣で蹴りを真正面に受け止め、その威力で吹き飛ばされる。だがダメージは食らっていない辺り、受け止められないと分かって後ろに飛んで力を逃したようだ。


「あんたの力、中々にふざけてるね」

「良く言われる」


 吹っ飛んで距離が放された事で、お互いが間合いを読む冷戦が再び始まった。


「何であんたは私を攻撃するの」

「貴方が私を襲って連れ去ったからでしょ!」

「だったら逃げたらいいじゃない! ここまで隠れて来れた上にそんな実力隠し持った状態で、私に喧嘩吹っかけてくるのはおかしいでしょ!」

「私にも事情があるの」


 動きを警戒しながら、口調で押し問答。私は槍を組みたて、相手は魔術をいくつかストックしていく。だけど、私にはズィルが魔法使いの情報を持つ確信がある。

 きっかけは、最初に襲ったあの言葉――、


『――本当騙しやすいんだね』


 この違和感。騙しやすいって言い方がかなり引っかかった。私とズィルはあの場で初対面なのに、騙しやすいと発言した。つまり、私の事を前から知っていた事実へ繋がる。もう一つの可能性としては、私の動向を伺って、ずっと監視されていた事だが……私はそこまで大きく喋っているわけではない。だから、私が騙された事を知っているのがおかしいのだ。

 それは同時にとある仮説が浮上する……。私を騙した人間の仲間という事。


「事情があったとしても、あんたが襲うのは違うでしょ?」

「最初に酒場で部下をぶつけておいて良く言うよ」

「……お人好しなのに、そういう事には鋭いんだ」


 私を騙したとされる奴は酒場でのあの2人組、馬車の主、人を信頼しないならオーバンも可能性として含まれるが、あの2人組以外だと矛盾が生じてしまう。

 オーバンの仲間だった場合、私の体重を知っているはず……オーバンとの戦闘時に私を片手で持った時点で私の重さを理解して手配する。なのに、私を運ぶ際に……


『――この女どんな体重してんだ』


 この台詞は、私の体重を事前に知っていたのなら出ない台詞。そして、走る箱に私を詰め込むまでは手間取っていた。つまり、オーバンは白。


「でも、あんたが私を襲う理由にはならないでしょ?」

「それは、貴方が魔術師だからよ」

「魔術師に恨みでもあるの……?」

「教えて欲しい事がある」


 そして、馬車の主を仲間とすると……あの走っている際の説明はズィルの利益に繋がっていない行動となる。私がこの国を始めてと言った際に嘘の情報で騙せば、簡単に私は捕まっていたはずなのに……それをしなかった。だから、まだ全部白とは言えないが可能性は低いと言える。


「教えて欲しい……ねぇ」

「そう。でも貴方の性格から、何言っても、教えてくれないでしょ?」

「えぇ、あんたみたいな素性が分からない人には、教えるものはないよ」

「だから、無理やりでも吐かせようと思って」

「物騒な思考してるな、あんた」


 すると残されたのは、あの2人組がズィルの仲間という事。そして、それは同時に彼女が冒険者である可能性が浮かぶ。酒場の看板は、ここに酒場があるという一つの証明。

 つまり、あの看板は偽物を作らせない為にあえて付けている可能性が高い。それを、処分するにしてもこれを渡せる相手は、酒場のマスターから信用されている証明に繋がる。酒場のマスターがどういう考えで、どういう人物かなのは知らないが。


「こっちも切羽詰まってるの、無理やりにでもなるでしょ?」

「まぁ、分からないでもない。あんたには教えないけど」


 そして、この部屋だけ魔術を灯りに使っていた事で、彼女が魔術師である可能性も浮上。最後に、私の顔をみていないのに私の事を察知した状況。私が顔以外で存在が分かる理由とこの部屋を合わせたら、魔術師と確定する。つまり――、


「貴方は……魔術師で冒険者、酒場から一定の信頼も受けている……違う?」

「もし、そうだったとしても、私があんたに言う事は無いよ」

「だろうね――っ!」


 間合いを一定に詰めあって、最初の一歩まで近づけた。なら、もう一度攻める。今度は詰め切って倒す。

 槍はアリアさんに武器を一通り触った方が良いと言われて触っただけで、あまり使いこなせるとは言えない。でも、私が槍を使えない事を、ズィルは知らない。ここで隙を作らせる――。

 射程的にはこちらの方が上。だからまず、一撃を顔に撃つ。


「ずいぶん正直な攻撃だねっ!」


 まず当たらないのは分かりきっている。槍はズィルの顔の右側に逸らされ、カウンターのように槍を伝わせて縦の斬撃――。


「正直上等!」


 その斬撃を真横へ身体を逸らす事で躱し、その勢いで回転し左かかとで槍の柄を蹴飛ばす。それは、刃を伝わせたズィルに伝わり、身体を飛ばさせる。


「また蹴り――」

「まだまだぁ!」


 威力を込めて蹴ったのでズィルの身体は少し動くが、大剣という支えが無くなった槍はこちらへ向けて回転しながら宙を舞う。それを左手に掴んで、今度は槍の方向へ逆回転して行く――。


「チィッ!」

「そこっ!」


 自分の蹴りと槍を回転させた事による遠心力。そして、ズィルを軽く浮かせた事で今は受け身をしずらい状態。剣による防御は時間的に間に合うだろうが、衝撃までは受け止め切れない――!

 だがズィルは大剣を真横に構え、中心部分を這わせるように槍の衝撃を後ろに受け流す。手に引っかかりを作らないように槍から身体を背に向けて。


「嘘でしょ――」

「今度はこっちの番!」


 最低限で受け流された結果、私の身体は攻撃に全部振っていた事もあって無防備。そこへ横に薙ぎ払うズィルからの攻撃。だけど、まだ――!


「それ避ける!?」


 振りかざした槍は全てが鉄製。重さはある上に遠心力もある今、身体を捻りながら跳べば間に合うはず。

 ズィルの斬撃は空を切り、お互いが相手に向かって突っ込んでいる状況。私は捻ってる身体を立てながら、槍を短く持ち直す。イメージは木の魔物、あの投擲をもう一度――!


「こっちだって――!」


 身体が正面まで戻った時に眼前に広がる雷光。大きな火花を散らしながら飛ぶそれは、ズィルの左拳に宿り、小さな無数の刃は回転し、熱を帯びて赤く染まる。これを食らえば多分、私の身体でも危ないが、こっちも人の理を消した全力で――!


「ハァァァアアアアアア!」

「これで、終わりよ!」


 私もズィルも全力を込めた一撃。それを――


「そこまでだ!」


 銀色の液体が間に入り、遮った。そして、その液体を従えた存在が姿を見せる。


「両者共に止め!この勝負、アシュレイ=ノア=エッケハルトが引き継ぐ!」


 銀色の液体はそのまま檻の形を作り、両者を引き止めた。どうやら、ここで足止めのようだ。

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