第一章25話 『これまでとこれから』
「……それで、何があってこうなったのか教えてくれないかい?ベル君」
夜も更け、人も散り散りになった酒場のいつもの席。その席で黒く苦い飲み物で目を覚ましながらいつもの2人と話し合い――。
「ベル、お前あの森の依頼以降寝てないが大丈夫か?」
「大丈夫。まだ頭は回る」
実際人を外れた事実を認めて以降、睡眠をとらなくても支障があまり無くなった。だけど、睡眠をとらないと身体が少し動かし辛くなったり弊害も起きる。あくまで、支障があまり無くなっただけ……。
「それで……バンジャマンの様子は?」
「まだ眠っているよ。しばらくは起きないかもしれない」
元々バンジャマンに本の事を聞く為に色々動いていたが、これだと話を聞く事が出来ない……。情報はあそこ頼りだっただけに、色々と手詰まりになりそうだ。
「……あの時私と別れた後、何があったか教えてくれるかな?」
「それは――」
そして、全てを話した。バンジャマンに会おうと地図の場所を巡った事、その中で唐突に私を狙った事件が起きた事、バンジャマンの家にあった地下室の事、そこから作られた薬品を飲んでいた事を……。
「なるほど。家の方は明日、調査員を出して調べる。それで良いかルールー」
「あぁ、私も異論は無いよ」
バンジャマンの今後について、酒場側として2人が顔を合わせて意見を纏めている。それを尻目に出された黒い飲み物口に運ぶ。苦味が口に広がるが、それで目が少し醒める感覚を覚えた――。
「それでベル君? 君が襲われたという詳細を教えてくれるかな?」
「私も襲われた理由が分からない……でも、ジェフって言ってた」
「――ジェフ」
ジェフという言葉を聞いた途端に二人の顔が険しいものになる。これは、確実に何かを知っている表情だが、その情報を聞けるかどうか。
「ジェフって何?」
「……持つだけで危険な情報もあるんだよベル君。まぁ狙われた時点で話すべきなんだけど……こっちも色々あってこれは話せないものなんだ」
「そんなに危ない情報なの……」
まぁ、あんな狂気の目を作った何かがまともとは到底思えない。ましては喜んで自爆を選択させる事も、常軌を逸している。
「話せる範囲で伝えると、君は今とある人物をリーダーにした集団に狙われている。理由は……多分ベル君が今まで関わった誰かに関する事だ。その集団は君の記憶にある誰かの情報が欲しいが故に関わった君に狙いを絞っている状態……。今後、同じような事が何度も起こる事は心得てほしい」
「そのリーダーって人が……ジェフ?」
「そう言う事になる。酒場も王国も敵視している集団なんだが、尻尾は掴めていない。危険なのは、これを知った人間をどう言うわけか特定して消しに来る、その異常性。過去に俺もルールーも襲われているが、酒場という立場になってから襲われなくなった」
少しひっかかったような言い方だが、特に何も言えない。言える範囲の外かもしれないし……だけど、こんな爆破を起こす集団が酒場へ攻撃しない……? この違和感は忘れないようにしよう。何かの役に立つかもしれない。
「でも……私が欲しい情報のツテが無くなった……」
「ん? ベルは何か探しているのか?」
ウォーレンが少し心配そうな顔でこちらを覗いてくる。そこまで私が心配させるような顔をしていたらしい……。
「えーっと……とある魔法使いを探してて……」
「あー! ベルがバンジャマンをやたら気にしてたりしたのそういう理由か!」
「……ウォーレン。何か情報を持っているかい? 私も手伝うって約束しているんだ」
「バンジャマンが気になっている理由は多分魔術本なんだろ? あれ、赤の国で仕入れているんだ」
――赤の国。私達の所とはまるで別の場所らしいが、そんな国は知らない。
「ウォーレン……こういう時は別称で言ったらダメだよ。ベル君が混乱してる」
「あー……ごめんなベル。赤の国ってのは『ルチベルグ帝国』の別称だ。一応この国『ガーディッチ王国』も緑の国って別称があるんだけどな」
ルチベルグ帝国……私達の国とは違って鉱山が多い国で、炭鉱や鍛冶場が多い国。とは本に書かれていたが、実際がどんな国かは無論言った事が無い。
「ルチベルグ帝国か……そうなったら私の武器も説明しないとね。あそこで作られた特注品だし」
「――え?」
「この武器は魔術が使用されているんだけど、作った本人は魔術を使えないのと、この武器の製作者は自分の事を全く話さないから除外してたんだよねぇ……。こうなるなら先に言っておけば良かった」
そう言って酒場に置いていた武器をテーブルへ乗せ、パーツを取り外して手入れをしながら説明を始める。
「この武器は、とある職人が作った武器だよ。名前は『オーバン=マルチェンコ』で、自分の事を一切話さない職人肌の人間。私がマスターになる前に赤の国で鍛冶場を構えているオーバンに会ったんだ。かなり怖い見た目をしているが、話はしっかり聞くから悪い人ではないよ」
「そういえば……銃が壊れて――」
「あぁ、こっちは私の自作だよ? 魔術部分はオーバンが作ったんだけども」
そう言いながら手際良く壊れた部分の確認をしていくルールーさん。修復不可能であろうパーツを除いていき、残りと酒場から引っ張り出した同じ形のパーツで再度銃を組みたてていった。
「それで、本の出所も赤の国なんだよね? なら、ベル君の次に行くべき場所は――」
「ルチベルグ帝国……」
だけど、色々と私にまだ問題が残されている……。
「また何か考え込んでる?」
「……まだジェフの事が解決できてないのに私が別の場所へ行ったら」
「――襲われるだろうね」
私が襲われる事態には問題は無い、爆発にも耐えられる身体だから。だけど、そこに巻き込まれる他の人がもし殺されたりしたら……実際、あの偽物がもし私狙いだったら後に来たあの兵士達を巻き込んだ事になる。
「でも今度襲われて、私が守れなかったら……私のせいで……」
「君はあの集団を災害か何かと勘違いしてないかい? 悪いのは全部あの集団なのに、自分のせいだと考えるのは少しお人好しが過ぎるなぁ」
「でも――」
「確かに、君の周りに被害が出る可能性もある。だけど、君だって止められる力がある。現にベル君の一声で兵士2人は命を救われているだろう? それに、魔法使いに迫ればこれ以上の困難は絶対に出てくる。これくらいは越えないと、やっていけないよ?」
ルールーさんは何か含みを持たせながら、私の背中を押してくる。
「それに、君が今ここに留まっていてもバンジャマンが復活する訳でもなければ、カルラがいるわけでもない」
「ルールー! カルラの事は――」
「別に構わないよもう。この国で冒険者がやられたのに、カルラは私の管轄外に逃げ込んだ。少しぐらい追い討ちをぶつけてやりたいじゃない?」
「……はぁ。 もう、やりたいようにやれマスター……」
ルールーさんの言葉にウォーレンさんは完全に諦めた表情でうなだれる。酒場で言ってはいけない情報を私へ漏らすんだから当然ではあるが。
「丁度、カルラは赤の国にいるんだよ。君の言っていたマリオネットの一種に乗って、ね」
「マリオネットに乗る……乗る?」
「私に言われても、乗るも何も全部目撃情報でねぇ……とんでもなくでかい妙な生物の上にカルラの情報と同じ少女が乗っていて、それが緑の国と赤の国の国境で見かけられた」
何と言うか……なんでもありのような規格に心の中で呆れる感情が膨れる。そんなものもあるのか……。
「ベル君。君の目標は全部赤の国に向いているけど、それでも君はその場で足踏みをするつもりかい?」
「すごい煽るなぁルールー」
「……私も、赤の国へ行く」
これは決意。色々と複雑になってきたけど、私は私自身が作られた理由を知りたい。その部分は変わっていないから。
「……決まったようだね。と言っても今日はもう夜が深いし、流石に明日になるけど」
「そうだな……明日で良いか」
月明かりが照らす中、一種の対談が終わってそれぞれが別れる。でも、本当の理由は心の中に隠す。少しの間だけどここの人達にはお世話になったから……。ナーシサスでは追い出されるように別れたのもあって、別れる立場になった時どういう顔をしたら良いのかが分からない。だから、1人で外に出る。1人でいなくなる事には慣れてるから……。
「明日になったら、また色々と――」
「別れるのが辛くなるのかい?」
1人荷物を纏めて馬車のある場所まで向かう途中、ルールーさんが私の行動を見透かしたかのように立ち塞がった。
「――何で」
「やっぱり、こうすると思ったよベル君」
「私は……こういう別れ方しか知らないから」
「だろうね。だから、私はここにいる」
そう言って、私の頭をルールーさんは撫でて来る。その顔はすごく優しくて、暖かさを感じた。
「全く、別れたからって私達がいなくなるって訳じゃないのに」
「でも――」
「私は忘れないよ。だから、困ったらここに戻ってくればいいさ」
「……うん」
馬車が来るまで少しの間抱きしめられ、頭をワシャワシャと撫でられる。髪が少し乱れたぐらいで、馬の声と走る音が遠くから聞こえ、
「……そろそろ来たようだね」
「もう、髪がグチャグチャだ……」
「たまには良いだろう?」
そう少し談笑を混じりながら馬車の到着まで待つ。そして馬車へ荷物を詰め込み、出発の合図と共に馬車が走り出す。
「本当に困ったら力を貸すから戻っておいでよー?」
その声が馬車の音で掻き消えるまで走り出す――赤の国『ルチベルグ帝国』へ。




