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0と1のレプリカ 〜機械少女の冒険譚〜  作者: daran
第一章 始まりの国
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第一章24話 『救世主』

 抉れた地面まで身体が転がりこみ、土埃まみれの身体を起こしながら短剣を抜く。だけど動けない……それは相手も同じで、殺意に似た圧力で静寂が作られる。その圧を放った張本人はあっけらかんと私のいるクレーターまで降りてきた。


「……それで、何がどうなってこんな事態になったか、少し教えてくれるかな?」


 少しため息交じりの怒り声で、私へ問いかけてくる。バンジャマンはもう既に左腕の侵食が進み、顔が全て包まれて誰か分からない状態。傍から見たらバンジャマンを助けると意気込んでいた人が、何故か正体不明の何かと戦って当のバンジャマンは行方不明。色々と誤解を産んでいそうだ。


「手早く言うと、あれがバンジャマン」

「――は?」


 流石のルールーさんもあの人を外れた存在がバンジャマンと知り目を丸くする。同時に、圧力が無くなった事でバンジャマンが明確な怨恨をこちらへ向けた。強さへの欲望、そしてそれを持っていた私達への恨みの瞳。バンジャマンが馬車で見せた眼光と同じものを向けられた事でルールーさんも少し納得しつつ、


「なるほど……分からない事は多いが、そういった時間が無さそうだ」

「殺ス! オ前ラ殺ス!」


 バンジャマンは溜まった力を吐き出すように、圧力で抑えられた敵意を膨張させていく。いつ破裂して襲ってくるか分からない状況で油断が許されない中、ルールーさんは表情を変えずに一つだけ私に問いかけた。


「ベル君……君は、ああなったバンジャマン君をまだ助ける意思はあるかい?」

「当然! ここで諦めて後悔したくない!」


 私の答えにルールーさんの口角が少し上がった。


「……じゃあ私も手伝わないと、ね?」

「どうして……?」

「私がベル君を焚き付けたんだ。尻拭いぐらいはするさ」


 ルールーさんは大剣と銃を取り出し、バンジャマンへ向ける。その瞳には何かを決意したような強い眼光で、表情も真剣なものだ。


「ァァァァアアアア!」


 剣を向けられたバンジャマンはその敵意を破裂させ、蹴り砕く地面と共にクレーターの中心まで全速力に向かう。


「ベル君! バンジャマン君を助けるには、あの人を外れた部分を思いっきり叩き切れ!」

「でも――」

「私の言葉を信じて!」


 その言葉を裂くように私達の間へバンジャマンが入り込み、ルールーさんに迫りながら私へ刃の魔術を唱え始める。狙いは私よりルールーさん……なら――。


「こっちっ!」


 ルールーさんを狙う事で開いた右脇腹へ振りかぶった一撃。魔術には紋様が繋がるまでの時間がある上に、私の動きも全て見てきたはず。なのに、あえて魔術を私へ撃とうとした……つまり、私達を相手にした事で対処出来ない隙が生まれた事を意味する。その隙は見逃さない――!

 右脇への一撃に苦悶の声を漏らすが、それでも無理やりバンジャマンは左腕と私へ向けた魔術を作動。再度地面に黒い炎が走り始めて、私への黒い刃が飛んでくる。だが、それを見越していたのか突如としてルールーさん側から光を放ち始めた。


「ハァッ!」


 大剣には白い光が纏いながら左腕に振った途端、全ての黒を消すかのようにバンジャマン本人の腕が現れる。その腕は人を捨てる前に見た怪我と全く変わらず、寧ろ血が止まって少し皮膚が再生したような印象を受けた。どういう事だ……? 腕から出血した際に黒い血が流れ始めてああなったのに、あの腕から常時血が流れていない。腕から黒い炎を纏ってるからには大量の怪我があるかと思ったのに、それも無し……。そして、増えた腕を切れという意味、何となく繋がってきた。

 そして、その影は再度腕を包むように戻っていき、地面を走っていた黒い炎はバンジャマンの身体へ戻って腕に灯る。そのまま、身体を捻り今度は私の方へ左腕を振りぬいてきた――。


「オ前ダアアアア!」


 だけど、左しか使われないのなら避け切る事が可能。そして、雑な大振りは――、


「カウンターに弱いっ!」


 厄介な黒い炎もルールーさんという対処方法が出来たからにはもう……バンジャマンには勝ち目が無い。執拗に相手の人部分を殴り、相手をひるませていく……。


「――っ! 硬いなぁこれ!」


 私へ構っている間に後ろから鳴り響く金属音。何度も何度も影を消した光と叩いた音が響くものの、バンジャマンは私への攻撃に反応を起こすだけで、裏で起こっている事柄には見向きもしない。だがその反面、バンジャマンの増えた腕からは黒い液体が地面を濡らしていく。


「ベル君! この剣使っていいから立場交代!」


 黒い炎に触れているはずの大剣はその姿を保ったまま、こちらへ投げられる。だが、それをバンジャマンは許すわけも無く――。


「オマエカラダアアアアア!」


 どんどん侵食が進む身体で、私をターゲットに絞り込む。大剣を受け取る地点を狙われ、振りかざされた拳を咄嗟に大剣で受け流す。


「その剣はグリップを思いっきり握れば魔力が溜まる! その間に攻撃を食らったら魔力が漏れて身体ごと吹っ飛ぶけど、貯め切れば強力な一撃に変わる!」


 相手の攻撃を受け流しながら、ルールーさんから武器の説明を受ける。グリップを握れば剣があの光を放って、強力な一撃を出すが、その間は攻撃を受けちゃダメ……。相手の注意が全部私へ向いた今、出来るだろうか。


「私の筋力でも無理だったけど、ベル君。君ならやれる! 私は動きを止める事に尽力を出すから!」


 私とバンジャマンの間に身を乗り出そうと動き、それに合わせて私はバンジャマンの攻撃を正面から受ける。正面からぶつかったので飛ばされるもののバンジャマンとの距離を作って、その間にルールーさんが入り込む。


「久々にこれを使うなぁ……」


 木の魔物の時に見た短銃を持ち出し、グリップの下部分にある何かをずらす。すると、茶色のもやがナイフ状の武器を作りだしていく。完成したそれは、石で出来たような近接武器。


「それで大丈夫なの!?」

「流石に、この剣は大丈夫じゃないよ……これ緊急用なんだから」


 そのやりとりには目も暮れずバンジャマンは私へ突撃。それに対して銃を両手に持って銃を構えるルールーさん。銃とはいえ、あの時の威力だと弓みたいに皮膚を裂く程度で終わりそうだが。


「本命は、こっちだ」


 言葉と共にトリガーを引く。空気の割れる音が周囲に鳴り響き、あまりの音に耳が痛くなるぐらいだ。それと同時にバンジャマンとルールーさんの身体が銃を中心に吹き飛ぶ。どうやら弾を塵に変えたが、衝撃までは塵に変えられずに吹き飛んだらしい……。ルールーさんは咄嗟にナイフ状の武器を長く伸ばして地面に突き刺し、吹き飛ぶ威力を殺していく。


「ベル君! 早く魔力を貯めて!」


 その破裂音と吹き飛ぶ様を見て、グリップを思いっきり握り絞める。白いもやが剣に集っていくのが見えるが、バンジャマンはそれを見て再度私へ敵意を向け走り出す。ルールーさんもそれに対応して、赤く焼きあがった短銃を片手に棒の付いたパーツを取り外し、2発目を装填し始める。焼け付いた銃で再度撃とうとすると、銃が爆発する……本で書かれていた通りの銃なら、あの行為は危なそうだが。


「荒業だけど、この際あまり言ってられないねぇ」


 直後に水が銃を包み込み始め、銃を冷却していく。それと同時に棒の付いたパーツを短銃に押し入れ、右に回して固定させてさっきの状態まで無理やり戻す。だけど、本で読んだ通りならあの方法は――。


「飛べ!」


 再度放たれる空気を裂く破裂音。だけど、今度は空気と共に銃も弾け飛ぶ……。威力は少し落ちてしまったが、バンジャマンは前の威力を警戒して防御姿勢を取り、その場に留まった。それが時間を作りだしていき、ルールーさんも再度吹き飛んでいく。だけどそのまま、


「ベル君! もう大丈夫!」


 こう叫びながら転がり込んでいく。剣には眩い光が灯り、それは準備完了の合図となった――。


「終わらせるっ!」


 2回目は貯める時間を作り出せない以上、チャンスは一度きり。大剣は使いこなせていないが、そんな甘えた考えは通用しない。


「終ワリダアアアアア!」


 防御姿勢を取っていたバンジャマンは威力が無い事を知り、こちらへ左腕を振りかぶる。狙いは増えた左腕。硬さはルールーさんが全力で振りかぶっても無理……だから私の全力をかけるのは最低条件だ。考えなければいけないのは、残っていた腕ごと叩き切ってしまう可能性……選択肢は下からの振り上げ、そしてバンジャマンの腕の前に止める技術。この剣の魔力が切れてしまう時間が分からない以上、一合で決める。

 バンジャマンの拳に合わせて腰をねじりながら下へ潜る。手に力をいれず肩だけに力をいれて、鞭のように腕を振り回し、相手の増えた腕へ切り上げ――。


「アアアアアアアアア!」


 金属のような手ごたえを感じた瞬間に、大剣を止める為に逆方向――思いっきり降り降ろすように腕へ力を込める。切れたかどうかは分からないが、体勢を崩した私は剣と共に転倒。


「――バンジャマンは!?」


 咄嗟に立ち上がって目線をそちらへ向ける。すると黒い血を大量に吹き出しながら、保っていられない影から苦しむバンジャマンの顔が、それと同時に私の眼前へ叩き切った腕が降ってくる。そしてルールーさんは苦しむバンジャマンへ走り、手に持った液体の容器をバンジャマンの口元へ運ぶ。


「これで、終わりだよ」


 それを飲んだバンジャマンは黒い影を完全に消し、増えていた腕は抉れた傷口として赤い血を吐き出す。どうやら――、


「終わった……」


 長かったバンジャマンとの喧嘩は、あっけない最後と共に終わった――。

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