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第二章1話 『ルチベルグ帝国へ』

 ――暑い。


 馬車で長旅の最中で訪れる変化……。周りは段々と緑が無くなり、代わりに出てくる岩山と赤く火照りを帯びた熱源の液体。光源であり熱源でもあるその液体は道から外れた小石を飲み込んで溶かし、所々冷えた所は黒く固まっていく……。赤と黒の織り成すそれは、ガーディッチ王国で見た赤と黒を背に持った虫のようだ。


 ――暑い。


 高い岩山には穴が掘られ、中からは尖った斧のような道具を持った人が、汗を吹き出させながら光った石を運ぶ。その運び手は馬車ではなく線を引いた上を走る四角い箱で、2人乗った物をお互いに漕ぎ合って進む手漕ぎ式らしい。地面を走る2本の線は馬車の通り道から少し外れているものの、顔を合わせられる程度の距離で並走しているので首都行きのようだ。だが、それよりも何よりも、


「――暑いっ!」

「おおっと、お客さん。その反応から見て、この国は始めてですね?」

「あ、えっと、ごめんなさい……そうです。まさかここまで暑いとは思わなくて……」

「最初は皆似たような反応をしますよ。でも、首都『オブシディア』まで着けばある程度マシになります」


 そんな話をしながら、熱源の中を走りぬける。ここに来る前は赤の意味が分からなかったが、今となっては熱で赤く染まったこの国に、赤の国という別称が付くのも納得だ。


「お客さん。右側にあるあの一際高い山は『ポルス山岳』って言って、あそこが一番坑道も多い山ですよ」


 そう言われて目線を右に渡すと、上が見えなくなるぐらい高い山が壁のように聳え立つ。良く見るとそこにはたくさんの坑道の跡とさっき見た2本の線を用いた道があるが、この山と比べたらほんの小さな豆粒のように見えてしまう。


「……途方も無いぐらい大きいですね」

「沢山の坑道を掘った上で、未だにあの壁のような山の先が分かってません。でも……だからこそロマンがあると思いませんか? お客さん」


 奥が未だに見えない山という更に途方も無い事を聞き、少し頭が混乱する。この国はガーディッチ王国と同じくかなりの歴史があるはずなのに、ただの一度も先が見えない……?。


「と言っても奥に行けば行くほどかなり崩れやすい山で、沢山の事故の後に国王様が禁止令を出して以降、奥に繋がる坑道は封鎖されてしまいまして」


 明かされる当然の理由に、流石に納得する。単に崩れやすいだけだった……長年山が開通しないのは山が増えるみたいな普通じゃ考えられない理由を一瞬思ってしまった。少し魔法と魔術に毒された考え方を改めないと。


「……ここの――『ポルス山岳』を掘るんじゃなくて、登ろうと思った人はいるんですか?」

「あー、沢山いましたよ。でも、帰ってきた人は1人もいなかったはずですね……」


 上から登る事も無理だった山の先にある風景。確かに気になる所ではあるが、人が返ってこない死の山を登るつもりは無いし、私の目的でもない。


「お、そろそろ首都が見えてきましたよ。ここからは少し涼しくなるはずです」


 そう言いながら走りぬける馬車の中には、少し前とは違う風が吹く。どうやら緑の国と同じく、首都周辺の整備はしっかりと整っているのだろう。所々に立つ外灯は青く光り、青い魔力と共に熱を中和させている。そして首都への検問はかなり厳重に管理されており、瞳の部分が黒く染まったゴーグルを付けた人達が走る箱もまとめて検査していた。


「荷物確認です。手続き書を」

「えーっと……すごいですね、これ」

「びっくりしました? 『ルチベルグ帝国』では鉱石が盛んに取れる環境もあって、鍛冶屋が多いんです。鉱石っていう重い物を一度首都に入れて武器や防具として他の国へ売り出したり、鉱石そのままで持って行ったとしても一度加工しやすいように要望にあった形で送る。加えて鍛冶の為の木材や質の良い物は買い入れる。そういう事を多く行っている国だから、他の国と同じにすると検問でどうしても詰まっちゃうって、ここまで広がった検問になったんです」


 鍛冶の多い国という事はリナ姉に教えられていたが、まさかここまで広い検問を取った上で並んでいるなんて。広くガッチリと組んだ石の道は、馬車5台が横に並んでも走れるぐらいの広さで、走る箱もこの道にくっ付いて馬車と共に並んでいる。


「……申し訳ありませんが、冒険者であればカードを」


 黒いゴーグルを付けた検問の人が身分確認を行う。ガーディッチ王国では無かったぐらいの厳しさ、それだけ規則が強いのだろうか。


「……ありがとうございます。確認が取れましたので、こちらをお返しいたします」


 冒険者カードを返され馬車の中にある荷物を一つ一つ確認する間、一番気になる事を検問に問いかける。


「あの。その黒いゴーグルのようなものは一体……?」

「これは長時間外の光で目がおかしくならないように、半年前ぐらいから広まった物なんです。国王様が正式に採用して、今では全員がこのゴーグルをかけています。ただ、どうやってこれが作られたかは私には何とも……」

「そうなんですか。答えてくれて、ありがとうございます」


 黒いゴーグル……あれが少し引っかかっていたが、出所は不明。理由や目的に引っかかりは無いが、単純にあれと()()()()()()()()()()()()()が似ているような、銃を分解した際のパーツが似ているような、そんな感覚だった。


「……よし。全ての荷物に問題ありませんでした。お手を煩わせて申し訳ありません、どうぞ『オブシディア』をご満喫ください」


 検問が終わった後に開かれる首都。そこには沢山の人で賑わっていたが、殺気がそこら中に散らばっているような状態に見えてしまう。


「検問が広い理由は話しましたけど、検問が厳しい理由は話してませんでしたね。この国はかなり特殊で、強い人こそ王に相応しいって考え方が根付いているんです。だからこそ『封印祭』で行われる大会で、一番強かった人間がその年の国王になるって物があって、それが理由で血の気が多い人がそこら中に沸いてしまってこうなっちゃいましたね」


 封印祭は年に一度に行われるお祭りで、この大陸『ファルセロス大陸』全土で行われる物だ。ガーディッチ王国でも勿論年に1度行われており、こちらは国王を賭けた大喧嘩みたいな事はせずに、普通の祭りとして盛り上がっている。一応他の国でも封印祭が行われているのは知っていたのだが、まさかそんな物騒な事を行っているとは思わなかった。更にこの封印祭も謎が多く、名前の由来はおろか誰が何を行ったからこの日を祝っているみたいな逸話が何も出ない。日程は決まって10月の第三木曜日に取り行うというのが決まっている反面、それにちなんだお話が何も出ないのが謎だ。


「まぁそれでも、現在の国王様は45年間誰にも負けずにずっと国王であり続けているんですけどね」

「45年!?」


 45年間負けていないのは、それはそれで化け物だ。私が言うのは気が引けるのだけど。


「現国王様よりも以前はもっと悪い空気だったんですよ? 私もここの出身なので分かるんですが、裕福と貧困の差が激しかったので、食うに困った人は賊に変わって馬車を襲う……それを兵士はシャードを貰って見て見ぬふりなんて当たり前でした。それが現国王様が付いてからどんどん変わっていって、今ではここまで普通に戻れたんです。血の気が多い人達って所には変わりがないんですけどね」


 そう言われて再度街を見渡せば、色々と見えてくるものがある。見周りの人達はある程度多く、露店なのに商品をあまり表に出さないこの大通り。少し目を奥にやれば、路地裏から見つめる濁った目の人達。これは、まだ――。


「それでも、まだ表面上だけ……」

「そうですね……未だに根っこまで取り除く事は出来ません。それで生きてきた人は戻れないんです……。それが今でも路地裏や街の一部で蔓延っていて、今もこの街を悪に染めています」

「何で、取り除けないんでしょうか」

「暗い時期が長すぎたんです……昔は生きる為の繋がりだったかもしれません。ですが今では黒い繋がりとなって残ってしまい、それがシャードの供給源になってしまっている……。そして力も付けているから手を出し辛いのが現状なんです」


 街の現状を聞きながら着いた馬車の宿。荷物を全て降ろして馬車の主に宿屋の場所を聞く。


「宿屋は大通りを真っ直ぐ歩けば看板が見えますよ」

「あの、色々教えてくれてありがとうございました」

「良いんですよ。私も話相手が出来て、飽きない旅路でしたので」


 色々とお世話になった主に感謝しつつ外へ出ようとすると、その主から最後の忠告が届く。


「くれぐれも、路地裏とかには行かないで下さいねー!」


 その言葉に手を振り返しながら赤の国へ、第一歩を踏み入れた。

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