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第二章3話 『無知の知』

「――本っ当にごめんなさい!」


 道に響く大きな謝罪。理由は簡単……まさか、敵意が無いどころか目の前にいる人物が、私の求めていた情報を持っているかもしれない人物だったなんて……。


「その件に関してはお互い様って言ったろ?」


 そういって軽く笑いながら話すオーバン。でも、受け止められたとはいえ()()()()を放ってしまったのは大分反省しなければ……。


「俺に用事があるなら、先にうちの工房へ行ってから話そうか」


 路地裏を案内するようにオーバンが先頭を歩いて工房へ歩きだす。足を踏み入れたルチベルグ帝国の裏側では周りの人からの視線が痛いぐらいに突き刺さり、中には襲おうと躍起になっているような人もいるが、オーバンの顔を見てその身体を引っ込めて行く。


「こういう視線を気にしても意味はないぞ?」

「でもオーバンさん。襲われるかもしれないから警戒しないとダメなんじゃないですか?」

「俺の事は呼び捨てで良い……逆なんだよ。警戒するから大事な物を持っているって思われて襲われる。あいつらだって、明日生きていけるかどうか分からないから警戒しているんだ……堂々と行って襲われたら対処する。君もそういった実力はあるなら、そっちの方が良い」


 この裏街のルールを語っていくオーバン。襲おうと目線を送ってきた人を良く見ると、所々から満足に食べられていない結果が生んだ細い部分が見え隠れしている。


「あまり可愛そうとも思わなくて良い。本当に抜け出したい人間は酒場が拾っている。だから、今残っている人間は犯罪の後ろめたさを飲み込みきれず、酒場にも暗部にも付かなかった中途半端に甘えた人間達だからな」

「そんな突き放すような――『暗部』?」

「この街を巣食っている悪を総じて俺らはそう呼んでる。本当の名前も内情も構成人数も分からないが、『暗部』と呼んで共通認識を持ったほうが分かりやすく結託できるだろ?」


 ここの人達の事を総じて『暗部』。歩いている中に見かける武器を持った連中がそういう人を取り纏める類か……。捨て置けとオーバンに言われたが、助けたいと思う気持ちや同情の心をどうしても持ってしまう、これも甘えなのだろうか。


「ところで、君の目的は分かったんだけど……君は一体?」

「『ベル=ウェンライト』。冒険者よ」

「冒険者? 俺は酒場から帰って来たんだけど……ベル、君を見かけなかったぞ?」


 ――あれ? 酒場が存在する?。だけど、あそこには人がいなかった。いなかったが、逆を言えばあそこに酒場の看板があった事も事実だった。だからこそ、冒険者そのものが廃れたのかと思っていたのだが――。


「え? でも、私は酒場の看板を見て――」

「あー。そういう事か……。最近酒場の場所を引っ越したんだよ。それで、看板とかを新しくしたから処分したんだけど、それがあったって事は……既に騙されてきたんだな?」


 酒場が引っ越した……唐突な正解に少し戸惑う。確かに、あそこは空き地に変わったから人がいなくなった事は頷ける。それに、酒場自体が廃れたという想定は流石におかしかった。

 そこで私の認識を再確認……私はこの国の事を何も知らない――という事を覚えた。緑の国ではかなり栄えていた上に先代の存在から、補修自体はあったが酒場の場所が変わるなんて事が無いのを頭の中で決め付けて、それを赤の国に当てはめてしまった。頭をしっかり冷静に保たないと、突然襲いかかってくるかもしれない理不尽は待ってくれない――。


「でも、捨てられたはずの看板があったって事は……引っ越しを手伝った中に?」

「だろうな。と言っても、もう足跡すら残さずに消えてるだろうよ」

「じゃあ引っ越したのはいつぐらい?」

「本当に最近で2ヶ月たってないぐらいかな」


 裏事情を知った上で、再度頭の中で情報の整理。引っ越しはここ最近、ならあの馬車の主は裏切っていない……? ただ、あの人が最近ここに来た可能性もあるので、これは分からない。だけど、引っ越し業者であろう『暗部』は、過去の情報で騙して冒険者を消している。じゃあ、その理由は何だ……?


「質問を重ねて悪いんだけど、なんで暗部は酒場を狙ってるの?」

「暗部を根っこから無くそうとしているからだよ。現マスターである『アシュレイ=ノア=エッケハルト』がね」


 酒場のマスターの名前、そしてその目的と怨恨を知る。でも、それだと――。


「現マスターと付けるって事は……酒場は以前、暗部と繋がっていた?」

「――鋭いね、君。ベルの言うとおり、前までは酒場も腐っていた。だけど、色々あって今のマスターが就いてから、革命と思えるぐらいガラっと全て変えようとした。それに反感を起こしているのがシャードの供給先としていた暗部さ」


 ――色々と見えてきた。暗部と酒場の繋がり……。始めにおかしいと思ったのは人の全くいない酒場跡地。立て看板の悪用があったとしても、あそこに全く人がいないのはおかしい。新しい酒場の案内や同じ立場の冒険者や一般人……それすらもいなかった。そしてそこに引っ越しという名目が付いたが、根本として何で引っ越しをしたのかがまだ分かっていない状態。そしてルールーさんの言葉『酒場も一枚岩じゃない』。他にもいくつかの可能性があったが、最悪の可能性を見てオーバンを強請ってみたのは正解だった。

 つまり過去の酒場であるあそこは、同時に悪の根城で腐っていたのは先代か。そして、現マスターが就いてから全てを断ち切った結果。周り全てが敵になった……。


「でも、そんな事があるなら逆になんで今まで引っ越しをしなかったの?」

「前は酒場と冒険者だけを守れば良かったんだが、酒場が守るべき物……それがどんどん増えていったから、最終的に守れるように自分達の味方をしていた地域に拠点を変えた。って所だな」


 全てを断ち切る勇気と反感……最初は多分凄まじかったものだろう。それをやりきったが故に味方してくれる人の多さ、それが原因で周りが敵だらけのあそこから変えたのか。


「なるほど……この国がどういう所か見えてきた」

「俺の情報が役に立ったなら宜しい。丁度話の終わりだけど、着いたぞ」


 目の前に広がる広めの一軒家。そして、そこから現れる子供が3人……オーバンの子供?。


「あれ、オーバンは奥さんがいたの?」

「あー……孤児を保護して鍛冶を手伝ってもらってるんだ。俺の子供じゃない」


 流石に顔付きも違うか。そう思っていると、その子供達に連れられてオーバンの工房である家に引っ張られる。


「え、あの、ちょっと?」

「オーバンさん! この子も拾ったの?」

「いや、違うぞ……お客さんだ……」


 どうやら、また子供だと思われて引っ張られたらしい。つくづく自分の身長が嫌になった……。オーバンの一言で手を離されたが、拾われた孤児達は興味津々でこちらを見つめてくる。


「全く、上に戻ってなさい」

「……はーい」


 その視線に気付いたオーバンが軽く叱った。それで不貞腐れながらも上に戻っていく子供3人。でも、見た目が暗部のようなオーバンが子供相手にしっかり父親をしている様が少し微笑ましくも感じた。


「ごめんな、騒がしくて」

「何というか、見た目とのギャップが凄かったよ?」

「良く言われるよ……全く」


 ため息交じりで椅子に腰掛け、なにやら設計図であろう紙を見ながら、腰に巻いた()()()()()()の布を頭に巻き直して話を続ける。


「それで? 俺に用ってのは何だ?」


 その言葉で私の起きた出来事を話す。ある程度不都合な真実を隠して、必要な情報を引き出せるように――

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